幕間
どれ程の時を、この荒野で過ごしてきたことか、もはや良く分からない。眠くなる訳でもなし、ただただ、目の前を往く列を眺めているだけ――そんな日々が続いた。
「……そろそろ、時間だな」
隣に座っている隻眼の男が、ぽつりとつぶやく。
「あぁ? 何の時間だ?」
「まぁ、まぁ……見てれば分かる」
「見てればって、何を……」
男は言葉の代わりに、ゆっくりと進む列の方を指差した。
そして、一人の女性に目がとまる。長い栗毛の女――なんだか、見覚えがあるような気がした。
「ほぉら、言った通りだろう?」
男の顔が、得意げな笑みで染まった。
「……確かに、あの女のこと、知っている気がする……だけど、お前はなんで、このタイミングでアイツが来ることを知ってたんだ?」
「さぁってね……まぁ、おいおい話すさ。それより、折角久々に知り合いに会えたんだ。声をかけてきたらどうだ?」
「あ、あぁ……」
私は立ち上がって列へと向かい、栗毛の女に声をかけようとした。しかし、何と声をかけたものか――悩んでいると、少し列が前に進んでしまった。このままでは、いってしまう。そう思い、ともかく女の手を取ることにした。
「お、おい、お前……」
手を取られた女は、虚ろな目で、しかしこちらを向いてくれた。そして徐々に目に力を取り戻してきた。
女の手を引いて、共に列から離れる。そして、互いに顔をじっと見合わせる――こちらがなんとなく見覚えがあるのだ、向こうもこっちに覚えがあるのかもしれない。
「……貴女は、えっと……」
「お前は…………」
「……ジーン?」
「マリア……?」
互いに、名を呼んだのは同時だった。そして、己の名を呼ばれた瞬間――やっと、全てを思い出した。
「お、お前、どうしてこんな所へ!? いや、そもそも私は……!」
思い出したが故に、一気に混乱してしまった。そう、自分は死んだはずである――それでは、ここはどこなのか。まさか、あの礼拝堂で教わった、天の国なのだろうか。しかし、全然そんな感じはしない。厳かな感じなど微塵にも感じない。逆に、地獄のような恐ろしさも無い。幸せも無ければ、苦痛も無い――つまり、ここは天国でもなければ、地獄でもない、そんな場所だった。
「そう……ここが、大いなる意思へと通づる道なのね」
どうやら、マリアの方は自分を取り戻したことで、色々と合点がいっているようで、静かに列の先を見つめている。
「お、おい、どういうことだ? そもそも、お前はなんでここへ……」
「逆に聞くわよ、ジーン。貴女は、なんでここへ来たの?」
「それは……」
そう、フランク・ダゲットに心の臓を打ち抜かれて、しかし暴走体と化して、その後は――。
そこで、隻眼の男が楽しげな様子で、手を振りながらこちらへ歩いてきた。しかし、記憶を取り戻した今ならば――そう、私はこの男のことを、生前に一度だけ見たことがあった。
「そうそう。俺たちはネイにあの世に送られたお仲間同士ってことさ。紹介が遅れたな。俺の名はウィリアム・J・コグバーン……というか、一回は顔を合わせたこともあっただろ?」
もっとも俺の方は、お前さんたちはでかくなってて、全然分からなかったけどな――男はそう続けて豪快に笑った。
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