第201話 ミニフェス その2
「ごめん、遅くなって」
お盆に近づき忙しくなってくるタイミングだったけれども、お師匠を説き伏せて夏フェスの手伝いに来た。その代わり、お寺の仕事、課題、家事、すべてを前倒しに圧縮し、ようやく馳せ参じた次第だ。
「もよちゃん大丈夫。ギリギリセーフ」
ちづちゃんが商店街のうちわで扇いでくれる。咲がこっちに歩いて来た。
「ありがと、みんな」
「あー、咲。久しぶり。すごいね、トリなんて。それに・・・」
わたしは咲たち4live のステージ衣装を見て、ほー・・・、とため息が出た。
「かっこいいよ、スーツ」
全員、ツヤを消した黒のタイトなスーツ。よく見るとものすごく目の細かいチェック地で、深い黒と浅い黒が交互だ。上着もちゃんと着ているのでシルエットが美しい。白のシャツに細いダークタイを下げ、足元に目を落とすと・・・みんなスニーカーだ。
「昔こういうファッションのバンドがいて、スーツはいつかやってみたいと思ってた。大都のご厚意で貸してくれたんだ。靴までは無理だったけど」
「いや・・・その方がかっこいいよ」
咲は素足に紐を通していない白のデッキシューズ。なんだ、このかっこよさは。わたしが芸能事務所の人間なら、即スカウトだな。
「じゃあ、ヘルプの皆さん、よろしくお願いしまーす」
イベントを主催するまちづくり法人のスタッフがわたしたちに召集をかけた。
「じゃ、みんなお願いね」
咲たちはそのまま他の出演バンドたちの輪に戻り、サウンドチェックを始めていた。
ボランティアスタッフはわたしたち5人を含めて15人ほど。先週の内に打ち合わせは終わっているので、それぞれの持ち場にばらける。ボランティアスタッフの仕事はバンドが入れ替わるタイミングの機材設置の会場整理班、食事メニューのオーダーを大都内にあるそれぞれの飲食店に伝え、かつデリバリーする班、フロアでのオーダー、サーブ、飲み物作りの3班に分かれ、それぞれ5人ずつ。5人組は1組でフロア担当班に編成された。学人くん、空くん、ジローくんの3人はバーテンダー。と言っても、ビアサーバーでビールを注ぎ、サワーを作るのがメイン。カクテルも一応あるけど、
「適当に混ぜて」
というレベルだ。
そしてちづちゃんとわたしの2人でフロアのオーダー、配膳を一手に担当する。大変なように聞こえるけれども、10テーブルで満席でも40人。まあ、ちょうどいい規模だろう。人が少ないと出演バンドは張り合いがないかもしれないけど。
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