■プロローグ:チームのこと、そして銀河帝国について

 ばすばすばすばす!


 ううぅ……うっさいなぁ。


 ばす、ばす、ばす、ばすっ!

「うっさい! 他人ひとのカプセルを乱暴に叩かないでよぉ!」

 寝起きのぼんやりとした視界、睡眠カプセルの半透明な壁面の向こうに見えたのは、ブルーのしかめっ面だった。


「あと一五分で目的の惑星軌道に乗るぞ。五分以内に起きて、一〇分以内に乗員席に座っとけ」

「えー! 何でもっと早く起こしてくんなかったのよぉ!」

「お前、起きなかったじゃねーか。早くしないと吹っ飛んで壁に脳漿のうしょうぶちまけるぞ。じゃあな」


 ぶちまけるのは、いやあぁぁ。

 しぶしぶ睡眠カプセルから這い出す私。


 ……うう、予定到着時間より早いじゃないのぉ。

 まだ三時間四〇分しか寝てないわよぉ。

 あと二〇分は寝ないと、今日の睡眠時間が不足するじゃないのぉ。


 とはいえ、宇宙船おふねの壁に激突するのは嫌なので、ふらふらとコックピットに向かう。

 ……ああ、起きたらシャワーしようと思ってたのにぃ。

「睡眠不足ぅ……」


「惑星」

 レッドちゃんがモニターを指さしながら、コックピットに入ってきたあたしの顔を首を傾げて覗き込んだ。

 さすがあたしのマイハニー、心配してくれてるのねっ。

 ……あいかわらず無表情だけど。


「ありがとうレッドちゃん。あとで足りない分は寝るから大丈夫」

「お前、寝すぎなんだよ」

 ブルーがあたしとレッドちゃんの会話に割り込んでくる。


「四時間も寝るだとか、そのまま動けなくなっても知らねぇぜ」

「はぁ? 良い睡眠は美容と健康に欠かせないんだからぁ」


「二人とも。もうすぐ着陸ですから、おとなしく座っていて頂けますか?」

 操縦席から、グリーンの穏やかな声が響く。

 言葉は丁寧だけど、なんとなく神経質な感じ。


「はぁーい」

「了解です中尉」


 あたしはメインモニターに浮かんだ目的地、辺境惑星とされている『レムルス』を眺めた。

 銀河帝国の首都アルカイックからは程遠く、地球銀河系の端っこに位置している小さな惑星。

 北端と南端は真っ白く凍っていて、だから主要都市は赤道周辺に多いらしい。

 基本的な気候はやや温暖。すごしやすい気候。


 あたし達のお船の乗組員は四人。

 赤い髪に赤い瞳、弱冠一〇歳にしてコンピュータープログラミング職の天才ネットランナー『レッド』こと、レナ・リーヴァン少佐。

 緑の髪に緑の瞳、機械の専門家メカニック『グリーン』こと、ラウル・ルーディス中尉。

 青い髪に青い瞳、戦闘の専門家コマンダー『ブルー』こと、ジン・グラント軍曹。


 そ、し、て。

 ピンクの髪にピンクの瞳、ラヴリーな愛の妖精、可憐な淑女の天使、唯一無二の尊き命の守護者、医療の神であるドクター『ぴんくちゃん』こと、マナ・ファラウ。

 つまり、あたし!


 この四人は豪華絢爛華麗優美にミッションをこなすチームを組んでいるのだっ。


     ◆


 地球人と呼ばれる人々が太陽系第三惑星地球以外の太陽系惑星に居住出来る様になって数百年。


 ――宇宙光速航法。

 通称ワープ航法を手に入れてから飛躍的に宇宙への進出が行われた。


 太陽系を離れ

 他の星系の生物を見つけたり

 他の銀河系知的生命体に見つけられたり

 小競り合いを起こしたり

 和平交渉を行ったり

 協定を結んだり

 敵対が確定してしまったり。


 ……と色々な事態が起りつつも、地球人は銀河系の生命体の頂点に立つ事ができ、銀河帝国アポロニアを創設した。


 ――現在の皇帝は初代から数えて六代目になる。

 帝国制は完全に浸透確立し、銀河帝国人は完全に管理されているといっていい状態になった。


 無論、例外も少数あり、帝国制に反発し他の銀河系に亡命したり、帝国領内に隠れ済んだりしつつ反旗を翻す時期を伺っている反乱分子もいる事は事実である。


 帝国民は出生も管理されており、優秀な人材を遺伝子レベルで判定、受精も人工子宮で行い、かつて人類が数ヶ月に及んで体内で育てていた胎児を九〇日で育て上げ、最適とされる教育機関に送り出していく。

 大昔にあった、なりたい将来などというものは無い。進んだ機関の教育で職業につくのだ。


 その際、能力のランクによってその後の人生が決定する。

 ランクが高ければ軍部の中枢に採用されるし、低ければ底辺の仕事に着くしかない。


 ――そしてその事に疑問を持たぬように教育されるのである。

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