温度も、湿度さえも。

山田優美

第1話 現在の1年前。(五紀)

2015年8月。午後。大阪・梅田。

盆休み明けで会社員は止まることなく歩き続ける。これが現実。

なんとも胸焼けっていうか、モヤモヤっていうか。ずっと気持ち悪い。


「・・・おーい。聞いてる?ねーってば。」と、隣から高い声が聞こえて私はハッとした。

「あ、ごめん。ぼーっとしてた。」そう返すと、はいはい。とため息まじりにニコッと笑ってくれた。

五紀いつきさ、知ってた?だいちゃんのこと。」

わたしは”だいちゃん”の単語にビクッとする。

「え?何?」

何も興味ないよってフリして美穂子みほこに聞き返した。

「まぁ、10年も前に別れてるしね、どうでもいいよね。・・・今大阪に住んでるらしいよ。」

美穂子とは小学校からずっと一緒。大学も地元を離れたくて一緒に。

もちろん会社は違えども勤務先は近いし、2人とも外回りの営業だし、ランチも頻繁に。

そこそこ社会人になって、収入も人並み以上にあって、何もはない。それだけ。

あとは何もない。

「そうなんだね。」

それだけ言うと美穂子みほこはもう何も言わなかった。




この季節。夏の終わりに近ずくこの時期。

多分…今から雨降るんだろうな。

匂い。湿度。


大っ嫌いなのに。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る