第244話 奇跡の5歳児・・・その2
みんなに説明してあげた。
真世ちゃんが仏に見込まれた女の子であること。
数々の『唱え言葉』を彼女のひいおばあちゃんから引き継いでおり、悪因縁を断ち切る力を授かっていること。
それから、彼女の寿命は10歳と決まっていることも・・・
彼女の運命を知らない他のクラスメートたちは無邪気に彼女をちやほやして可愛がる。
その様子を見て5人組だけが、『どちらが大人かわからないな』と悲哀の心を抱いてるはずだ。
・・・
研究発表会の打ち上げでクラスの有志でファミレスに行くことになった。
「上代さん。真世ちゃんも一緒ね」
牧田さんの強烈なアプローチに断りきれなかった。
「真世ちゃん、ドリンクバーで好きなもの取っておいで」
みんなから勧められて立ち上がる。
「あ、わたしも」
なんとなく真世ちゃんと一緒にサーバーに向かった。
「えーと、やっぱりカルピス!」
「真世ちゃん、カルピス好きなんだね。夏にお邪魔した時も飲んでたもんね」
「うん」
「カルピスソーダもあるよ」
「え・とね。炭酸はあんまり飲んじゃダメってお母さんに注意されてるんだ」
彼女のお母さんの人となりがわかる。そして、容姿もスリムでかっこいいお母さんだった。まさかあのお腹のへこみ具合で妊娠してるなんて思いもしなかった。
「真世ちゃんは弟と妹とどっちが欲しいの?」
「あのね、もう分かってるんだ」
「お医者さんが教えてくれたの?」
「ううん。ひいおばあちゃんに、『弟にしてね』って頼んだんだ。お母さんにも内緒ね」
「へえ。どうして弟?」
「妹だと同じ女の子のわたしを思い出して辛いと思うから」
ああ。
この5歳の女の子は自分の寿命をしっかりと受け止めている。世の
わたしなぞ、やっぱり足元にも及ばない。
「あ、ちょっと、お客様!」
スタッフの鋭い声が店内に響き渡った。
背後を振り返るとわたしたちのグループのテーブル脇にスーツ姿のビジネスマンらしき人が立っていた。
その男性が、重たい声でぶつぶつとつぶやいている。
「あんたら楽しそうだね。ええ? 俺はこんなにぐちゃぐちゃなのに」
みんな咄嗟に反応できない。
止めようと近づいてきた女性スタッフをその人は手で払いのけた。
「俺は明日も仕事なんだよ。黙れよ。頼むからどっか行ってくれよ」
「す、すみません、うるさかったですか?」
座席から牧田さんが腰を浮かせて頭を下げた。途端に男性の声が甲高くなった。
「いるだけで虫酸が走るんだよ。消えろよ!」
スタッフがスマホで警察に電話しようとしているのがちらっと目に入った。
それを真世ちゃんが止めた。
「待って。わたしにさせて」
そう言って男性に近づく。
スタッフも、わたしも、なぜか真世ちゃんを制止しようという気が起こらなかった。
どう見たってほんの5歳の女の子なのに。
わたしたちが声を掛けれられるような雰囲気じゃなかった。
「こんにちは」
「な、何だ、君は」
「わたしは、真世。あなたの名前は?」
「ああ?」
「名前は」
男性の動きが止まった。
怒気を帯びた目の色が少し柔らかくなったようだ。
「た、
「じゃあ、タケさんだね。タケさん、何が苦しいの?」
「し、仕事が・・・俺は心身を削ってやってるのに役員が。あいつらが」
「そう。ヤクインたちが憎いの?」
「ああ、憎い」
「どうしたい?」
「あいつらが消えていなくなって・・・ついでにあんな会社潰れてしまえばいい」
「わかった。そうしてあげる・・・ヒドウナモノドモミヲショセヨ・・・これでいいよ」
「え?」
「来週にはフワタリっていうの? それになって会社もヤクインたちも消えるよ。よかったね」
「それって・・・」
「ホントだよ。辛いだろうけど1週間だけ待ってね。それとも明日すぐの方がいい?」
「い、いやその・・・」
「タケさんにはわかるよね? わたしの言ってることがほんとだって」
かなり長い時間、竹中さんは真世ちゃんの顔をまっすぐ見つめていた。
「や、やめて下さい・・・」
「いいの? やめて」
「はい。私には重すぎる決断だ」
「わかった。じゃあやめる。フクゲンノサチナンジニキスル・・・はい、やめたよ」
「・・・すみませんでした」
「タケさん、もうすぐメーターが満タンになるよ」
「え」
「あのね。タケさんは生まれてからずうっとお父さんお母さんの罪滅ぼしのフォローをしてきたんだ。タケさんは悪くないけどお父さんお母さんの子供に生まれたんだからしょうがないよね。でも、もうすぐそれが満タンになるから大丈夫。ね、もよもよ」
真世ちゃんから手招きされた。
「もよもよ。わたしが教えたあれやって」
「え。あの唱え言葉?」
「うん。ね、お願い」
「うん・・・『南無阿弥陀仏ということは、まことの
真世ちゃんはわたしににこっと微笑んで、竹中さんにその笑顔をそのまま向ける。
「タケさん。これで大丈夫。もよもよはね、タケさんの悲しいのをくるっと楽しいのに変える力があるんだ。だからもうちょっとだけ、駄々っ子にならずにいてね」
竹中さんは、はい、とお辞儀をし、わたしたち全員とスタッフの人たちに頭を下げて会計を済ませて行った。
クラスメートたちも何をどう聞いていいのか分からず呆然としている。
「お寺に帰ろ? もよもよ」
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