第208話 奈月さんとの上京顛末・・・その4

どちらにしても夕食を摂らないといけないので、奈月さんの意向にしたがってメイドカフェ、『チェリッシュ』に入った。


「いらっしゃいませ〜」

「ようこそお越しくださいました」


「あれ?」


奈月さんとわたしは違和感を感じないことに違和感を覚える。


「なんか・・・うちの店と変わんないな」


わたしも同意見だ。奈月さんのバイトする地元のメイドカフェは、地方のお客さんたちの気恥ずかしさに配慮して、『お帰りなさい、ご主人様ぁ』というような接客を排除し、店員がメイド服を着ている普通の喫茶店という趣だ。この秋葉原のど真ん中に位置するこの店も同じだ。


「あの・・・このお店はこういうお店なんですか」

「はい?」

「その・・・『ご主人様ぁ』っていう風にされないんですか?」

「ええ・・・なかなかお客様は繊細ですから、差別化を図るためにも当店はこのような普通のカフェの接客をしているんです」

「そうですか・・・」

「申し訳ございません、お客様」


そのメイドさんの容姿ルックスはまるで二次元から飛び出してきたかのような、おそらく世の男性の美的欲求の大半を満たすような可憐さだった。まあ、別にこういう普通の接客でも男性客なら十分満足するだろう。

けれども奈月さんとわたしは女性客なのだ。

不満120%だ。


「あの・・・『ご主人様ぁ』ってこっそり言っていただくわけにはいかないんですか?」

「すみません、店のオーナーから『ご主人様ぁ』NGと厳命されてるんです」


これってメイドカフェと呼べるんだろうか。しかも、せっかく秋葉原に来たのに、普段の既視感しか残らない。

せめて帰ってからの参考にしようと奈月さんはメニューを見る。


「あれ・・・? 『ブレンド』『カフェラテ』・・・普通だよね。『ナポリタン』『ホットケーキ』・・・なにこれ」

「申し訳ございませんお客様。注文の際もメニューを読み上げるのが恥ずかしいお客様がおられまして」


わたしたちの地元よりもシャイってこと? ほんとかなあ。

止むを得ず2人してナポリタンを食べ、早々に店を出た。

そのまま宿泊するビジネスホテルに行って、ロビーで軽く明日の打ち合わせをした。


「じゃあ奈月さん。すみませんが明日わたしはお師匠の用事をしないといけないのでそれぞれ別行動ということで」

「寂しいよ、もより。わたしも一緒に行きたい」

「いえそれはちょっと」

「行きたい行きたい行きたい行きたい。もよりと一緒に居たい」


なんだかいつもの調子の奈月さんに戻っている。


「わかりました。でも、後悔するかもしれませんよ」

「もより。一体どんな用事なの」

「人に会うんです」

「会うって、誰に?」

「霊能力者です」

「はあ?」


結局それでもいいから行く、と奈月さんは聞かなかったのでやむなく同行させてあげることにした。念のためお師匠に電話して許可を取る。


「危険だが、一緒に東京に行く時点で同行するのは必然だったようだな」

「え、いいの?」

「いいも悪いも最初から同行することは決まってたようだ。もより。3つ注意点を伝えておくから厳守しなさい」

「はい」


なんだろう。いつにも増して真面目なお師匠の雰囲気だ。ちょっとこっちもかなり真剣に聞かないと。


「①決して単独行動を取らないこと。2人揃って行動すること」

「はい」

「②危険だと感じたら速やかに退出すること」

「・・・はい」

「③奈月さんは『ナッキー』、もよりは『もよもよ』と相手に名乗ること」

「え」

「以上」

「・・・ごめん、③をもう一度」

「『ナッキー』と『もよもよ』と名乗ること」

「・・・なんで?」

「・・・私にも、分からん」

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