第266話 クリスマス・フィードバック・サンタボーズ・・・その9
生放送のスタジオに来ているオーディエンスたちも知らされていなかったのだろう。松野シクロの名前をコールされただけでけたたましい拍手と歓声が、深々とお辞儀したままの少女に浴びせられた。
すべての楽器を一人で演奏し、プロデュースもエンジニアも自分でこなしてレコーディングするアーティストにして詩人。更に自らのファーストアルバムをサウンドトラックとして映画を製作した監督であり主演女優。
ずっと以前、アメリカにこういう天才ミュージシャンがいた。けれどもその天才ですらそれをやった時は20代だった。
松野シクロは、14歳である、ということも含めて既に別格の扱いをこの日本という国で受けているのだ。
けれども、歓声はすぐに悲鳴に変わった。
「えっ!」
という声をオーディエンスのほぼ全員が同時に漏らした。
お辞儀を解いてすっと直立した姿を見せた松野シクロのその顔は。
後期高齢者の顔だった。
それも、「おばあちゃん」という愛嬌の要素を持つものではない。
『老婆』
こういう表現しかできない顔だった。
カメラがぐっと寄ってアップの顔がテレビに映し出される。
シワどころか垢が乾燥して白くなっているのではないかと見える皮膚。
窪んだ眼孔の奥にどろっと鈍い光を吸い込む眼球。
唾液が泡となって浮かんでいるしまりのない口元。
鼻腔からは若干の緑色をした液体が滲んでいる。
口を少し開くと、歯が全てない。
スタジオ内が、おののいている。
「もより。これは、なんなんんだ?」
お師匠すら驚愕の表情を見せている。
わたしはニヤッと笑って答える。
「本当の天才は、ちづちゃんだよ」
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