遠く彼方へ届け魔弾
第旧惑星
本編
プロローグ
宝の地図は必ずしもビンに詰められ大海原を漂っているとは限らない。
ドラゴンの根城の煤けた宝箱、闇商人の隠し金庫、あるいは亡き父の書斎の天井裏。
宝の地図は必ずしもそのような場所に眠っているとは限らない。
――例えば、このような例がある。
時は現代、所は日本。
とある県立高校に一人の冴えない男子学生あり。
伝説の大海賊でも、ドラゴン退治の英雄でも、悪を憎む義賊でも、はたまた赤貧に喘ぐ農夫でもないこの一般的な男子学生は、現在六限に渡る永き学生の本分を終え、いざ帰路につかんとしているところだ。
帰宅後のお楽しみに想いを馳せ、階段を軽快に下るこの学生の視界に突如白色が割り込んだ。
驚きから短く呻き足を止めた学生は、割り込んできた物の正体をじっと見定める。
足元には一枚のプリント。
ひょいと拾い上げ、まじまじと見てみればそこには「模擬店説明会」の文字が踊る。
どうやらそれは学祭に向けた説明会の案内用紙のようであった。
上から落ちて来たのだろうかと手すりに身を預け、折り返し式の階段特有の隙間から上階の様子を窺う。
下校や部活のはじまりに沸き立つ生徒の声あれど、落とし主らしき者の姿はなし。
そのうちにタンタンと階段を下ってくる女子生徒のスカートの中身が見えそうになり、ぎょっとして姿勢を元に戻す。
さてどうしたものかと、頭をひとかきした学生は何の気なしにそのプリントの裏面に目をやった。
――宝の地図は必ずしもビンに詰められ大海原を漂っているとは限らない。
そう、大量に刷られたプリントの裏面などというありふれた場所にも宝の地図は存在する。
プリントの裏面を凝視する学生の瞳にたちまち新大陸への上陸を控えた大海賊のような、ドラゴンに聖なる剣を向ける英雄のような、闇商人の根城を前にして関節を鳴らす義賊のような、――眩い光が灯った。
ここから、宝を巡り繰り広げられる愛と魔弾と青春の物語がはじまる。
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