罠
「アンタと話すことなんかもう無い。目障りだ、死ね」
「……お願いトラちゃん、わかって」
「ウルサイ!!」
テュランが大剣を下に構え、サヤに向かって振り上げる。それをテレポートで避け、距離を取って様子を伺う。テュランが僅かに辺りを見渡す仕草を見せた。一瞬だが、彼の視界から逃れることに成功したらしい。
凶暴性は格段に増したが、隙も生まれやすくなった。そのことにテュランは気がついているのかどうかはわからないが、攻撃を止める様子は無い。
巨大な剣が、サヤを仕留めようと凄まじい勢いで襲いかかる。それは正に強靭な肉食獣の爪と牙。サヤはテュランの攻撃を避け、あるいは刀で受け流し。必死に隙を探す。
「人間はよく平気な顔で、そんな白々しいコトが言えるよな!? あれだけ俺を散々護るとか言っておきながら、簡単に見捨てて一人で逃げやがって!! 最初から俺を囮にして、一人で逃げるつもりだったんだろう!」
交わる刃から火花が散る。彼の剣を受ける度に、両腕が軋んでいくのがわかる。刀も所々刃こぼれしてしまった。折れてしまうのも時間の問題だろう。
「それは違う! 私は……トラちゃんのことを何よりも大切に思っていた。でも、私が弱かったから貴方を護れなかった。あの頃も、今も。貴方を護りたいという気持ちだけは変わらない!!」
そうだ、何としてもテュランを護る。護れなかったあの時の約束を、これから果たすのだ。たとえ刀が折れようと、腕が千切れようと。
この思いだけは、決して揺るがない。
「くそ、キレイ事ばっかり言いやがっ……くっ!! 何で、こんな時に……」
不意に、テュランの表情が歪んだ。剣を取り落とすことは無いものの、その足元は覚束ない。おかしい、サヤはまだ彼に一撃も与えていない。
演技をしているようには見えないが、傷を負ったわけでもない。
「……もしかして」
心当たりはあった。彼の資料に書いてあった、ファントムペイン。幻覚の痛みを感じるというのは、本当だったらしい。
「……ごめんね、トラちゃん」
卑怯だという自覚はあるが、今が好機だ。サヤは刀から手を離すと、胸元に隠していた小型の拳銃を取り出す。
刀が派手に床を打ち鳴らすのと同時に、サヤはテュランに向かって引き金を絞った。
「ッ!? お、ねえちゃん……?」
「少しの間、眠ってて」
弾丸を撃ち出すものとは違う、空気が抜けるような音。発射された矢が、テュランの胸元に突き刺さる。
「ちくしょう……人間、なんかに……」
そう言い残すと、テュランはその場に倒れ込んでしまう。矢から注入される麻酔薬が効いてきたのだろう、彼が目を覚ます様子は無かった。
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