第301話 園児・孤児・女子高生 VS 不良中年 = 仏・神主・住職 VS 悪鬼神・・・その4

かわいらしい観音様効果が早速現れた。と言っても近本を引き寄せられたわけじゃない。


「ね、ね、お姉ちゃん。このお人形、お姉ちゃんが置いたの?」


わたしが小さな粘土細工の観音様を置いた地蔵堂の前を通りかかると、真世ちゃんよりも更に一回り小さな女の子から声をかけられた。


「そうよ。これは観音様。でも、どうして分かったの?」

「だって、お姉ちゃんのリュックについてるのとおんなじ」


あ、そうだ。わたしこの観音様があんまりかわいいからキーホルダーみたいに紐を通してリュックにぶら下げてる。ばち当たりかもしれないけど。


「ねえ、お姉ちゃん。どうしてここにそんなの置いたの?」

「えーとね。とっても悪い神様がね」

「え、悪い神さま? 神様ってみんないい人じゃないの?」

「うーん、悪鬼神って言ってね。中には悪くて怖い神様もいるんだ」

「あっきしん・・・」

「でね。その悪い神さまが街の中でいたずらできないようにこうやって観音様を置いたんだよ」

「ふーん、そうなんだ・・・ねえ、わたしもこれ、欲しいな」

「え。えーと・・・」


予備はないからなー。ま、いいや。


「はい、これあげる」


わたしはリュックの紐を解いてわたしの観音様を手渡した。


「わ、いいの? お姉ちゃん?」

「うん、いいよ。あなた可愛いからあげる」

「ありがとう。ね? 結んで?」

「ん? ああ。このバッグでいいの?」

「うんっ!」


女の子は夏の涼しげな洋服に白いソフトハット、そして小さなモスグリーンのエコバッグを持っている。エコバッグの中に刻み海苔、ハム、それからお酢。


「お使いの帰り? えらいね。お昼は冷やし中華?」

「当たり!」


じわじわとセミの鳴く地蔵堂の前でしばし汗を滲ませながらわたしは観音様をその子のエコバッグに結んであげた。


「年中さん?」

「そうだよ。お姉ちゃんは?」

「高校3年生」

「お名前は?」

「もより」

「じゃあ、もよちゃんだね。わたしは、ひなた」

「じゃあひなちゃんだね」


ふふっ、と2人で笑いあった。


ずっと、世の中のみんなが、この子とわたしのように過ごせたら・・・

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