第16話 3つの時代
原桜子先生が到着したハイリ星は、谷内くんが到着したハイリ星より、ずいぶん前の時代だった。この頃のこの星の人類は、言葉を発せずとも表情や仕草で会話のようなコミュニケーションがとれていた。というより、それがごく自然で、野生から離れ、自然と向き合うことを忘れた地球人だけがこの能力を失ったのだ。ハイリ星では、言葉ではない、この心の声のような感覚を、玉(たま)と呼んだ。オハイリナサイというのは、日本語でいうところのオカエリナサイという意味のハイリ星の言葉。言葉であえて伝えたい時には言葉を用いることもあるが、基本的には、玉を表情や仕草で伝えることがハイリ星のコミュニケーションだ。原桜子にオハイリナサイと声をかけたのは、ハイリ星の子供達。
これには訳がある。
原桜子は、ハイリ星のナオミチャンと瓜二つなのだ。実は原桜子が穴から出てくる少し前、ナオミチャンが穴に入ってしまって行き違いになっていた。いなくなったナオミチャンがもどってきたと思われたのだ。ナオミチャンは、時空を超えて遠い昔の地球に飛んだ。
谷内くんは、ハイリ星の森の中で、自分が不思議な体験をしていることに最初は興奮していたが、やがて森を抜け出せず、体力が失われていくと次第に怖くなった。辺りが暗くなり始めるとがむしゃらに走ったが、深い森は谷内くんを閉じ込めるように闇に包んでいった。大きな木のふもとに倒れるようにもたれかかり、死んだように眠った。どれくらい寝ていたかわからないが、気がつくと、まだ空は暗くて、星が溢れていた。星は、まるで金の水滴が夜空にこぼれ、はじけたような形をしていて、谷内くんは、ここは地球ではない、、、と悟った。
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