第15話 純喫茶アラン その4
さて、コーヒーが来るまでの間、わたしは店内をぐるっと見渡して観察する。まず気が付くのがタバコの煙だ。禁煙どころか分煙にもなってない。全席喫煙席。そして夕方前の中途半端な時間帯にも拘わらず、4人掛け2人掛け合わせて15あるテーブルの7割程が埋まってる。まあ、1人客がほとんどだけれども。
何やら仕事の資料らしきものにフリクションで書き込みしてるスーツ姿のサラリーマン男性。灰皿には火の点いたままのタバコ。その対角線上の席には近所のショッピングモールのテナントの制服を着た女性。休憩時間なんだろうか。文庫本片手にアイスコーヒーを飲んでいる。
「いらっしゃいませ」
ウェイターの声に目を入り口にやると、グレーの地味だけれども値の張りそうなスーツを着た、年配、というか、おじいちゃんが入って来た。表情がほぼ変わらないような微笑を浮かべ、
「水割り。ダブルで」
とウェイターに注文してわたしと反対側のコーナーの2人席に向かう。
わたしは咄嗟にメニューを開く。
「あ、ほんとだ。ある」
”水割りシングル420円、ダブル620円、※おつまみ付き”
因みにアルコール類のメニューは水割りと瓶ビールだった。
さらさらとメニューをもう一度眺める。
ブレンド、アメリカン、紅茶(ホット、アイス)、アイスコーヒー、カフェオレ(ホット、アイス)、メロンソーダフロート(”クリームソーダだ!”)、コーラフロート、オレンジフロート、ココア(アイス、ホット)、ナポリタン(王道!)、焼きそば、焼うどん、ホットケーキ、トースト、ミックスサンド、etc。
うーん。わたしの理想に限りなく近い。思い切って入って良かった。
コーヒーが来た。
「お待たせしました」
ウェイターが憎らしいほどの華麗な、けれどもさりげない動作でコーヒーを置き、しかも砂糖壺の蓋を開けて行くという喫茶店作法を久し振りに見せてくれた。伝票を裏返してすっ、とテーブルに置く。
わたしはつい訊いた。
「ブレンドって何がメインなんですか?」
どの豆が、という意味だ。
「ほとんどモカですね。モカをベースにその時々で少しずつ改良してます」
へえ。そういう考え方もあるんだな。あと、何訊こうかなって思ってると逆に訊かれた。
「1年2組のジョーダイさんでしょ?」
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