第191話 夏だよ(その11)
霧が濃く、風も強いので微妙なコンディションだったが、行けるのならお願いしますとわたしがスタッフさんに頼んだ。少しでもマシな内に、とスタッフさんを先頭に、みんなで山頂目指して登り始める。
日の出30分前。時間が無いので登りながらスタッフさんに質問した。
「山頂で昔、転落事故とかありませんでしたか?」
「・・・はい、ありました」
風の音に消されないように、わたしもスタッフさんも大声で遣り取りする。だから、登っている全員にも内容が伝わる。
スタッフさんは躊躇しながらも、大声でその生々しい事故を伝えなければならなかった。
「7年前、元服登山で市内の小学校4年生が集団で登山したんです。その中にひどいいじめに遭っている女の子がいましてね!」
風が強まる。
「山頂の神社に参拝しようと生徒たちがしゃがんで待っている時、いじめの中心グループがその子に何か声を掛けてふざけて、わっ、と突き飛ばす真似をしたらしいんです!」
「真似ですか!」
「ええ。やった側は、”真似だ”って言ってます! そしたらその子がそのまま堕ちてしまったと!」
「結局、どうなったんですか!」
「”投身自殺”っていう警察の最終報告です! いじめのグループの子は、”ふざけて突き飛ばす真似をしたら、自分から飛び降りて行った”と言ってたらしいです!」
「いじめてた子たちは今どうしてるんですか!?」
「さあ!? 普通に高校生になってる、とは聞きましたけど!」
「ふざけんなっ!!」
「奈月さん!?」
「なんでそいつらが高校入ってのうのうとしてんだよ、クソがっ!!」
こんな奈月さんは初めて見る。執拗に、くそっ! くそっ! と叫ぶ声が涙声に変わっていく。
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