一、やっぱりちっちゃい辺境惑星レムルス
前回、あたし達はコードネーム『お届け物』というミッションをこなした。
ミッションといっても、ネットランナーのレッドちゃんの能力測定というシンプルなものだったんだけれど、何故か逆恨み的な襲撃を受け、無駄な戦闘がオプション追加されていた。
逆恨みして襲ってきたレッドちゃんのクローン的お姉さんは、あのあとめちゃめちゃ叱られたりしたらしい。
レッドちゃん達は同じ人から遺伝子情報をコピーした有能なクローンの集団。
帝国は同じ遺伝子を持ったクローンに対して同じ出生プログラムを使い、同じ教育プログラムを行うことで、希少な能力者を増やそうとしているんだとか。
だけど、それでも能力や性格には個人差が出てしまう。
それが課題になっているとかなんとか。
まあそりゃそうでしょ。
昔々人間がお母さんのお腹から産まれていた時代、ほぼ同等の遺伝子の一卵性の多胎児も似ている傾向があるものの、異なる性格や能力を持っていたって記録があるし。
当時のドクター達の偉大なる研究結果はあたし達にたくさんの知識を与えてくれる。ありがたやー。
今回のミッションは初めての実戦ってことになる。
……まあ、前回のミッションにも戦闘はあったんだけどね。あたし達のチームには。しくしくしく。
それはともかく、この辺境惑星レムルスには極小規模だけれど反乱分子の集団があるらしい。
その集団を捕獲護送、若しくは行動不能にするというのが、今回のあたし達の目的。
ただ、この『行動不能』という言葉は範囲が広いので、気をつけないといけない。
あたしにとっての『行動不能』は『五体満足精神正常での拘束』なんだけど……。
今回の指令を聞いたチームみんなの反応はバラバラ。
ブルーは『殲滅すればいいんだな』などという頓狂な事をほざきやがり、グリーンは『とにかく動けなくしてコンテナ室に閉じ込めればいいんじゃないでしょうか』と言い、レッドちゃんは……『うん』だけだった。
あたし達チームには意見の統一が全く無い。
普通はリーダーに合わせるってなるんでしょうけれど、残念、あたし達のリーダーは『うん』なレッドちゃんなので合わせる以前の問題になっている。
でも、そんなレッドちゃんってばクールでかっこいいわよねっ。
言葉多きは品少なし、おしゃべりにろくなやつはいないって大昔の言葉を聞いた事があるわ。
あ、前にあたしの故郷で『ドクターはおしゃべりですよね』なんて言われたけど、あたしのはおしゃべりじゃなくて楽しいコミュニケーションだから、そこんとこみんなに理解してもらわないとね。
寡黙なお医者さんって怖いでしょう?
やっぱり、色々話せて病状と治療法を明示してこそ優秀なドクターってものよね。
ということで、前回と違って今回は『何をするか』はしっかりばっちり教えてもらった。
けど、相手がどういう集団なのかは聞いていない。
……というか、グリーンにも相手がどんな人達かはわかっていないみたい。
まずはその人達を探すところから、ってことかしら……ふむぅ、ちょっと前途多難?
一応潜入捜査なので偽造身分証明書も作ってもらっちゃった。
渾身の天使の微笑写真付き。『マリア・フォフナー上等兵』と記載されている。
偽造だから当然、書いてあるのは偽名ってこと。
ただ、前回のあたしの可憐で華麗で壮麗な大活躍は評価されなかったらしく、肩書きは『上等兵』のままで偉くなっていない。くすん。
◆
モニターに映った惑星レムルスが大きくなっていき、着陸予定の宇宙港が肉眼で確認出来る程度になった。
グリーンが着陸態勢をとるべく準備を始めた。
自動操縦で問題無く着陸出来る筈なんだけど、安全の為手動機器も使うらしい。
「こちら帝国中央所属中級巡洋艦シュレディンガーです。着陸の許可をお願いします」
『ようこそ、こちらレムルス宇宙港管制塔です。シュレディンガーの着陸を許可いたします。誘導パルスに従って第二滑走路に着陸願います』
「了解しました。第二滑走路に着艦させます」
ゆっくりとお船が旋回する。
「やっぱりちっちゃーい」
辺境惑星の名に相応しく、レムルスの滑走路は三つしか無い。宇宙港も当然小さい。
勿論あたしの故郷の宇宙港もミニミニサイズなんだけど、アルカイックとヘカテ、首都と高級リゾート惑星の最大規模の宇宙港を見たせいか、より小さく見えるわね。
「離着陸は同時に多数行えませんからね。とは言え、ここは着陸後の格納庫も少ないですね。中型が二つしか無い。これだと入らない船もありそうですし、そもそも三台目は入る場所がなくて野外になってしまいます。船が可哀想です。これは早急な改善が必要です。船は保護されねばなりません」
明後日の方向に目を向けて、力説する緑。
「んでも、こんな辺境にそんなに大きなお船は来ないでしょ。それに複数のお船が来る事も滅多に無いと思うわよ。基本的に他惑星との付き合いが最低限しか無いんだから」
「そうなんですか?」
「そうよぉ。万が一超新星爆発が近くで起こったとしても助けなんて来ないの知ってるでしょ?」
「知識としては知っていますが、実際に辺境惑星を見るのは初めてなもので」
複雑そうな表情のグリーンを力づけてあげるべく、あたしはここで気の利いた一言をぶっ込む事にした。
いやん、仲間に気を遣えるあたしって、めちゃくちゃ天使じゃない?
「だから、前みたいにお船が炎上する心配は無いんじゃない。良かったわねぇ」
「うぐおっ!」
謎の呻きを発してコントロールパネルに倒れ込むグリーン。
あれぇ?
「ばっか! てめぇ、グリーンの心の傷を掘り起こすな」
「着陸、僕がやる」
「レッドちゃんありがとーっ! 助かるぅ」
「仕事増やすなよ、桃色頭」
ごっめーん。
まだ立ち直って無かったのねグリーン……。
んでも、人間もっと強くなんないと生きてけないぞっ、グリーン。
流石に火に油を注ぐ訳にはいかないので、取りあえず心の中で謝る事にする。
あたしの誠意はきっと伝わった筈。人徳で。
あと、そんな仁愛溢れるあたしを桃色頭呼ばわりしたブルーは、辺境惑星名物の野良犬と対峙してびっくりしてちょっと齧られると良い。
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