第261話 クリスマス・フィードバック・サンタボーズ・・・その4

「『アブねいやつら』っていう番組なんですけどお話してもいいですか?」


来た! やっと来た! わたしはこういうのを待ってたんだよ!

サンタの格好で街角に立ち続けて2週間、師走に入りとうとうわたしの目論見通りになった。

ネットやSNSはチェックしてた。わたしも一応発信してたし。

わたしの画像を無断撮影して拡散するツイートもばんばんあって、いい具合に認知されてるって思ってたけど、決め手に欠いていた。なんだかんだ言ってもマスメディアに取り上げてもらえないと老若男女を巻き込むことはできない。

古の僧侶たちが石を投げられても路上に立ち続け、最後には時の政権を動かしたように。

マスメディアならなんでもよかった。深刻な報道番組であろうが、わたしの前に現れたようなサブカルの深夜番組であろうが。ただ、ほんとにアポ無しなんだというのはちょっと驚いたけれども。


「うちらの番組知ってます?」

「はい。何回か見たことあります」

「ところでなにやってるんですか?」

「サンタボーズです」


わたしはオンエアの時に、『胡散臭い!』とかいうようなテロップがそれらしい効果音と同時に表示される画面が想像できた。


「え? 高校生ですよね?」

「はい。それで、お寺の坊主です」

「坊主?」

「はい。父が住職でわたしが後を継ぐ予定なので」

「なるほど。お坊さんでサンタの格好だからサンタボーズですか。で、さっきから何言ってたんですか?」

「いじめをやってる人出て来い! って言ってました」

「いじめをやってる人を・・・なんのために」

「決まってるじゃないですか。いじめをやめさせるためにですよ。これも僧侶の仕事です」

「え。でもお坊さんて苦しんでる人の悩みを聞いたりして心を救うのかと思ってましたけど」

「それじゃもう間に合わないんです。いじめる側をなんとかしないと。それにわたしは檀家さんからいただく仏様へのお布施のお下がりで生活してます。世の中を暮らしやすくするために少しでも見合う働きをしないと。お坊さんだって成果を上げないと」

「うーん。ところでなんでサンタの格好なんですか」

「この方が目立って人寄せになりますから」

「美人ですね」

「さあ。ただ背が高いんでそれっぽく見えてるのなら作戦成功です」

「作戦?」

「はい。ほんとにアブないだけの情報しかなかったら『アブねいやつら』さんも取材に来ないですよね。下手したら宗教がらみですし」

「まあ・・・本音を言うとかわいい女の子がサンタのコスプレで街に立ってるっていうツイートが山ほどあったので、これは数字になるなと」

「そうですか。じゃあ条件出していいですか」

「どうぞ」

「『終了』みたいな感じでカットしないのなら使っていいですよ」

「うーん」

「迷うんなら帰ってください」

「いや・・・わかりました」


と、いうことで3分ほどのインタビューが始まった。わたしはこれまでの知識と経験とを総動員し、「南無御本尊」と口の中で呟いてからプレゼンを始めた。

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