第265話 クリスマス・フィードバック・サンタボーズ・・・その8

「お師匠。ケーキ食べよっか」

「そんな気になれない」

「またー。何事にも動じないお師匠らしくないよ」

「もより。私は任せた以上は口出ししないようにしてきたが、テレビに出ることまでは聞いてないぞ」

「話してないもん」

「学校には報告したのか」

「え。そんな義務ないでしょ」

「確かにそうだが・・・」

「お師匠それにね。今回はちづちゃんのアイディアがとてもすごくてね。感動さえすると思うよ」

「ん? 千鶴さんが?」

「そう」

「そうか・・・ならば少し安心できるが」

「うわ、なにそれ。弟子を差し置いてえこひいきだよ」

「そう言うな。私は彼女には一目置いているのだ」


分かる気がする。

ちづちゃんは辛酸を舐めても誠実に生きるっていうことを体現してきた子だ。お師匠はちゃんとそれを見抜いている。わたしもちづちゃんを大事に扱ってくれるお師匠を見て嬉しくなる。


「ほら。そろそろ始まるよ」


クリスマスイブの夜中。

お師匠とわたし2人という侘しい組み合わせで居間のテレビを見る。

奈月さんや5人組が会してパブリックビューイングをしようという案もあったけれども、それぞれの家で静かに過ごそうという結論に落ち着いた。


「アブねいやつら、始まります」


番組司会の売れない作家、フィックさんと、売れないロックバンドのヴォーカル詠歌えいかさんが軽やかにスタジオに登場する。


「ということで、クリスマスイブにつき生放送です。題して、『アブねいさみしーやつら』クリスマススペシャル」

「フィック、ちゃんといい映像揃ってるんでしょうね」

「なんとサンタコスプレの女子高生も登場するから」

「へえ。サンタコスプレ!」

「キワどいルックスの人種しか登場しなかったからね今までは。今夜は期待できるよー」


お師匠がじろっとわたしを睨む。


「もよりのことか」

「まあね」


ちょっとだけ自慢げにえへんという顔をしてみる。お師匠は苦虫を噛んだような表情だ。


1時間の放送枠でしかも生放送なのでサクサクと進行する。あっという間にわたしたちの話題の番になった。


「いじめやってる人いませんかー!」


街頭で怒鳴るわたしといじめっ子を論破している映像が冒頭に流れる。それからその場でのインタビュー映像が流れた後でメイドカフェの映像になった。


「ナッキーでーす」

「もよもよでーす」


このあたりはさすがに恥ずかしくて画面から視線をそらした。お師匠は追い討ちをかける。


「スカートが短すぎる」

「しょうがないじゃない。借りるしかなかったんだから」


そして、奈月さんが手首を見せる映像。


「ほう」

「どう? お師匠」

「この子もすごい」


お師匠はテレビ画面の奈月さんの映像に手を合わせた。ちょっとびっくりしたけれども奈月さんのしたことはそれほどのことなのだと改めて理解できた。


滞りなくわたしたちの映像は終了。

お師匠が席を立とうとする。


「ちょっと待って」


わたしはお師匠を引き止めた。


「続きがあるんだ」


お師匠がもう一度腰を下ろすタイミングでフィックさんが立ち上がってコールした。


「ではここで本日のサプライズゲストでーす」


アップテンポの曲が流れ、ゲストがスタジオに入ってくる。


「松野シクロさんでーす。どうぞー!」


14歳の凛々しい少女が丁寧にお辞儀をした。

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