遺伝子ファッショナブル
綿貫むじな
第一章 学園カニ男
1-1 美女と甲殻類
昔は遺伝子組み換え食品と言うと、何の遺伝子が組み込まれているのかわかったもんじゃないと不審がられていたらしい。
勿論、それはアレルギー持ちの人であれば当然の心配である。組み込まれた食物の遺伝子によってアナフィラキシーショックを引き起こせば死に至る危険性もあるからな。
それに加えて、何らかの悪意を持って作物に遺伝子を組み込んでその土地や人々に害を与える、或いは自らの利益になるような物に仕立てるという悪どい事をやっている企業等もいたから、それはもう大変な議論のネタになっていた。
…今となってはそのような議論は流行らないだろうが。
何故ならば、人類自体既に遺伝子組み込み、或いは組み換えた人々が溢れているからだ。
カジュアルに人々が遺伝子組み込み、組み換えを行うようになってから100年経過した。
誰もが気軽にファッション感覚で遺伝子を組み込み、或いは気に入らない遺伝子要素を楽に排除出来るようになった事で、普通の人々とは異なる存在「キメラ人」が巷に溢れるようになった――と、今授業をしている歴史の講師は熱く語っている。
本当に凄い技術ではあるのだが、何処でどのような経緯で生まれたのかまでは教科書には記述が無い。
講師に聞いてみた所で多分明確な答は帰って来ないだろう。大人の事情、って奴だ。
そして、キメラ人と遺伝子を意図的に弄っていない人の割合は「6:4」である。今の時代、弄っていない人の方が割合的には少ない。
今時背中に羽を生やした人など、珍しくもなんともないのだ。
ただキメラ人とは言え、外見に組み込まれた生物の遺伝子的特徴が発現するのはそこまで多くはない。半数は普通の人間と同じ見た目だ。その生物の特性の一部を受け継いでいるだけの場合が多い――。
が、中には受け継いだ生物の遺伝子的特徴を色濃く残す奴も居る。
講師が頭を掻きながら俺をチョークで指した。
「蟹江!蟹江敬一!教科書142ページの冒頭から読んでくれ!」
俺、
苗字の通り、俺はカニの遺伝子を受け継ぎ、その遺伝子的特徴を色濃く残している。と言っても、特撮の怪人カニ男みたいな容貌は流石にしていない。肌が通常の人よりも赤みがかっており、硬い。ある程度の衝撃であれば跳ね返すくらいの硬度がある。
そして一番の特徴であるハサミを持っている。人差し指と中指でチョキを作った時、指の内側が刃になっている。おかげで鋏要らずときた。
ハサミは両手にあるが、腕のサイズも左右で違う。俺の場合は左腕の方が右腕とくらべて1.5倍ほどの大きさがある。シオマネキみたいな腕をイメージしてもらえばいい。
夏は袖が短いので良いのだが、長袖の服を着ようと思うと大概特注になるので困るといえば困る。左腕に合わせようとすると服がダボダボになってしまう。
いま着ている制服も当然特注品で、左腕の袖だけ大きめに作ってある。
俺は指定された箇所の朗読を終え、着席した。教師がこの箇所について説明しようとすると――。
ここでチャイムの音が鳴り響く。時間を見れば正午丁度を針が指している。
今日の授業はここまで、と言い講師が教室を後にすると、一人の男子生徒が俺に声を掛けてきた。
「敬一~!食堂に一緒に一緒に行こうぜ!」
こいつは俺の友人でありクラスメイトの、
その苗字の通り、エビの遺伝子が組み込まれているが外見上エビの特徴らしきものは全く発現していない。自ら組み込んだものではなく遺伝で受け継いだものだと言っており、今のところ遺伝子を取り除くつもりもないらしい。
エビの遺伝子を受け継いでるだけに泳ぎが非常に速い。…後ろに向けて泳ぐ時のみ、だが。水泳部に所属しているものの、泳法が決まっている水泳大会ではエビのバック泳ぎは全く活かされる事は無く、タイム自体は普通の人々と全く変わらない。
自分の泳ぎ方が出来れば速いんだけどなぁ、とボヤいており不憫である。が、性格的には明るくて気が良く付き合いも良い奴なので友人も多い。
俺と泰司は連れ立って教室のドアを開いて廊下に出た。今の時間は食堂や売店に行き交う人々で賑やかだ。
食堂は学校の一階にある。食堂に向かう経路に売店もあるのだが、昼食時の売店はさながら戦場に等しい。俺ならばこの左腕で無理やり道を開けて目的のものを買うことも容易いが、そもそも騒ぎの中に突入するのはあまり好きではないのだ。
なにより俺の容貌が目立つので、変な騒ぎを起こす事自体よろしくない。
食堂に行く道すがら売店の様子を眺めると、パンやおにぎり、その他の軽食を求めて生徒が我も我もと食品を入れているカゴに殺到している。より早く、より多く品物を獲得できた奴だけが勝者。ここはまさに弱肉強食の空間だ。
あの中に突入することを考えるとゾッとするな。
「相変わらず戦争だよなぁ、売店はよぉ!たまにはここでメシを買うのも悪くねえよな?」
「俺は面倒だからやらんぞ。どうせお前は俺の影に隠れて合間を縫って買うつもりだろ」
「ははは、その通りだ。ま、俺らは食堂で食うから関係ねえけどな」
食堂に着き、ドアを開ける。入り口付近には食券機があり、生徒が並んで何を買うか迷いながら食品のボタンを押していた。
数分待ち、俺達の順番が来た。何を食べるかは待ち時間の間に既に決めている。俺はかき揚げ蕎麦と梅と鮭のおにぎりを食べる。
泰司はカレーの大盛りを選ぼうとしている。学校の食堂だけあって値段はびっくりするほど安い。
俺のかき揚げ蕎麦とおにぎり2個で500円も行かない。カレー大盛りも450円だ。これは懐が寂しい学生には非常に有難い。
ボタンを押そうとすると泰司が余計な事を喋り出した。
「お、珍しくカニグラタンなんてメニューがある。敬一食わねえか?」
「遠慮する。そんな事言うからにはお前にはエビ天蕎麦おごってやろうか?」
「悪かったよ」
どちらも共食いは心理的に避けたいものだ。自分に由来する遺伝子があるとなればな。
ザリガニのように共食いする生物も居るので気にしない奴は気にしないんだろうけど。
食券機から吐き出された食券を握り、俺達は列の後に続く。食堂で働くおばちゃん達は忙しなく厨房を動きまわり、大きな声で出来た食品を次々と学生に出し続け、注文を手早く捌いている。
列は少しずつ前に移動し、再び俺達の順番が回ってくる。食券をおばちゃんに渡し、少しだけ最前列で待っていると、
「あいよー!かき揚げ蕎麦、梅鮭おにぎりお待ち!」
「カレー大盛りおまち!」
とあっと言う間にお盆に載せられた注文の品がカウンターから渡された。
受け取り、食堂の空いているテーブル席を探す。
丁度食堂の中間の辺りのテーブルがいい感じに空いていたので二人で並んで蕎麦とカレーを食べる。
カレーを食べながら泰司が話しかけてきた。
「午後の授業ってなんだっけなぁ?」
「国語と公民だろ?なんで自分のクラスの授業覚えてないんだよ」
「国語はともかく公民はスゲー眠くなりそう。政治なんか興味ねえんだよなぁ」
「そういう事言う奴が大人になってから色々ゴネるんだよなぁ」
終始泰司はこんな感じで人の話をあまり聞かない。全く困った奴だ。
いつの間にかカレーを平らげ、なんか量が足りないといってラーメンを大盛りで注文しに行くような奴である。そのくせ体重は標準的なのだ。
「ほんと、良く食うよなお前」
「水泳はエネルギー使うからねぇ。食わないとガス欠になっちまうんだ」
ガバガバとラーメンを流し込むように食べる様は見ていて気持ち良いものを感じる。あっという間にラーメンも平らげてしまった。
俺もおにぎりと蕎麦を食べきり、食器を下げた。
まだ休憩時間は半分ほど残っている。
俺は教室に戻って居眠りを決めこみ、泰司は用事があるとかで水泳部の部室へと行った…。
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そして午後の授業、国語の時間。現代文である。
夏目漱石のこころとかいう小説を今学んでいるが、俺は全く小説を読まないので退屈極まりない授業である。純文学は言うに及ばず、ラノベすら読まない。
読むとしても俺の場合は漫画だ。楽に読めて面白いからな。
大体週刊少年誌と青年誌、月刊誌はくまなくチェックしている。それと今はWebで掲載されている漫画も多く、それらも見るとなると時間がまるで足りない。
俺の今のイチオシは「ファイティングスピリット」だ。俺の家が総合格闘技のジムを運営しているってのもあるが、それを抜きにしても緻密で魅せる格闘描写、詳細なトレーニングの内容描写など、良く取材していると思わせる。
何よりグラウンドの関節技をめぐる攻防が凄い。総合格闘技の関節技の掛け合いというのは、素人が見ると地味でわかりづらいのだが、それを見事にわかりやすく映えるように見せている。格闘技が好きで観察し続けていないとこういう描写は出来ない。凄い漫画なのだ。
話がそれた。
例によって、先生があれこれ文章を解説したり登場人物の気持ちを語ったり、黒板に板書している。
俺は板書された内容をノートに記録、羅列する作業を半分眠っている状態で半ば自動書記している。
勉強は諦め気味だがそれでも赤点は回避しないと親になにをされるかわかったもんじゃない。以前おやじのバイクを勝手に乗り回したときは関節技のフルコースを仕掛けられて気絶した。
先生が黒板の板書を一通り終え、生徒たちがノートを取るのをしばし待ったあと、教科書を片手に持った。そして指示棒で一人の生徒を指す。
「えー、102Pの二行目、ここから読んでもらうがー…あー、鮫島百合恵!読んでくれ」
「はい」
率直にいってクラスメイトの男どもは誰もがこの子の事を好ましく思っている。俺もその一人だ。海老沼泰司だけは、見た目が地味であんまり好きじゃねえなって言っている。派手好きな野郎だ。
彼女はよく通る、透き通った声で朗読を始めた。
――「恋は罪悪ですか」と私がその時突然聞いた。
「罪悪です。たしかに」と答えた時の先生の語気は前と同じように強かった。
「なぜですか」
「なぜだか今に解ります。今にじゃない、もう解っているはずです。あなたの心はとっくの昔からすでに恋で動いているじゃありませんか」
私は一応自分の胸の中を調べて見た。けれどもそこは案外に空虚であった。思いあたるようなものは何にもなかった。
「私の胸の中にこれという目的物は一つもありません。私は先生に何も隠してはいないつもりです」――
「んん~、いいね。情感こもってる読み方いいよ、いい」
「はい、ありがとうございます」
読み通し、ふぅと息をつく百合絵。先生は続いて次の生徒を指示棒で指す。
相変わらず、彼女は朗読が上手い。たいていの連中は棒読みで済ます処だが彼女は感情をたっぷり込めて読む。演劇部に入っているからというのもあるんだがそれを差し引いても良い。…ひいきしてる部分もあるけど。
彼女を横目で眺めつつ、退屈な授業のノートを取る。まだ現代文の授業なのでマシだが、これが古文の授業ともなると退屈が3倍増しくらいにまで感じるんだよな。1000年前の文学とかさすがに意味がわからんよ。
そんなことを考えている内に現代文の授業は終わった。
公民の授業は輪をかけてツマラナイもので、こんなん覚えてどーすんだ的な単語がずらずらっと並んでいる。
眠気に耐えつつ授業を受けているが、まったく内容が頭に入ってこない。
しんどい。辛い。耐えがたい。
まぶたをこすりながら授業を受けていると、いつの間にか眠りに落ちてしまっている生徒が俺のひとつ前の席にいた。
「…香田ぁ!寝るな!」
神経質でうすら禿げ気味の公民教師は、チョーク投げを得意技にしている。
鋭く放ったチョークは眠っている生徒の額に、正確に向かっていった。
しかしこの男子生徒は教師が放出している殺気めいた雰囲気に気づくや否や、チョークを指で挟んで直撃を防いだ。
恐るべき察知能力だ。
「先生、チョーク投げはさすがに時代遅れじゃないですかね?」
彼はつかつかと教師の元まで歩いて返したあと、そのまま教室を出て行ってしまった。
「おい、授業を受けずにどこへ行く?」
「眠いし眠いんで保健室でひと眠りしてきます」
「授業を受けんか馬鹿者!」
「いや眠気がハイパーモードなんで無理っす。俺の眠りを妨げるやつは例え親兄弟だろうと許さねえっすよ先生?」
どこの漫画のキャラだこいつは。漫画のようないかつい肉体をしているけれども。
ともかく
憤慨した教師は香田を追って教室を出て行ってしまい、授業は必然的に自習へと変わってしまう。
問題児として名が通っている香田だが、あんな風ではあるが成績は上から数えたほうが早い位置にいる。頭の出来も中々良いのがまた性質が悪い。
泰司が授業が自習に変わったことをいいことに、俺の席までニヤニヤしながら近づいてきた。
「なぁなぁ敬一。香田って相変わらず変だよなぁ?」
「変といえば変だな。高校生にしてはえらいがっしりした肉体してるし、授業中はだいたい寝てることが多いしな」
「あいつプロ目指してるらしいぜ?」
「なんの?」
「格闘家だっけ?総合の。お前んち、そういや格闘技のジムだったけどお前はプロ目指さんのかね?たまにジム所属のプロとスパーリングなんかしちゃってるらしいじゃん?」
「あんなん遊びだよ遊び。ちゃんとやったらプロに勝てるはずないって」
「そうかなぁ?勿体ねえな、お前強いのに」
確かにこの容貌などのせいでケンカを吹っ掛けられる事は多々あるが、望んでケンカしてるわけではない。火の粉が掛かったら振り払わねばならないだろう?
自分が望んでいないにも関わらず、街で一定の噂になっていることは全く気に食わないが。
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放課後。泰司は水泳部に行きいつもの部活動。
俺は帰宅部なので寄り道しつつ自宅に帰る。本来であれば何かしらの部活に入らなければならない。実際格闘技系の部活には結構誘われたが、そこの主将クラスを入部一日でぶちのめしてしまい、即辞めさせられる事が多かった。
また、何とか穏便に入部したとしても他の部員、特に先輩方とは全く反りが合わない(これは俺の態度にも問題があるが)ので揉め事に発展してしまい、やはりその態度だけでかい先輩方をぶちのめしてしまい、辞める羽目になった事もあったな。
結局今に至るまで部活には入っていない。
さて今日はどこに行こうか、と考えながら学校の帰り道にある繁華街を通る。
繁華街は帰宅途中の学生やサラリーマンやOLなど様々な人々でごった返していた。もちろんその中にはガラの悪い連中もいる。
ヤクザ未満の半グレ連中が怪しげな18歳未満立ち入り禁止のキャバクラの呼び込みを行っていたり(大概こういう店はボッタクリの温床だが)、それ以外にもチャラいホストが道行く女性に対してかなり強引な呼び込みを行おうとしていたり。
あるいは、イマイチ評判の良くない学校の生徒、つまり不良校の生徒達が大きな面をしてたむろしていたり。
ゲームセンターの前では白虎高校と呼ばれるこの辺一帯で一番厄介者扱いされている学校の生徒3人組が、ウチの学校の制服を着ている女の子に対してかなり強引なナンパを仕掛けていた。
「ん?」
よくよくその女の子を観察してみると、前髪を揃えて切っており、セミロングの眼鏡の可愛い子…。
もしや、あれは同じクラスの鮫島百合絵か?
しかも状況をよく見てみると、ナンパというよりは無理やり拉致っぽい感じがプンプン匂う。路地裏に連れ込んでそのあとよろしくやってしまおうという意志を強く感じる。
これは見逃すわけにはいかねえな。
早速、奴らの後を追う。三人は背後にはまったく気を向けておらず尾行は容易かった。路地の行き止まりまで行くと誰も居ない事を確認しようとようやくこちらの方を向いて、怪訝そうにこちらをじろじろ見た。
「何だてめぇは?」
「何しにきやがった?」
口々にブレザーを着崩したチャラ男A、Bが言う。
「ウチの学校の女の子をどうするつもりなのかなと思ってね」
「混ぜてもらいたいってか?俺等の後ならやってもいいぜ?」
下品な口を聞いたチャラ男Cを即座に右ストレートでぶっ飛ばす。
男は白目を剥き、殴られた勢いそのままに壁に叩きつけられる格好になった。
「生憎無理やりっていう趣味は俺には無くてね。…その女の子、離してやれよな」
「うるせえこの野郎!死ね!」
男A、Bが同時に殴りかかってきた。俺は素早くAの足を引っかけて転ばせた後、Bのみぞおちに左パンチを思い切りぶち込む。悶絶して息ができずに倒れるBを見届けたあと、立ち上がろうとするAの背後に素早く忍び寄り、チョークスリーパーを仕掛ける。相手はもがき、俺の腕を掴んで離そうと試みるが格闘技経験のある俺の技を素人が外そうとするのは土台無理がある。
数十秒もしないうちに泡を吹き、ぐったりしたので技を外し、路地の行き止まりに放り投げてやる。
鮫島百合絵はその様子をぽかんと見つめていた。
「片付いたな。大丈夫だったか?」
「えっ、ああ…はい、何とか、ケガもないかな。ありがとう」
「ここ、割と治安よくねえ場所なんだけど何か用でもあったのか?君みたいなのがうろちょろしてると危ないぜ?」
「親戚の家がこの近くなんだけど…この通りを抜ければ近道なの。だけど、やっぱり通るべきじゃなかったわね」
様子を伺うと手の震えが止まっていない。やはり相当怖かったのだろうな。
「折角だし親戚ん家まで送るよ。またこんな目に遭うとも限らないからな」
「…ぜひ、お願いするわ」
百合絵はそういうと、俺の右手をぎゅっと握って寄り添ってきた。
意識してないわけではなかったが、こうも密着されると中々気恥ずかしいものがある。同時に、しっかりと守ってやらねばとも決意する。
しかし、路地から出て一緒に歩いていても妙な奴に絡まれる気配はなかった。
こういうのは何だが美女と野獣のような組み合わせだ。何らかの茶化しくらいはあってもおかしくはないんだが…
「あ!お前なに百合絵ちゃんと一緒に歩いてるんだよ!」
なぜかジュースを飲みながら泰司が繁華街に現れた。というか部活はどうした。
「部活は急遽休みになったから遊びに来たんだよ。にしてもなんだお熱いねぇ」
「彼女の親戚の家まで送るだけだ、他意はねぇよ」
「ほんとかぁ~?折角だから俺も一緒に行くぜ。ひとりでも護衛は多いほうがいいだろ?」
「…お前そういってこないだ不良に絡まれた時いの一番に逃げた癖に」
「逃げて助けを呼べるだろ!その間お前が時間稼ぎすりゃいいんだ」
「フフッ」
そうして三人で俺たちは百合絵の親戚家まで目指して歩き出した。流石に手を繋ぐのは茶化されるので辞めたけどな。
「…?」
「どうしたの、敬一くん」
「いや、なんでもない」
背後に何かしらの気配を感じたが、敵意はなさそうだったので放っておこうと思う。…今のところは、と付け加えるが。
…影は路地裏で転がっている雑魚を見下ろし、敬一達を見据えて呟いた。
「やはり強い。自分の遺伝子頼りの連中と違ってそれのみを頼りにしていないのが良いな…」
クックック、と薄気味悪く笑いながら怪しげな影は路地裏から去った。
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1-1:美女と甲殻類 END
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