第149話 2年目の春 その4

 初々しい彼女・彼らの入学式を目の当たりに見て、なんだかわたしまでほっこりしてくる。


「ねえ、もよちゃん、懐かしいね」


 ちづちゃんが声を潜めてわたしに話しかける。わたしは笑顔で、うん、と頷く。

 ああ。この高校でよかったな。


 ”ガガッ ピーン!!”


 何、これ。マイクのハウリング?


 合唱部がスタンバイしようとしてステージへの階段を登り始めた時、マイクを手にした男子が反対側の袖から出て来た。

 1人、2人、3人・・・女子も混じる。全部で5人。男子2人、女子3人。え・・・と、誰だっけ?


「こんにちは新入生の皆さん」


 女子生徒の内の1人がマイクパフォーマンスのような感じで体育館に向かって語り掛ける。ナチュラルにエコーがかった音だな。彼女は続けて喋る。


「3年の片貝千歳かたかいちとせです。入学おめでとうございます」

「やめないか」


 この高校には生活指導の先生は不要だとおもってたけれども、久方ぶりの出番となった谷先生が止めに入る。生徒よりも入学式を観に来ている父兄の反応が気にかかることだろう。


「先生、すみません。ですが、この場をお借りしてどうしても伝えておかなければならないことがありますので」


 片貝先輩、かあ。こんな派手なことする人なら今までも目立ってておかしくないと思うけれども、わたしは初めて顔を見るなあ。

 一体、何をどうしたくてこんなことするんだろう?


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