第300話 園児・孤児・女子高生 VS 不良中年 = 仏・神主・住職 VS 悪鬼神・・・その3

わたしとシイナは意表を突いた策を練った。


「シイナ、近本の行動パターンを見てると『最初からいた』っていう出現の仕方がほとんどだよね」

「うん。それこわたしが宮司様を亡くした時も・・・」

「しかも『最初からいた』ってことでその場における状況設定が全て近本に都合のいいものに出来上がってる。準備万端で登場するわけでしょ」

「そうね。悔しいけど、悪鬼神だろうがやっぱり『神』だよね」

「ならさ、その手口を『無し』にしてやろうよ」

「え? どうするの?」

「わたしらの方が『最初からいた』ってことにするんだよ」


わたしはお昼寝から起きた真世ちゃんに声をかけた。


「真世ちゃん、図工したくない?」


・・・・・・・・・・・・・・・


真世ちゃんに『図工の宿題』を伝えたあと、5人組みんなに学校に近いファミレスに集まってもらった。LINEでは到底伝え切る自信がなかったので。


「みんな、受験勉強中断させてごめんね。どうしてもみんなの力を借りたくて」

「う、うん。それはいいんだけどね。その・・・ええと・・・」


学人くんが遠慮がちに言うとみんな同じ意見のようで複雑な表情をしている。仕方ないのでわたしが促す。


「長野先輩、一瞬だけ食べるのやめて自己紹介してください」

「ん? ああ、そっか。みんなわたしのこと知らないもんね。北星高校OGの長野でっす。大学では仏教美術やってるよ。よろしくねー」


皆さん覚えておいでだろうか。わたしが大学進学を考えるにあたって担任のさゆり先生に紹介してもらった、大学デビューで超個性的に変貌した長野先輩だ。

そして期待を裏切らずにかき氷とトーストを注文し、かき氷そのものを挟んだ『ホット・アイス・サンド』を自らテーブルで作り出してご満悦だったのだ。


長野先輩はそのまま、


「キュートな観音様、作ってね!」


と一言言ったきりでまたホット・アイス・サンドを食べ始めたのでわたしは取り上げた。


「ジョーダイちゃーん、溶けちゃうから先に食べさせて?」

「しょうがないですねー。じゃあわたしからみんなに説明しますよ」


みんなに一通り概要を説明した後、ちづちゃんがごく常識的な質問をする。


「もよちゃん、つまり長野先輩がデザインしたこのかわいらしい観音様を粘土で作る、ってことなんだよね」

「うん、そう」

「もよりさん、一体なんのために? もちろん僕らはもよりさんの力になりたいからできる限りのことはするけど・・・」


ジローくんの追加質問に長野先輩が、氷が沁みたような表情で自ら回答する。


「魔除けにするんだって!」

「魔除け?」

「あの、ジローくん、正確には魔を除けるんじゃなくって欺くというか。魔を謀略にはめるためかな」


結局本格的な説明をわたしがした。


「なるほど。つまり近本が一番乗りのつもりが実は『観音様』が誰よりも先にいたという」

「うん。だから、長野先輩デザインの観音様をみんなで粘土で作って、長野先輩に大学に持ってって素焼きにしてもらって。それで、この街の近本が出現しそうなポイントにこっそり観音様を置いておくの」


長野先輩がへへん、と自慢げに補足する。


「なんでもいいってわけじゃないのさ。わたしがデザインしたこのかーわいーい観音さまのとおりに粘土で作ってね。わたしが指南してあげるから」

「え? 今、ここでですか?」

「えーとキミは学人くんか。そうだよ、わたしだって暇じゃない。さっさと作ってわたしに100体ちょうだい」

「100体・・・1人20体か・・・」

「でも、お店の邪魔にならないかな?」


ジローくんが言うと長野先輩が、はっ! と手を振った。


「だいじょーぶだいじょーぶ。さっきちゃーんと許可とっといたから。騒ぐわけでもなし、って駄々こねたら通してくれたよ」


みんな不安な気持ちを持ちながらも作業を始めてくれた。


「はい、ダメー。ここまでタレ目じゃないよー」


長野先輩の要求は厳しかった。まるで海賊版を作らせまいと躍起になる当局のようだ。


こんな長野先輩だけれども久し振りに御本尊を拝みたいとさっき咲蓮寺に来て自己流で作った真世ちゃんの観音様を見た途端、『参りました』と真世ちゃんに手をついてた。

やっぱり仏のひ孫は違う、ってことなんだろう。


こうしてみんな一致団結して作った100体の観音様を長野先輩が大学の窯で焼き上げて咲蓮寺に持ってきてくれた。


「わあ・・・」


真世ちゃんとわたしは感嘆の声をあげる。


「かわいーね、もよもよ」

「うん・・・ほんとにかわいい」


100体と、真世ちゃんが作った1体。


御本尊に向かって手を合わせるような形で本堂の床に並べ、これからお師匠がお経を上げて『魂』を入れてくれる。


「何卒我らが赴く地での戦いを有利に進めさせ給え」


お師匠の祈願に続いてシイナ、わたし、真世ちゃんは手を合わせた。


そして、ヒグラシの鳴く夕涼みの時間帯。


わたしたちは手分けして街じゅうのありとあるスポットに観音様をそっと置いて来た。



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