VENGEANCE. ~異世界化物転生記~

中々lororo

第一章 化け物と少女

プロローグ


 散々と舞う木の葉が、赤い鱗粉に焼き崩れ。

 清々しい風が頬を撫でていた平野に、荒々しい突風が吹き荒れ。

 宴の酒はあざ笑うかのように、迫り来る悪魔に力を与え。

 美しく咲き誇る花々でさえも、その可憐さを一瞬で失った。

 誰もが犯すことのない禁は、その時唐突に破られた。

 

 天国とまで歌われ、絶対にこの地を犯してはならないとまで言われていた土地。

 その安らぎの森、『サライカ』はたった一時の間にその輝きを失った。

 厳格を司る『角獣族ダウロス』によって。

 ありとあらゆる暴虐を尽くし、森を焼き尽くした。

 ありとあやゆる策略を駆使し、森を攻め立てた。


 『サライカ』への羨望、憧れ、嫉妬。


 そして何より、『仮面の者共ディレンス』への蔑視。

 厳格を司る『角獣族ダウロス』にとって、円満を司る『仮面の者共ディレンス』の甘さは傍観を許さなかった。

 何があっても笑い、何があっても手は出さず、何があっても喋らない。

 

 見た目は四種族の中でも異形、背は高く、手足も長く、細長い。

 顔にはいつも笑った仮面を被り、外すことは食事の時でも許されない。

 それが美とされ、人とされ、それをしないと人ではない。

 本音で語り、ぶつかり、分かち合うのが人とされている『獣人族ドラル』。

 さぞ、醜く映るであろう。分かり合えるはずがない。

 しかし、その『角獣族ダウロス』でさえも、この光景には息を飲んだ。

 いや、例え別の種族であろうとも、生き物であるなら恐怖を感じていただろう。

 炎が街を、森を、平野を焼き尽くしている。

 そんな中で『仮面の者共ディレンス』は、


 ───踊っていたのだ。


 体が炭になるまで踊り続け、踊りながら客人を逃がした。

 『角獣族ダウロス』の手を掴み、一緒に楽しもうとでも言うように炎に飛び込んだ。

 燃え盛る炎の中、『仮面の者共ディレンス』と『角獣族ダウロス』以外の犠牲者を一人も出さずに踊り続けた。

 狂乱の宴は、仮面の裏に全てを隠し、夜明けと共に始まりと終わりを告げた。




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