第63話 文芸館/4Live その8
ガラスを隔てて眺めるわたしたち5人組に咲がスタジオの中からにこっと微笑む。
室田くんのギターのカッティングを合図に武藤くんがスネアをすたっ、と叩き、加藤くんが流れるように美しいメロディーのギターリフを奏で始める。咲のベースがドライブする。
夏草匂う土曜の午後からは
見知らぬ僕らの歌が始まる
乾いた風と潤ったメロディーが
汗ばむ僕らの背中冷やしてく
煌めく川の流れの
可憐な小鳥が一羽飛び立つ
真夏の日差し降り注ぐ芝生から
涼風一陣空に舞い上がる
(ダラララララ)潤ったメロディーが
(ダラララララ)僕らの心癒す
(ダラララララ)冷たい乾いた風が
(ダラララララ)僕らの熱冷ます
そんな日々僕らの歌声が
そんな日々僕らの願い事が
そんな日々僕らの笑い顔が
そんな日々僕らの熱い想いが
毎日を彩っていく
加藤くんのシンプルだけれども美しいギターソロが胸をきゅっと締め付ける。武藤くんのレモンのようなドラムが鼓動を区切る。咲の細く長い指がベースの弦を弾く姿に涙がこぼれそうになる。室田くんの汗ばむ額にかかる前髪が、素直に、ただ素直に、かっこいいと感じる。
(ダラララララ、ダラララララ、ダラララララ、ダラララララ)
(ダラララララ)潤ったメロディーが
(ダラララララ)僕らの心癒す
(ダラララララ)冷たい乾いた風が
(ダラララララ)僕らの熱冷ます
(ダラララララ)一羽の小鳥が
(ダラララララ)僕らを連れて行く
(ダラララララ)真夏の太陽が
(ダラララララ)僕らを熱くする
(ダラララララ)潤ったメロディーが
(ダラララララ)僕らの心癒す
(ダラララララ)冷たい乾いた風が
(ダラララララ)僕らの熱冷ます
(ダラララララ)一羽の小鳥が
(ダラララララ)僕らを連れて行く
(ダラララララ)真夏の太陽が
(ダラララララ)僕らを熱くする、Hey!
ギターがヴァイオリンみたい。
ベースラインが、切ない。
最後に心に残るリフを繰り返して曲が終わる。
5人して、力いっぱいの拍手を送った。
月曜。5人でお昼を食べていると、教室前方のクラスメートたちの雰囲気がふわっと変わるのが肌で感じられた。
咲が背すじを伸ばし、美しく歩いて来る。
それだけで男子も女子もさわめく。
わたしの前に立って、微笑む。わたしも笑みを返す。
「みんな、土曜は聴きに来てくれてありがとう。すごく、うれしかった」
男子3人もちづちゃんもまぶしそうに咲を見上げ、こちらこそありがとう、と返す。
わたしも自分の目が細くなるくらいの笑顔になっているのを感じる。
「咲」
「なに、もより」
「わたし、4Liveのこと、好きだよ」
咲のことも、という言葉はかろうじて呑み込んだ。
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