第176話 プレフルマラソン(その4)

「救急車? にしては普通の車っぽい車体だな」


 トンネルに入って行った。


 緊急車両? とその後続の一般車両を追いかけるようにわたしもトンネルに入る。トンネル内のオレンジ色の照明に照らされ、わたしのライトブルーのTシャツの色も変色して映える。

 トンネル内の左脇の歩道を少し走ると、車の流れが徐々に遅くなり、数台先の車は完全にストップしている。


「あ、追突か」


 このトンネルは対面の片側一車線で、中央には1m弱の感覚で樹脂製のポールが立てられている。もし追突事故があった場合、反対車線側から退去する、ということもできず、立往生するしかない道だ。

 まあ、雨はとっくに上がってたから、この事故はお兄ちゃんのせいじゃないようね。

 結局お兄ちゃんはわたしをどうしたかったんだ。


「あれ? サイレンの音は消してるけど、さっきの緊急車両がランプをくるくる回して止まってる。隊員? の人が車の外で何やら焦りまくってるな。ええと、あれは。


「あ、輸血血液の運搬救急車か!」


 思い出した。小学校の時に社会の授業で習った記憶がある。実際に見たのは初めてだ。今日は初めてだらけだな。取りあえず走るか。


「誰かバイクで走ってた人はいないのか。なんなら自転車でもいい!」

「あの、どうしたんですか?」

「すみません、今緊急なので!」


 わたしが外に出て焦っている隊員にスルーされそうになった時、運転席のもう1人が声を掛けてきた。


「すみません、あなたは自転車で来られたんですか?」

「いいえ、走りです。ランニングの途中です」

「そうですか・・・来る途中でバイクか自転車を見かけませんでしたか?」

「いえ、見ませんでした。どうしたんですか?」

「いえ・・・実は切迫早産で帝王切開の手術中の母子が予想を超えた出血なんですが、血液のストックが底をついて。中央病院まで届ける途中だったんですよ。ですけどこの状態じゃバイクか自転車でないと」


 わたしははっ、とする。

 お兄ちゃんの意図は、これか!

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