第182話 夏だよ(その2)
「いいぞ。行ってくるといい」
「え? いいの? 3日間お寺空けるけど」
「知ってるだろ。横山は阿弥陀様の化身と言われる霊峰だ。昔の人たちも元服の時には横山に登ってる」
「元服って男の武士の話でしょ。わたしは女だよ」
「いや、心構えの問題だ。16歳で横山初登頂なんて、この県の人間としては遅いぐらいだ」
ということで、むしろ、”行け”、と指令されるような形となった。お寺の都合も主張しつつ、大志くんと連絡を取り合う。
「いやー、もよりさん、助かるよー。何せ奈月さんがしつこくてさ。各部で合宿の申請を生徒会に出さなきゃいけないんだけど、それ見て喰い付いてきたんだよねー」
「そうだろうと思った。でもごめんね。本当に夏休みの初日からでいいの?」
「いいよいいよ。僕も早めにデータ集めとくにこしたことないからさ」
「ありがとう。お盆に近付くとお寺が忙しくなるから。それで、例のごとくこっちは総勢5人+1人で6人なんだけど」
「6人?」
「うん。牧田さんも是非行きたいんだって」
「ああ、牧田さんか」
「あの、大志くん?」
「はい?」
「もう気付いてると思うけど、牧田さんは大志くんのこと、意識してるからね」
「うん、知ってるよ」
「それでもいいの? 大志くんはどう思ってるの?」
「うーん、正直、ありがたいな、と思うよ。僕なんかのこと気に入ってくれるなんて。でも、僕は今は恋愛とかはちょっとする気はないから。牧田さんだからとかいうことじゃなくって、誰とも」
「うん・・・でもちょっと牧田さんがかわいそうかな」
「ごめん。これはしょうがないよ。牧田さんが僕のこと好きっていう気持ちを止められないのと同じで、僕の気持ちもどうしようもないよ」
「そうだね」
ある意味、大志くんのこの感覚は男らしいと思う。
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