第11話  暴力  

「さてと、次の階に行くか・・・」

西牙はそのままの姿でフロアの奥の階段に向かった。

カツン。

カツン。

三階に上がると扉があった。

西牙はその扉を軽く右足で蹴飛ばすと、ゆっくりとその部屋に侵入した。

机や椅子がたくさんあり、パソコンやファイルなどの事務用品がたくさん並んでいた。

人は誰もいなかった。

西牙はその部屋を軽く見渡すと、そのまま4階に向かう扉を見付けた。

扉を開けるとまた階段がある。

西牙はゆっくりと階段を上る。

カツン。

カツン。

4階に人間の呼吸する気配を感じる。

四・五人か・・・。

西牙は空気の流れをすばやく読んだ。

また扉があったので軽く右足で蹴った。

扉はその部屋の端の壁にぶっ飛んでいくと、轟音を響かせて床に落ちた。

「貴様何者だーーー!」

「手を上げろーーー!」

「コラァーーーーー!」

数人の男達があちらこちらで大声を上げた。

手には拳銃を持っている。

四人の男達が手に拳銃を持って、銃口を西牙の体に向けていた。

その部屋には、五人の男達がいた。

部屋は、奥に大きな机が置いてあり、手前には黒い皮製のソファが4個並んでいた。部屋の隅には、鎧兜や虎の毛皮などが飾られていて、極道事務所独特の情景を見ることができた。

「ククク、盛大な歓迎じゃねーか」

西牙は黒いズボンに両手を入れたまま動かない。

動けないのではない。

動かないのだ。

「お、お前・・・黒川を倒したのか?」

一番奥の机に座っていた男が言った。

このヤクザ組織の組長の様である。頭は禿げ上がり、白い髭を鼻下に蓄えていた。体格は大きかったが、腹が気持ち悪い程に前へ迫り出している。

そして、その声は震えていて、西牙に対して恐怖を感じているようだった。

「楽しませてもらったぜ・・・フフフ」

西牙は右手を口元にもっていくと、笑いを必死で堪える様な仕草をした。

拳銃を構えた四人の男達は西牙から目を離さなかった。

いや、離せなかったともいえよう。

西牙の肉体を見てそれぞれが驚愕していたからだ。

(な・・なんなんだ、あの体は・・・)

(筋肉で包まれている・・・化け物か・・・)

(今まで生きてきた中で・・・あんな肉体見たことがないぞ・・・)

四人の男達はゴクリと唾を飲んだ。

「お、お前は何が目的だ?金か?ワシの命か?」

一番奥にいた組長は声を震わせて言った。

西牙は、ズボンのポケットから一枚の写真を取り出した。

「この男を知っているか?」

西牙は指でその写真を弾いた。

写真は空気を切る様に空中を飛ぶと、組長の座っている机の上に落ちた。

「ん・・・・?」

組長はその写真を見た。

人相の悪い男が写っていた。

「だ、誰だ?これは・・・?」

組長は西牙の顔を見て言った。

その目は嘘を言っている目ではない。

「俺はその男がここにいると聞いたのだが・・・」

西牙は一歩前に出て言う。

「う、動くんじゃねーよーーーー!」

一人の男が叫んだ。

「ククク、動くなだと?お前に俺が打てるのか・・・」

西牙はその男にゆっくりと近付くと、銃口に自らの額を押し付けた。

「打てよ。ホラ」

西牙はニヤリと笑うと、その男の目を見た。

男の銃口が西牙の額にピタリと密着している。

もし、拳銃の引き金が引かれた場合、西牙の脳天に穴が開くのは確実である。

「まぁ、待てよ」

組長は静かに言うと西牙をじっくりと見た。

「本当に知らないぞ、こんな男は・・・。お前・・・誰かに騙されているのでは?」

組長は少し頬を吊り上げてニヤリと笑った。

その笑いは、西牙を馬鹿にした笑いであった。

その時。

すでに、西牙の体は空中に舞っていた。

目の前にいる男の両耳を両手で叩く。

部屋に大きな爆発音が鳴り響く。

どれほどの強打で叩けば、この様な爆音が響くのであろうか。

「うぎいぃーーーー!」

その男は両耳から血を吹き出すと、手に持っていた黒光りする拳銃を床に落とす。

その拳銃が床に落ちるまでに、西牙は左右に足を広げた。

左右にいた男達の手に当たり、拳銃が空中に舞い上がる。

そして。

西牙は両足を閉じると、そのまま後方に向かって力強く伸ばした。

後方にいた男の手に当たり、拳銃が床に落ちる。

この時点で、四丁の拳銃はまだ床には落ちていない。

そう、それほどのスピードで行われている動作なのだ。

西牙は体をぐるんと一回転させると、そのまま空中で拳銃を2丁掴んだ。

右手に一丁。

左手に一丁。

残りの拳銃は床に静かに落ちる。

「お前、一回死ぬか・・・?」

西牙は、組長の額に拳銃2丁の銃口を突きつける。

あまりの光景に組長は口をあんぐり開けたままである。

一人の男は両耳から血を吹き出し床に倒れて痙攣している。

残りの男達は、手を押さえて床に膝を付いていた。

そうなのだ。

全員の手首が折れ曲がっているのだ。

「あ・・・あぐ・・・」

組長は全身に悪寒が走るのを感じた。

恐怖・畏怖・怯え・弱さなどの感情が、一気に組長の精神を蝕んでいく。

「わ、わかった!俺が悪かった!許してくれ!なぁ?」

組長は顔面をくしゃくしゃにして叫んだ。

「本当に写真の男は知らないのだな?ここにはいないのだな?」

西牙は手に持っていた二丁の拳銃を組長の机の上に置いた。

「ああ!そんな男知らないし、見たこともない!」

組長は歯をガチガチと鳴らして言う。

「そうかそうか・・・。思った通りだな・・・ククク」

西牙はニヤリと笑うと体を反転させた。

「邪魔したな」

そして、そのまま部屋の出口に向かって歩き出す。

二歩。

四歩。

西牙は組長の目の前から離れていく。

(ば、化け物め・・・)

組長はゴクリと唾を飲む。

机の上を見ると二丁の拳銃が置いてある。

(今なら・・・殺せる・・・)

(な、舐めやがって!ヤクザを舐めたらどうなるか教えてやるぜ・・・!)

組長は汗ばんだ右手をゆっくりと動かすと、机の上にある拳銃を見た。

そして。

右手を拳銃に伸ばした。

動作は機敏であった。

最短距離を目測して、右手を拳銃に伸ばす。

(やった!)

組長は心の中で叫んだ。

机の上にある拳銃を右手で掴んだのだ。

そして、拳銃を持ち上げようとした時。

組長は驚愕した。

自分の右手の上に、いつの間にか西牙の左手が乗っていたからだ。

「あ、あ・・・・」

じょぼぼぼぼっ。

小便が、組長のズボンの裾から大量に流れ出た。

組長は余りの恐怖に失禁したのだ。

ありえない程のスピードであった。

「おい、何をするつもりだ・・・?」

西牙は組長の顎を右手で掴むと軽く押した。

ボグン。

異様な音が響き渡る。

「ぐひっつっーーーー!」

組長は下顎に激痛が走ったのを感じた。

「何をしようとしたんだ・・・お前」

西牙は言葉を一字一句静かに話すと、組長の両目を覗き込む。

「あ、ぐ・・・ずみまぜん!ゆるじで・・・!」

組長は涙を流すと懇願した。

下顎が外れて後方にずれている。

痛みさえも感じない程の恐怖を、組長は味わっていたのだ。

西牙は右手の人差し指をゆっくりと突き出した。

ずぼっ!

西牙は組長の左目に人差し指を突っ込む。

「いやあぁぁーーーーーー!!やめてでぇーーーー!」

組長は体を左右に動かしたが、右手を押さえられているためにほとんど動けない。

「ククク、何をしようとした?」

西牙は、組長の目の中に挿入した人差し指をぐちょぐちょと動かして問いただす。

「あ!あ!あなだを殺そうとじました!ずみまぜん!」

組長は口から涎を垂らし叫んだ。

「いい子じゃねーか。最初から正直に言えばよかったものを・・・」

西牙はそう言うと、右手の人差し指をぐるんと回して引き抜いた。

ぶちぶちぶちっ。

ぼとっ。

机の上にどろっとした白い物体が落ちる。

「あ・・・あ・・・あ・・・」

組長は机の上に落ちている白い物体を見た。

なぜか両目の焦点が合わない。

だが、じっくりと見てみる。

眼球である。

そして、すばやく左手で自分の左目をまさぐった。

ない。

目玉がなく、左手の指が目の中にずっぽりと入るのである。

「あ・・・目が・・・・」

組長は声を震わせて机の上にある自分の眼球を掴んだ。

「ぎやあああぁぁぁーーーーーー!」

大声で叫ぶと、慌ててその眼球を左目の中に押し込んだ。

でも、見えない。

視界が真っ暗のままである。

当たり前である。

なぜなら、視神経自体が眼球と共に引き千切られていたからである。

「あばよ・・・ククク」

西牙はそう言うと部屋の出口に向かって歩き出した。

その背中からは、危険な香りがまとわり付くように出ている。

「あああぁぁぁーーーーーーーーー!」

部屋の中からは、組長の泣き叫ぶ声が永遠と響いていた。

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