第83話 初デート? その4

 ここは3F婦人服売り場にあるレディース・スーツのブランドの店なんだけれども、奈月さんは”常連”らしい。といっても奈月さんもスーツを実際に買う訳ではないらしい。買うのは高校生のアルバイト代でもまだ手の届くブラウスなどだ。

「フォーマルなブラウスって、意外とジーンズにも合うんだよね。自分で洗濯して糊でアイロンかけてパリッと仕上げて。全体的にはラフな仕上がりでも背筋がすっと伸びるような感覚が好き」

 佐倉さんにコーディネートして貰っている隣に立って、奈月さんはあれこれとおしゃべりしてくれる。

「おまけです、って佐倉さんがそのブラウスに合うようなスーツをあれこれと試着させてくれるんだよね。今の内にセンスとか、金銭面も含めて地に足の着いた着こなしを勉強しといた方がいいって」

「ふふっ。私が奈月ちゃんを着せ替え人形にしてるだけですよ」

 あ、佐倉さんって、すごく柔らかに笑うんだな。

「もよりさんは背が高くてシルエットがとても素敵ですから、パンツスーツがいいと思いますね。これなんかいかがですか?」

 佐倉さんは3着のパンツスーツをカウンターの上に並べてくれた。

「さあ、あとはもよりさんのお好みです。直感で選んでみてください。全部でもいいですよ」

「はい、えーと。これ、着てみたいです」

 わたしは濃いグレーのスーツを手に取る。

「あ、それ素敵です。ウエストを絞った型なので、もよりさんがよりスマートに映えますよ。ブラウスはこれなんかどうです?」

 薄く細いブルーのストライプの入ったやつ。すごく爽やかな印象を受ける。わたしは、はい、と頷く。

 試着室に入ると外から佐倉さんが声を掛けてくれる。

「合わなかったらサイズ替えますから言ってくださいね」

 ぴったりだった。なんというか、パンツを履くときにするっと生地が足に触れるととても滑らかで、さあ仕事頑張ろっか、っていう気分になるような肌触り。フォーマルでオーソドックスな服ってなんだかすごく心の居所もかちっと固まるような気がする。

 試着室のドアを開けると二人からわあっ、という軽い歓声が上がった。

「もより、かっこいいよ!」

「うん、ほんとに素敵です。モデルみたい」

 すごく、照れる。照れるんだけれども鏡の前に立ってみて、自分自身まんざらでもなかった。

”これが、わたし?”

 足下はスニーカーだけれども、まさしく”変身”した自分が鏡の中にいる。表情すら引き締まっているようだ。加えて、自分自身ではあまり気にも留めていなかったけれども、足がすごく長く見える。

 何よりも、背が高くてよかったと初めて思えた。

「どう、感想は?」

 奈月さんがにこにこして訊いてくる。

「いや、なんていうか・・・」

「うんうん」

「こんな服でできる仕事に就いてみたいな、って思いました・・・」

 うーん。自分で言って自分で迷いを生じさせている。

 お寺の住職じゃスーツ着ることあまりないんだろうな。

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