第19話  決着

その最終電車がホームに静かに入っていく。

夜中の運行と言うこともあり、乗客はほとんどおらず、静かで平和なひと時を感じさせてくれる。

ただ一つ。

最終車両を除いては。

最終車両の光景は異様そのものであった。

数十個のつり革はちぎれ落ち、床は赤い血で塗れている。車両の扉は大きくへこみ、座席のいくつかは陥没して壊れている。

そして、床には血に染まった十個のリング型ピアスが落ちていた。

ホームにゆっくりと止まった電車は、全車両の扉を開ける。

最終車両の扉も、他の車両と同じ様に静かに扉を開けた。

異様な空気が流れ出る。

先に出てくるのはどちらなのか。

そして、勝者は?

西牙丈一郎か。

香川浩介か。

ざっ。

と、まずは黒いスポーツシューズが降り立つ。

そして。

黒い革のズボン。

そして。

赤と白の派手なアロハシャツが現れる。

そう。

先に出てきたのは・・・。

なんと、香川浩介である。

両耳からは血を流し、顔面も数カ所切れて赤い血で塗れている。鼻は右にぐんにゃりと曲がり、左右の頬骨は骨折しているのか、ぼっこりとへこんでいる。

ホームに両足をゆっくりと降ろした香川浩介。

そして。

二・三歩前に歩き出すと。

上空を眺める。

両目を大きくカッと見開き。

口内を大きく膨らませ、血飛沫を空中に吐き出した。

ずしゃっ。

と、両膝から崩れる様にホームに倒れ込む。

その後ろから。

にゅっ、と。

西牙丈一郎がホームに舞い降りた。

上半身は裸である。

西牙は、倒れて意識を失っている香川を右肩に軽く乗せると、ホームに設置されているベンチにドズンと落とし、最終車両に乗っている車掌の所に向かった。

じゃり。

じゃり。

最終車掌に乗っていた車掌は、腰が抜けて車掌室から動けなくなっていた。

「あわわ・・・」

顎がガクガクと震え、歯と歯がぶつかり合ってカチカチと鳴っていた。

(殺される!殺される!)

車掌は下半身に脱力を感じて、さらに小便を漏らした。

西牙はゆっくりと車掌に近付く。

「迷惑かけたな・・・」

西牙はそう言うと、すばやく向きを変え車掌の前から離れて行った。

「あ、あ、あ、ありがとうございます・・・」

車掌は、わけのわからないお礼を述べていた。

人間は動揺したり、緊張で頭の中が真っ白になると、とんでもない言葉を発するものである。

その時がまさしくそれであった。

車掌は、西牙丈一郎の後ろ姿を眺めながら、先程の闘いを思い返していた。

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