第279話 静かなるお勉強会・・・その1
教室は異様な喧騒に包まれていた。
「なあ、この問題さ・・・」
「話しかけないでっ! 一言喋る度に暗記したこと忘れてくのよっ!」
「ケントウ使って何を検討するんだっけ?」
「中学に帰れ!」
「夕べ数学の問題やってたつもりが実は生物の問題だったんだよ」
「俺、ここんとこ7時間しか寝てなくてさあ」
「ネットで英単語調べたら架空請求が来ちゃったんだよね」
一応北星高校は進学校のはずだ。
上記のやりとりはみんな錯乱しているだけだと考えたい。
まあ錯乱する気持ちも分かる。
来年受験を控えたわたしたち二年生は、一年・二年生の学習範囲すべてに関する学年実力テストを今日・明日と二日間で受けるのだ。
よくテスト前の合同勉強会を誰かの家で開催して男女が勉強を教えあって親睦を深めるといった風の小説やマンガがあるけれども、あれは妄想でしかない。
100歩譲って合同勉強会をやるとしても図書館、喫茶店、ファミレス等公共の場で行い、勉強を教え合うのではなく、勉強し続けるよう監視し合うことを目的にすべきだ。
教え合う以前に、まず自分の脳内で勉強しないことにはどうにもならないからだ。
ところが、学人くんが、意図もたやすくこうつぶやいた。
「ねえ、誰かの家で勉強会しない?」
わたしはすかさず反応する。
「だめ、だよ。人間は生まれてくるときは1人ぼっち、死んでいくときもひとりぼっち。勉強も1人自分の脳でやらないと」
「すごく深いけど、でも家に帰ったら不安で勉強が手につかないと思うんだよね」
「うん。わたしもその気持ち分かるよ」
おや。ちづちゃんまで。
「誰かの家だと迷惑だろうから、ファミレスとかで時間決めてやっていかない?」
空くんがそう言い、ジローくんも激しく頷いている。
うーん。やっぱりそうなるか。
まあ、仕方ないよね。わたしはお師匠に、晩御飯の準備が少し遅くなるという旨のメールを入れた。
・・・・・・
「あれ?」
初日のテスト終了後に学校から一番近いファミレスに五人組でぞろぞろ行くと、すでに北星高校の生徒で満席だった。
「みんな考えることは同じだね。どうしよう?」
ファミレスの他はカフェもハンバーガー屋も近隣にはない。
うーん、と唸るみんな。
しょうがないなあ。
「あのさ、わたし一箇所場所を貸してくれるあてはあるんだけど」
「へえ。もよりさん、どこどこ?」
「まあ、貸しスペース的なところ」
「ああ、よくあるよね。街中のフリースペースでパソコンの電源も取れたりとか」
「じゃあ、そこに行こうよ」
「その前に念のため。みんな、集中して勉強したいんだよね?」
「うん、もちろん」
「勉強だけしたいんだよね?」
「え。まあ、さすがにもぎりぎりの状態だからね」
「うん。よくわかったよ。じゃあ、行こう」
みんな怪訝な顔をしている。
わたしはちゃんと確認とったからね。
騙した、とか言っちゃやだよ。
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