第197話 exercise on radio(その2)
マーケティングの手法でわたしは顧客獲得の一番手っ取り早い方法を実践した。
「お寺の庭、使っていただいてもいいですよ」
ラジオ体操したい、という需要は実は今でもそれなりにある。少子化で小集団であちこちバラバラに父兄が世話をしてカードにはんこ押してる地域もある。ほとんどの参加者がお年寄りという地域もある。共通してるのは、”朝早いから静かに体操” という点だ。
朝6:20頃、自転車を飛ばしてそれらの場所をざっ、と一回りし、咲蓮寺の場所を伝えた。まあ、わたしが ”女子高生” と敢えて名乗ることで、妙な安心感を持って貰えるのも得してる部分だ。
翌朝。
「5グループぐらいか。うんうん」
総勢約30名。びっくりするくらい集まった。まあ、ご高齢の方半分、小学生半分弱、更にちっちゃな子供が若干名、という分布だ。庭が結構うまり、お師匠も感慨深げだ。
「もよりは天才かもしれんな」
「そう? たまたまでしょ」
「そのたまたまっていうのができなくてみんな困ってる訳だ。で、”事実” をどうやって伝えるんだ。法話でもするのか?」
「しないよ、そんなの」
「何?」
「あ、もう体操始めてもらわないと。酒田さん、お願いします」
わたしは昨日回った中で一番ラジオ体操に張り切っているおじいちゃんに声を掛けた。年齢は81歳だという。けれども、背すじもびしっ、と伸びてて、動きもスムース。本人も、
「年寄とは言わせません」
というような自信にあふれている。なので、前に立って体操を指揮する役目を明日の内にお願いしておいたのだ。6:30になり、”希望に満ちた1日が始まる” といった内容のテーマソングが流れる。
「ほら、お師匠もやるんだよ」
わたしもお師匠も皆に混じって体操する。お師匠は、俺が俺がという人間じゃ決してないけれども、ご本尊の前の庭というホームグラウンドで見知らぬ老人に主導権を奪われていることがほんの少しだけ腑に落ちないようだ。
わいわいと結構気合いを入れてびしびしと体操した。
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