5-2

 ハウスの面々の証言もあり、マスミンのバイト先の大学生、長浦大志が逮捕された。

 長浦大志はひき逃げの現場を三原孝に写真に撮られ、ゆすられていたという。大手企業の内定をもらったばかりだった長浦大志は写真を奪おうと三原孝の元を訪れ、だが肝心のカメラがなく、もめた挙句に殺害してしまったのだという。

 では、なぜレイが容疑者になっていたのかというと。

 長浦大志が三原孝を殺害した直後、偶然にも三原孝の部屋を訪れ、死体を発見してしまったのだそうだ。

 ――あのときは、さすがの俺も気が動転しちゃってさ。とっさに逃げちゃったんだよね。したら、指名手配されちゃって。

 おもちゃの拳銃から万国旗を垂れ流したまま、レイはあははっと声高に笑った。みなが呆然とする中、レイは椅子にでーんと座り直して、焼酎のお湯割りの続きを飲み始めた。

 ――いやー、酒がうまいね!

 レイと三原孝は飲み屋の常連客同士で、レイが貸した飲み代をいつまで経っても返してくれないので催促に行ったところだったらしい。

 ――無実なら……私を脅してこのハウスに居座ったりしないで、警察で事情を話せばよかったじゃない!

 レイはお湯割りのグラスを空にし、テーブルに音を立てて置くと、すっと立ち上がった。甘いな、と座り込んだままの私の手を引いて立たせて笑んだ。

 ――俺、凶器にも触っちゃったし、防犯カメラにも映っちゃったの、気づいてたんだよね。こりゃ、犯人にされかねないなって思って。……え? なんでいろはの部屋にいたのかって? それは、いろはがカメラを盗んだのを見てたからだよ。気になって、いろはがこのハウスに帰るまであとつけたんだ。で、それから三原孝のマンションに戻ったの。したらびっくり、死んでたってわけよ。

 放心している私の頭を、レイはぐりっと回すように撫でて、髪に手ぐしを入れた。

 ――ほんっと、ごめんねー、脅したりして。でも、このハウスにいたら、色々と情報が集まりそうな気がしてさ。俺も必死だったのよー。

 レイはこちらも事態を飲み込み切れていないマスミンからカメラを受け取り、私と彼が写っている写真を選択すると消去した。

 ――これで恨みっこなしだ。いろははこのカメラ、拾ったことにしたらどう?

 ――でも……なんで僕らまで脅すようなことをしたんだよ!

 イズミンを抱きしめた姿勢のまま、納得いかない様子の悟くんに、あー、とレイは悪びれた様子もなくジャック・オ・ランタンの笑みを向ける。

 ――やー、悪い悪い、ついつい酒の勢いで。スリルとサスペンスでハラハラしたろ?

 ――ふざけんな! 寿命が縮んだだろ!

 ――でもさ、飲ませたのは君じゃん?

 悟くんはもはや怒る気力も失ったようだった。それから、腕の中にいるイズミンのことを思い出したらしい。ハッとした顔になって、ごめん、と呟き慌ててイズミンから離れて嘆息した。

 ――あんた……なんなんだよ、一体。

 レイは面々の顔を見回して、満面の笑みで答えた。

 ――ただの二十九歳独身の一般男性だよ。前世では探偵だったかもしれないけどな!

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