ゴーレム狩り2

 料理を作るのはキッチンに立ってコマンドから料理を選択、材料を指定の分量を入れれば簡単にできる。


 無事作ろうとしていた目玉焼きとトーストを皿に移して人数分を作っていく、思いの外うまくできたことに気を良くした星は手際よく作業をしていった。レイニールがパタパタとテーブルに運んでいった。


 テーブルに並べられた4人分の朝食を用意し終えると、簡易的に用意した椅子に腰掛ける。

 真っ先にナイフとフォークを手に持って目玉焼きを切り裂くと、口に卵の黄身をベッタリと付けて嬉しそうに両手にナイフとフォークを掲げている。


 エミルは興奮気味に、星の作った目玉焼きを見て歓喜の声を上げた。


「――可愛くて料理も作れるなんて、これは将来は立派なお嫁さんになれるわね! お姉ちゃんのポイント加算も。もう、うなぎ登りよ星ちゃん!」


 興奮で震える手で目玉焼きにフォークを入れるエミルを見て、星に向かってエリエがそっと耳打ちしてくる。


「……エミル姉、一日で性格変わってない? 何があったの? 星」

「はい? えっと……ごめんなさい。私にも分かりません……」


 エミルの変わりように驚くエリエに、表情を曇らせしゅんと肩をすぼめる星を見て、エリエがあたふたしながら言葉を返す。

 

「だ、大丈夫だよ! まあ、本人に聞かないと分からないもんね! でもまあ。聞ける雰囲気じゃないけど……」

「……はい」

 

 星の作った朝食を幸せそうに食べているエミルを、2人は呆然と見つめていた。

 通常の生活スキルを使用して作ったわけだから、味は誰が作っても味は変わらないはずだが、一口一口味わうように食べ進めているエミルを見て。


 今エミルに話し掛けたら、完全に彼女を怒らせると感じた2人は、仕方なく目の前の朝食を食べ始める。しかし、すでに1時を過ぎており、朝食と言うよりは遅めの昼食に近い気もするが……。


 その後、朝食を終えた星にレイニールが思い出したように告げる。


「そうだ主。ライラという者から、伝言を預かっていたのだ!」

「……ん? ライラさんから? それでなんて?」


 ライラからという言葉に眉をひそめる星が微かに不信感を抱きながら尋ねると、レイニールはパタパタと星の肩に止まって耳元でささやく。


「あやつが言ってたのは『この事件で使用している『村正』は私の使っていた薬と同じ物よ。そして、あの武器に有効なのは貴女の固有スキルだけよ』て事らしい。我輩にはさっぱり分からないのだ……」


 難しい顔をしながら頭を捻るレイニール。


 だが、それは星も同じだった。ライラの使っていた薬――そして星の持っている固有スキル『ソードマスターオーバーレイ』この2つに接点という接点を見つけられない。


 ライラの使った薬は個人のデータに作用するもの。対して星の固有スキル『ソードマスターオーバーレイ』は光を浴びたプレイヤー全体に作用すものだ……効果も発動条件も全くの別物と言っていい。


 だとしてもライラが何の考えもなくそんなことを言うはずがない。彼女の言葉にどんな意味が含まれているのかは、全くと言っていいほど分からない。しかし、一つ分かっている事実は――星の固有スキルが必要だと言うことだけだ。


(――良く分からないけど……私の力が皆の役に立つなら、頑張らないと!)

 

 星は心の中で決意を新たにして、拳を握り締めて自分に気合いを入れる。


 今まで人の影であり、脇役でしかなかった自分の力が必要とされているなら、全力でその期待に応えよう……この時の星は強くそう心に誓った。



 宿屋を後にした4人が足早に城に戻る。

 エリエが部屋のドアを開けるとそこには、見知らぬ赤い甲冑を身に纏った男が腕を組んで壁に凭れ掛かっていた。


 その男の瞳がエミルを捉え、不敵な笑みを浮かべると壁から背中を放した。


「ほう、お前があの白い閃光か! 俺はメルディウスだ。お前の噂は、千代の方でも聞いてるぞ!」


 メルディウスはエミルの元に歩いてくると、徐に右手を前に出す。


 少し警戒した様な表情を見せているエミルに、彼は微かな笑みを浮かべた。

 しかし、出した手前引き戻すわけにもいかず、メルディウスが言葉を続ける。


「なに、ジジイがなんと言ってるかは分からないが。俺はお前達には敵対しない。まあ、仲良くやろうぜ!」


 堂々たる彼の態度とその瞳には、少しの迷いもない。

 そんな敵意のない彼の態度に、悪い人間ではないと感じたエミルは、彼の差し出しているその手をがっしりと握り返して微笑んだ。


 だが、差し出された手を取らなかったことには、彼が知らない人物ということもあったが、マスターへの不信感もあったのかもしれない。


 本来は紅蓮の用意したはずのホテルではなく、どうしてここにメルディウスが居るかというと、それには深い事情があった。



              * * *



 それは彼等がこの始まりの街に着いて、ゴーレム狩りに出掛けたところまで時間は遡る――。

  

 ホテル建設に使った費用を少しでも回収するべく、メルディウスとデュランはダークブレットのメンバー達を馬で引き連れてゴーレム種の多く出現する【グレイ鉱山跡地】に向かっていた。


 ゴーレム種は防御力、攻撃力がずば抜けて高い代わりにその撃破報酬も大きい。

 この場所は前々から人気の狩り場で、PTメンバー1人を残せば、死んでもすぐに同じ地点に戻って来られるというゲームシステムを利用して、死に戻りを繰り返すことで短期間に多くの資金を調達できる。


 しかし、HPを『0』にできないこんな状況では、もはや人気の狩り場ではなく、ただ単にリスクの高い危険な狩り場へと成り果てていた。だが、ダークブレットのメンバーの顔にも、その前を馬でいくメルディウスとデュランの顔にも一切の恐怖も不安もない。


 本来。モンスターとの戦闘は6人のメンバーを構成したパーティーで行うのが一般的で、フィールドのモンスターを狩りにいくのにこれほどの大部隊で行うなど例はない。

 

 荒野に轟音と砂埃を立てながらしばらく進んでいくと、目の前に大きなクレーターが見えてきた。

 規模と大きさから、それは巨大隕石でも衝突したかのように巨大な円柱の様になっている。

 

「皆、止まれ!!」


 その場にデュランの声が響き渡り、ダークブレットのメンバー達も一同に馬を止める。

 クレーターの端、崖の様になっている部分から中を覗き込むと、そこには岩が連結し人間の様な姿を模ったゴーレム達が闊歩していた。


 その色は銅、銀、金と分かれており。色の違いがそのまま、強さと報酬の違いとなっているのだ。

 こういう子供でも分かる簡単な仕様が、このゲームの人気に繋がっているということは間違いないだろう。もしも数体に一気に攻撃されることがあれば、それは命に関わるのは間違いない。


 メルディウスは背中に差した大剣を抜刀し、それを高らかに天に掲げる。


「よっしゃー! 俺が狩って狩って狩り尽くしてやるぜ!!」


 掲げていた剣を前に突き出して雄叫びを上げると、そのままの勢いで地面まで続く階段を駆け下りていく。


 そんな彼を見てデュランが呆れ顔で、左手で額を覆う。

 

「――全く、彼は相変わらずだな……皆! 無理はするな! 攻撃よりも防御を優先に、敵の攻撃を食らわないに越したことはないからな。回復は多少のダメージでも怠るな! 慢心はするなよ? それでは、一方的な蹂躙を始めよう!」

『うおおおおおおおおおおおおおッ!!』


 大地を揺らすほどの轟音と咆哮を上げ、メルディウスに続いて馬を走らせて行く。


 不敵な笑みを浮かべたデュランは、見た目が薙刀の様な『イザナギの剣』を握り締めながらほくそ笑んだ。


「……俺もこの武器の真価を、この遠征で見定めさせてもらうよ」


 部隊の後方に続いて駆けるデュラン。


 その先で先頭を行くメルディウスは、感知して階段を駆け上がってくる銅のゴーレムに向かって剣を振り抜く。


 剣がゴーレムの体に当たり火花を散らせると、巨体が階段から地面に向かって落下した。


 地面に落下したゴーレムは、大量の土煙と共に消滅する。

 

 メルディウスは更に馬を加速させると、馬から飛び降りてゴーレム達の密集している所へと落ちていく。


 空中で大斧の姿へと変化した『ベルセルク』を落下点にいる銀色のゴーレムに振り下ろす。


「うおおおおおおおおッ!!」


 力一杯に振り下ろされた大斧は、銀色に輝く人形のゴーレムに直撃して爆発を起こす。頭部に炸裂して、爆発直後に頭部を吹き飛ばしたことは確認済みだ。

 煙が上がっている場所から、まるで鉄柱が爆薬か何かで撃ち出されたかと思うほどの勢いでゴーレムの腕が飛び出してくる。


 その拳の風圧で白煙が消し飛ぶと、空中でゴーレムに突き刺さったままの大斧から手を放し、メルディウスは体を捻って攻撃をかわす。

 隙をみてベルセルクをゴーレムから引き抜くと、素早くその場を離脱する。だが、彼が地面に着地したと同時に今度は逆の腕が彼を襲う。


 一瞬にして辺りに土煙が上がり、彼を包み隠す。そして土煙が消えると、地面に突き刺さったゴーレムの腕に乗っている彼の姿が見えた。

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