第19話 ビンゴゲーム

「そうそう、すばるちゃんといーくんにもプレゼント用意したのよ」

 しばらくすると、話がひと段落したらしい美咲さんが俺達の元へやって来た。


「えっ、私にもですか?」

「ええもちろん。今あっちゃんに持ってきてもらってるから、ちょっと待っててね」

 驚く俺に、ニコニコと美咲さんが答える。

 ちなみにあっちゃんとは一宮雨莉に美咲さんがつけた愛称である。

 

 数日前、二十五日には俺は何を持って行ったらいいかと稲葉に尋ねた時、手ぶらでいいからと言われた。

 食事もご馳走になるだろうし、前回の歓待ぶりを思い出すと、流石にそれは気が引けたので、とりあえず五千円位の箱に入ったお菓子を手土産にやって来たのだが、こんな事なら美咲さんにも何かプレゼントを持って来れば良かった。


 稲葉の方を見れば、

「細かい事は気にしなくていいから、貰っとけ」

 と言われた。


 稲葉曰く、美咲さんが誰かに物を贈るのはもはや身体に染み付いた習性のようなもので、むしろ受け取らない方が落ち込むので、素直に受け取って喜んだ方が美咲さんも喜ぶらしい。


 そうして一宮雨莉が持ってきた包みを開けてみれば、中には可愛らしいデザインのバッグと財布が入っていた。

 美咲さん曰く、バッグはクリスマスプレゼントで、財布はこの前のお詫びだそうだ。


 お詫びと言われて、すぐにこの前の貧乳事件の事だと解った。

「私はそんなに気にしてないし、ここまでしてしていただかなくても……」

 俺がそう言いかけると、

「もしかして、気に入らなかった?」

 と美咲さんがしょんぼりした顔で言った。


 直後、美咲さんの隣にいた一宮雨莉の目がスッと細められたのを見て、あ、コレ断ったら駄目なやつだ。

 と直感的に感じた俺は、すぐさま、

「そんな事ないです! すっごく嬉しいです!」

 と言いなおした。


 すると美咲さんはすぐに笑顔になって、

「そっか、良かった~。実は今度新しくアパレルブランドを立ち上げる事になって、コレはその試作品なんだ」

 なんて楽しそうに言っていた。

 俺はとりあえずの危機が去った事に安堵した。


 ちなみに稲葉は最新の薄型テレビを貰ったらしく、後日稲葉の暮らしている家に送られて来るそうだ。

 俺の知ってるクリスマスのプレゼントと違う。


「さて、それじゃあそろそろ毎年恒例のビンゴ大会でも始めましょうか」

 美咲さんがそう言うと、正弘さんや雪子さん、一宮雨莉の顔つきが変わり、いそいそと辺りを片付けたり、何やら準備を始めた。


「なんか急に雰囲気が変わったけど、何が始まるの?」

「我が家のクリスマスパーティーの目玉企画だな」

 突然の空気の変わりように、驚きながら俺が稲葉に尋ねると、稲葉まで妙に神妙な顔つきで応えた。


 皆がここまで真剣な顔つきになるビンゴ大会とは一体……

 そんな事を考えていると、準備が終わったらしく、美咲さんがビンゴカードを俺達に配り、ガラガラ回すタイプのビンゴの抽選機とホワイトボードの前に立った。


「はいは~い、それではこれからクリスマスビンゴ大会を初めま~す。それではまずは今年の商品の紹介から始めましょう」

 美咲さんが楽しそうに発表していく。

 そして俺はその商品の顔ぶれに絶句する事になる。


 まず第一位、一番最初に列を揃えてビンゴした場合の商品、当たり年1990年のロマネコンティ。


 ロマネコンティは世界最高級のワインと言われており、安くても三十万円台、当たり年なら数百万、ビンテージ物だと数千万はする代物だ。

 今回の物はビンテージという程でもないので、恐らく数百万というところだろう。

 

 第二位は沖縄のペア旅行。この場合、一応この場にいる参加者は皆相手がいる事になってはいるが、俺か稲葉が当てた場合は、当然二人で行く事になり、更にその写真を撮って美咲さん達への報告が必須となる。

 面倒臭いので、できれば避けたい所だ。


 第三位は高級ホテルのランチビュッフェのペアチケットだ。

 コレ位なら別に別に行ってもいいかもしれない。


 第四位は五千円の商品券という、いかにもはずれ風な商品だが、俺としては一番この辺が無難な気がするのでこれでいい。

 むしろ、俺の持ってきた手土産の額を考えると、これがいい。


 そして第五位、実質的にビリであり、位置付け的には罰ゲームにあたるらしい。

 ビンゴゲームで最後まで列を揃えられなかった人間は、何でも一つだけ美咲さんの言う事を聞く。というものだ。

 何を言い渡すかは、誰がビリか決まってから美咲さんが決めるらしい。

 ビンゴ大会の商品は全て美咲さんが用意し、美咲さんはゲームにも参加しないそうだが、つまり、これが美咲さんのこのゲームにおける『うまみ』なのだろう。


 前回のビリは正弘さんで、スマホのGPSで場所がいつでもわかるように設定させられ、今後はスマホを常に肌身離さず持っている事を約束させられたらしい。

 なんというか、これは逆に正弘さんがそう言い渡されるまでに何をやらかしたのか気になるエピソードである。


 前々回のビリは、当時軽く反抗期に入っていた稲葉で、美咲さんの命令により、丸一日美咲さんと一緒に過ごすようにと言い渡されたそうだ。

 ちなみに、風呂も寝る時も一緒だったので、ちょいちょい感じる一宮雨莉の気配に終始怯える事になったらしい。


 一体何をさせられるかわかったもんじゃないので、俺としてはなんとしても避けたい所だ。

 そして一時間後、稲葉は四位の商品券を当て、俺はビリになっていた。

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