第35話 神父の理解なのじゃ!

 ギルの発言を受けてルルが驚愕に目を見張る。


「なんじゃと!」


「何を馬鹿な、ルルちゃんも惑わされちゃ駄目だよ」


「大丈夫じゃ!ばっちゃがそんなこと思うわけないんじゃよ!」


 驚きで固まっているルルにバアルが冷静に声をかける。

 ルルも驚くことは驚いたがばっちゃがそんな人ではないと理解しているため、すぐに持ちなおし全幅の信頼を寄せた笑顔をバアルに向ける。


 ギルはその反応を見て、ここまで信頼関係を築いておきながら、なぜこのようなことをするのかまるで理解できなかった。子が親を無条件で信じている反応だ。この関係は積み重ねた信頼がなければ無理だろう。

 だから聞く、殺したいわけではないのかと。何か他の理由があるのかと。


「ではどう言った理由で置き去りにしたのか、冒険者にさせようとしているのか、納得のいく説明をお願いします」


「決まっている、才能が有り、実力が有るからだ」


「そんな褒められると照れてしまうのう!」


 ギルが責めるように聞けば理由にならない理由が返ってくる。ルルも信頼している大人に褒められて喜んでいるが、危険すぎる。才能があるのはまだいいが、6歳児を指して実力があるなどと言っているのだ。


「……本気ですか?」


「当たり前だ」


「……わかりました、おかえりはあちらです」


 本気で言っているのかと確認すれば、先ほどルルであれば森に置き去りにしても問題ないと言いきった時と同様に、そうであることを信じて疑わない返答。

 ここまで来てギルは理解した。バアルはルルを殺そうとしたわけではないと。


 バアルはルルを信じすぎているのだと。


 親が子供を信じ、子供も親を信じる。美しい信頼関係であるが、行き過ぎれば害にしかならない。親も子も、過ちを犯せば嘘も吐く人間なのだ。

 特に子供はまだ未熟なのが当たり前の存在。それをこの子には実力があるからなどと森に置き去りにするなどと、我が子可愛さに目が曇りすぎている。

 このままでは愛ゆえに殺すことになろう。むしろ森を抜けてこの村に着けたことが奇跡だ。普通なら死んでいる。


「本気であるのならなおさらお話しになりません。ルルさんは私が預かります、お引き取りを」


 ギルはルルとバアル双方のためにも距離を置かせることが大事であると結論を出す。


「ハッ……それが狙いか、薄汚い猿め」


「なんですか?」


 だがもちろんバアルは納得をしない。それどころか最初に感じた不信感を表出させギルを責めたてる。


「何だかんだ言っていたが結局はルルが欲しいだけであろう。ルルにこんな卑猥な格好をさせているわけだ」


「ひわい!?わしひわい!?」


「んーそんなことないよーすっごく可愛いよー」


「あ、可愛い?わし可愛い?」


 ルルがショックを受ければフォローのために激甘の対応を返すバアル。誰がどう見ても親馬鹿だ。ギルは先ほどの考えに確信を持つ。


「こんな純粋なルルに変なことを吹きこんで自分の物にしたいのだろう、貴様のような奴が考えることはお見通しだ」


 バアルは倒錯した趣味を持つ神父が誘拐を企てているのだと本気で思っている。これでは例えこの場で引いたとしても連れだされることは想像に難くない。

 譲歩が必要だった。


「わかりました、そこまで言うのであればこうしましょう。ルルさんは教会で預かりますが、バアルさんが持つ私への不審が消えるまで、教会に居候して結構です。どうでしょうか」


「……ルル次第だ。私もルルもここにいる理由などないのだからな」


 ギルが譲歩し提案をするがそれをルルに丸投げをするバアル。


「わしが決めていいのかや?ならばここにいるぞ!まだ探検が終わってないのじゃ!」


「そうかそうかー!ルルちゃんがそうしたいならそうしよう!」


「ではそのように」


 ルルとバアルのやり取りをみて、やはり危険だなと再確認をするギルであった。

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