第245話 奇跡の5歳児・・・その3
兄を失くしてしまったわたしに、真世ちゃんは再び兄弟ができたような楽しさを与えてくれた。
「わ。もよもよってお料理上手だね」
「ううん。いかに手抜きするかに命かけてるよ。真世ちゃん、煮干しのはらわた取れる?」
「うん。お母さんのお手伝いでやったことある」
「頼もしいね。じゃあお願い」
「はーい」
ああ。
ささやかな幸せとはこういうことを言うんだろう。
妹なんて言い方をしてるけど、もっともっとその望みを深いものにしたい。
真世ちゃんみたいな娘が欲しい。
「もより。真世ちゃん。お勤めするよ」
お師匠に呼ばれてご本尊の前に向かう。
炊きたてのご飯とおかずをお供えして、3人で合掌した。
たった5歳だけれども、ちょこっ、と正座して仏に向かう真世ちゃんの姿は凛々しく、そして厳かだ。わたしは逆に彼女の後ろ姿に手を合わせる。
お経が終わると真世ちゃんはお師匠に声を掛けた。
「お師匠」
「仏との縁が濃いあなたからそう呼ばれると冷や汗が出るよ」
「ううん。お師匠は立派な人。ねえ、お師匠。『チカモト』って人を呼び出さなくてもいいの?」
「真世ちゃん。あなたにはそれができるのか?」
「うん。でも、静かにさせられるかはちょっと分かんない。タケさんのような訳にはいかないもんね」
「真世ちゃんは『悪鬼神』と戦ったことがあるの?」
「うん。わたしが3歳の時」
「3歳! それで?」
「勝ったよ。唱え言葉で殺したの」
「え」
「相手は小学校6年生の歳の男の子だったんだけど。でも、姿形は男の子でも性根は悪鬼神だから。殺さないとみんな死んじゃうから」
「辛かったでしょう」
お師匠が真世ちゃんに合掌して頭を下げた」
「うーん。どうだったかな。まだ3歳で今より心が澄んでて、ひいおばあちゃんの思いががそのままわたしに伝わってきたから。今よりも迷わなかったと思う」
「で、でも・・・」
わたしがうろたえた様子を見せるとお師匠が静かに言った。
「それがその幼い悪鬼神の寿命だったんだ。医学者も、先端技術も、健康のための努力も、結局は寿命を決めるものじゃない。人間の寿命を決められるのは神仏のみだ」
「でも、それでも・・・」
「もよりだってずっとこの寺で見てきただろう。医学や科学で伸ばす命は本当の寿命ではない。本当の意味での命のやりとりができるのは神仏のみだ。そして、真世ちゃんのひいおばあさまは、人間の姿をしてこの世に生まれた本当の仏だったんだ」
わたしがまだ納得できない顔をしてると真世ちゃんがわたしの頭を撫でてにこっと笑った。
「もよもよ。わたしだって10歳が寿命だよ。でも多分幸せだよ。もよもよのお兄ちゃんみたいに」
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