第47話 another day comes


 三月一日、全国各地で高校の卒業式が行われた。

 私立洸陵第一高校もその流れにのっとり、有希と田中、そして愛美も無事卒業証書を授与された。

 三人とも大学に合格し、特に愛美は東芸大だということで、校舎の一階にある「合格者一覧掲示板」にひときわ大きく名前が貼り出された。ピンクの造花まで添えられ、通りすがる生徒や保護者が一様に、驚きと羨望を持って見上げて行く。学校側としては進学先に箔がついてホクホクだ。

 愛美の隣には同じく、笹井の名前もある。合格先は違う大学だが、愛美はとても心強かった。

 笹井は東京暮らしへの不安をこぼす愛美を心配して、向こうへの出発を同じ三月二十日に合わせてくれ、飛行機の手配も代行してくれた。それに部屋も愛美のマンションから電車で一駅のアパートを選んでくれた。何かあったら簡単に往き来出来るところに友達がいるのは本当にありがたい。愛美は心から笹井に感謝していた。


 ◆


「いい天気……」


 空は快晴で、窓から差し込む午前の陽が温かい。もうすぐ四月、この北の地にも春が来るのだと思いながら、愛美は自室から見慣れた風景を眺めていた。

 今日、この家を出て東京へ移る。

 新しい部屋は女子専用の防音マンションで、建物は古いが東芸大まで歩いて十五分ほどだ。更に近隣にはコンビニや地域の商店街もあり、交通機関の利便性も良い。初めての一人暮らしには嬉しい要素ばかりだ。

 そして、マンションには小型のグランドピアノが入ることになっている。現地に住むミッキーの知人を通じて、程度の良い中古品を安く譲ってもらったのだ。

 早く弾いてみたい。期待が高まる一方で、三歳から連れ添ってきたアップライトピアノと離れるのが寂しかった。


「お世話になったなあ……」


 今までのふれあいを思いながら、愛美は窓際を離れ、ピアノの前に座った。

 昨日磨いたつやつやの蓋を開け、鍵盤に手を置く。初めてこうしたとき、まだ手が小さくて一オクターブに届かなかった。

 懐かしい。

 しばしの別れに何か一曲弾こうと思った。

 別れと言えばショパンだが、あれは悲しすぎる。少し考えて、中学一年のときに習った「愛の夢第三番」を選んだ。当時の憧れだった曲だ。

 両手を鍵盤にのせ、左の1の指でセンターのEフラットをゆったり鳴らす。


「愛情をこめて、優しく歌うように……」


 歌い始めたメロディは指定された記号より少し遅く、右手と左手の間を、シフォンのような分散和音をなびかせて優雅に往来する。その響きのなかで、愛美は回想に身を任せた。

 習った当時はハードな運指に苦労したが、今ではもう苦しさはない。早いパッセージも、ジャンプと分散和音の連続も、すべて指が覚えこんでいる。この穏やかな雰囲気から燃えるように盛り上がるのが、何度弾いてもたまらなく好きだ。

 思えばこの曲を習得したとき、仕事であれ趣味であれ、一生ピアノを弾き続けようと決めた。それほど憧れの曲は素晴らしく、強烈な感動をくれた。

 それから今まで、曲を幾つも弾いてきた。でもまだまだ弾きたい曲がありすぎる。きっと一生かけても、この世に存在するピアノ曲すべてはおろか、弾きたい曲をすべて弾くのは無理だ。そんな果てのない世界が、これからも続く。

 なんて素晴らしいのだろう。

 進学を許してくれた父、そして最終的に味方になってくれた母、指導してくれた真由美先生とミッキー、応援してくれている有希や田中、笹井、佳澄――自分を助け、励ましてくれる人達を想いながら、最後の主旋律を優しく鳴らす。そして弾きおわってから、雄介の笑顔を思い出した。


(そうだこの曲、雄介に聴かせてなかった……)


 今さら気づいたうっかりに、つい笑ってしまった。彼が好きそうな曲ばかり探していて、自分が影響を受けた曲を披露するのを忘れていた。


「あー、アホだ私」


 一人で笑いながら鍵盤を拭き、蓋を静かに閉めた。もう過去のこと。すべての激情はあの夜、空っぽにした。

 そろそろ出発の時間だ。愛美は大きなバッグを持ち、ドアへ向かった。開けて廊下へ出るとき、ふと、ピアノの上に置いた御守に目がいった。

 あれは持たなくていい。思い出として、ピアノとともに置いていく。


「……行ってきます」


 愛美は小さな声でピアノと御守に挨拶し、静かにドアを閉めた。


 仕事で不在の父に代わって、母が自宅から送り出してくれた。

 心配が転じて不機嫌な顔で出勤していった父に対し、母はいつもと変わらずに「いってらっしゃい」と明るく笑った。母も三日後に引っ越し手伝い(と言いつつ観光目当て)で上京する予定だし、どうやら笹井がいるなら安心だと思っているようだ。

 そして実際、愛美も安心していた。

 笹井は優しく、ときに面白く、音楽についても良く勉強していて、マニアックなことをとことん語り合える貴重な相手だ。そして自分よりもしっかりしていて、いつも足りないところを助けてくれた。

 予定通りの時刻に、バスが札幌駅に到着した。するとバスターミナルに笹井の姿が見えた。心配そうな顔できょろきょろしている。まるで迷子を探すお父さんのようで、愛美はバスを降りるとふざけた調子で近寄った。


「あ、おとーさんお待たせ!」

「誰がおとーさんだよそんなデカイ娘産んでないっちゅーの!」


 愛美の姿を見つけた瞬間、笹井は期待通りノッてくれた。おかしくて不安も吹き飛ぶというものだ。

 それから構内を移動して千歳線のエアポートに乗り込み、他愛ない話をしているうちに千歳空港へ到着した。


「わあ、飛行機がいっぱい!」

「いやそれ隣の自衛隊だから民間人乗れないから」


 ボケ担当の愛美がはしゃぐと、ツッコミ担当の笹井が応える。これがいつもの二人のスタイルになりつつあった。

 長い連絡通路を通って国内線搭乗口へ到着する。まずチェックインしてから空港内をうろうろした。

 有名チョコレート店でおやつを買い、土産店で観光客に混ざって試食し、美味しそうなスイーツ店でアイスを食べる。まるでおのぼりさんになった気分だ。笹井に至っては「何だかデートみたいだよね」などと笑っていた。

 アイスを食べ終わって搭乗口へ戻ると、愛美の携帯に有希から着信があった。わざわざ見送りに来てくれたのだ。乗客で混み始めたフロアを探すと、有希は一人で自動ドアの横に立っていた。


「お、会えた良かったあ!」

「ありがとう有希、わざわざ来てくれて」

「当たり前でしょ、何たって愛美の旅立ちだからね」


 有希は駆け寄って手を伸ばし、愛美の頭を慈しむように撫でた。


「いよいよ行っちゃうんだね、寂しくなるよ」

「うん、またメッセージするね」

「毎晩?」

「するする」

「マジに?」

「八割がたの確率で」

「私のこと忘れないでね」

「忘れないよ、忘れるわけないじゃん」

「ええっと、なんかキミ達、付き合ってます?」


 じゃれる女子達へ、横から笹井のツッコミが入る。その間が絶妙で、三人でげらげら笑った。


「愛美、頑張っといで。笹井、この子を頼んだよ」

「りょーかいっす!」

「いや子供じゃないしもうすぐ大学生だし」


 有希と笹井が親指を立てて頷きあう。もうオトナだから保護はいらないと不満を言ってみても、二人はまったく聞いていない。そのうちに搭乗のアナウンスが流れ、愛美は有希と夏休みの再会を約束して別れた。


「有希、またね!」


 搭乗ゲートの前でもう一度手を振ると、彼女も笑顔で大きく振り返してくれた。

 大切な親友と離れる――また会えると判っていても悲しくなり、目が潤む。それを瞬きと笑顔で隠して荷物検査を終わらせ、待合室へ移動した。


「怖いと思ってたけど良い人だね、島野さん」


 待合室で、隣に座った笹井がポツリと呟いた。


「うん、ホントいいヤツ。何でも話せるんだ」

「そうなんだ。じゃ色々、相談とかもしてるんだ」

「うん、色々ね」

「恋愛とかも?」

「そう。全部知られてる」

「マジか! じゃあ彼氏の悪口も言ってる?」

「あはははは、言ってたーしかもたくさん!」

「うわあ、筒抜けかあ! ヘタなこと出来ないね、愛美ちゃんの彼氏。って過去形かあ」


 笹井は大袈裟に頭を抱えたあと、何やら一人で頷いていた。

 そう言えば、笹井から「彼氏」について聞かれたのは初めてだ。一方で愛美も笹井に聞いたことがない。正直、笹井に彼女がいても問題ないのだが、彼女がいるのに親しくするのは良くない。もし自分だったら、彼氏が女友達と親しくしていたら絶対に嫉妬してしまう。


「そう言えばさ、笹井くんて彼女いるの?」

「ん? さあどうでしょう」


 笹井は何故か満面の笑みで応えた。

 ここでこんな反応を見せるなんて、逆に聞いて欲しくないのかもしれない。見送りもいなかったし、もしかしてケンカ中とかなのだろうか。ヤブヘビだったと後悔しつつ、愛美は曖昧な笑顔で相槌を打った。


 まもなく搭乗時間を迎え、愛美達は飛行機へ乗り込んだ。座席は機内中央近くの窓側列だ。三つ並んだ座席の一番窓際には知らないサラリーマンが既にいて、真ん中に笹井、そして一番通路側に愛美が座った。

 初めて乗った訳ではないのに、何度乗ってもドキドキワクワクする。落ち着かない愛美を見て、笹井は「小動物の子供みたいだ」と笑っていた。

 やがてお決まりの様々なデモンストレーションが終わり、機体がゆっくり動き出した。旋回して滑走路へ入り、少しずつ加速していく。重力を感じたと思ったら、すぐに機体は鼻先を上げて飛び立った。


「あーどうしよう飛んじゃった、もう戻れないよー」

「落ち着きなさいお嬢さん、ってかもうホームシック?」

「まさか、ちょっと言ってみただけ」

「ですよねえ」


 上昇する感覚は最初の十分ほどで、やがて穏やかに水平飛行へ移った。愛美も笹井もリラックスした頃、シートベルト着用のサインも消えた。


「今、どのへんかな」


 ふと、笹井が機内ディスプレイを確認した。機体はどうやら苫小牧から道南方面へ向かい、津軽海峡にもう数分で差し掛かるようだ。笹井は納得したように頷き、携帯を三度タップして愛美の腕をつついた。


「ん?」

「そう言えばさ、今朝、良い曲見つけたんだ」


 笹井が携帯の画面を見せてくる。そこには「FREE-M」というパープルのロゴと、たくさんの動画のサムネイルが表示されていた。


「わ、何これ?」

「音楽専門の無料投稿サイト。素人中心でポップスとかロックとかばっかなんだけど」

「へえ、初めて見た」

「ホント? これのさ、この、brumって人。今月から登録したみたいなんだけど、すごい良いの」


 笹井が愛美に頭を寄せ、右手で画面をタップする。ランキングから開かれたそのチャンネルは、トップにハミングバードの画像が貼られていた。


「きれいなギター。すごいね、鳥の絵が描いてある」

「ねー、高そうだよね。この人、弾き語り系みたいでさ……あ、これ。愛美ちゃんに聴かせたいんだ。GIFTって。すごく良い曲で、今朝ちょっと泣いた」


 イヤホンを片方渡され、それを左耳にはめ込むと、笹井が動画をスタートさせた。音量が小さくてイントロが聴こえない。気づいた笹井がすぐにボリュームを上げてくれた。


「……え?」


 左耳からピアノとギターの音、そして歌声が流れてくる。それは懐かしい曲と恋い焦がれた彼の歌声だった。


「うそ……」


 愛美の思考が停止した。

 心に歌が真っ直ぐ流れ込んで来て、深い湖を作るように溜まって行く。


「あのさ、愛美ちゃん。その……津軽海峡越えたら言おうと思ってたんだけど」


 彼がまた、歌い始めた。

 月光にこめた願いが届いたのだ。何て嬉しいことだろう。しかもこの曲を――それだけで彼の心が、気持ちが判る。二度と逢えなくても想っていると伝えてくる。

 いいや、二度と逢えないなんて絶対に嫌だ。

 消したはずの想いが、心に生まれた湖の底から泡のように沸き上がる。たちまち熱を発し、湖水を温め始めた。


「この曲の歌詞じゃないけど、実は、ずっと愛美ちゃんのこと気になってて。ほら、去年ドーナツ食べに行ったじゃん。あの時に決めたんだ。もし一緒に本州行けたら言おうって」


 今すぐ逢いたい。逢って、顔を見て、抱きしめたい。でももう飛行機は飛び立ってしまった。引き返すことは出来ない。それでもこの歌のように想ってくれるだろうか。


「今朝、この歌に勇気貰ったよ。ホント、こんなにウマが合うなんてミラクルだと思ってる。だから、あの、愛美ちゃん、僕とつきあっ……」

「ゆう、すけ……」

「え?」


 愛美からこぼれた誰かの名前に、笹井が驚いて愛美の顔を覗きこんだ。すると伏せられた瞳から涙がポロポロこぼれていた。


「え、ええ、愛美ちゃん?」

「御守……」

「何?」

「御守、置いて来ちゃった。どうしよう……」

「へ? ええっ?」

「おお、おまもりいいぃっ!」


 突然号泣しだした愛美に、隣のサラリーマンが「何を泣かせているんだ」と言いたげに笹井を横目で睨んでくる。それにバツの悪い笑顔で応えながら、笹井は訳のわからないまま諦めざるを得なかった。


 ◆


 愛美が旅立って三日後の昼、雄介は清称寺にいた。昨日から練習小屋を借り、新しい曲の録音と編集をしていたのだ。

 やり慣れた場所と機材のおかげで作業はスムーズに終わり、ついでにいくつかアイディアも浮かんだ。あとは自宅に持ち帰り、ネットにアップロードすればいい。

 広げた機材の後片付けをしていると、ドアがノックされた。


「開けるぞ」


 言い終わる前にドアが開き、カーテンをかき分けてコウが顔を出す。声かけする意味がないと心の中でツッコミつつ、雄介は頷きで迎え入れた。


「どうよ作業?」

「ん、もう終わった。ありがとうコウさん、また次も頼むわ」

「おう。いつでも来いよ、どうせ今使ってねえし」

「マジか。でもまだ叩いてんだろ?」

「たまにな。ストレス解消によ」


 コウはジャンパーを脱いで作務衣になり、雄介の片付けを手伝ってくれた。


「そういや、閲覧数けっこう上がって来たな」

「ん? ああ、うん」

「ランキングも五十位以内まで来たし、良かったな」

「……まあな」


 心なしかコウが安堵しているように見えて、雄介も嬉しい気持ちが沸いた。

 三月一日からbrumというアカウント名で「FREE-M」に曲の投稿を始めた。顔は出さず、プロフィールも最低限の公開で、風景画像や街中の動画に曲を載せている。今のところは十曲全部弾き語りで、カバーが七割、オリジナルは三割だ。ちなみにバンド時代に演っていた曲は、カバー以外出していない。

 投稿当初はほんの数人の閲覧だったが、三月五日に「トゥルーカラーズ」をアップしたところ、誰かがツイッターで拡散し、そこからチャンネルの閲覧と登録数が跳ね上がった。名曲の力は絶大である。

 意外だったのは、そこで横田に見つかったことだ。

 横田は直接携帯に連絡を寄越し、活動再開を祝うとともに雄介の心身を案じてくれた。そして、ソニラブの滝本から「新しい音楽事務所を立ち上げたので是非連絡してくれ」と言伝てされた旨を知らせてくれた。

 滝本の気持ちはありがたいが、しばらくはマイペースでやっていきたい。申し訳ないが今のところ、滝本への連絡はしないつもりだ。

 機材の片付けを終わらせ、コウとともに練習小屋を出た。外は曇り空で気温も低く、残雪があちこちにある。それでも融けた雪の狭間にふきのとうが顔を覗かせていて、もうすぐ訪れる春を待ちわびている。


「……そろそろ一年だな」

「ん?」

「アイツが死んで」


 雄介が歩きながら洩らした言葉に、コウはふと空を見上げた。


「一年……長いような短いような、だったな」

「ホント。そういやダグ、元気かな」

「元気みたいだぞ。ニセコで好き放題やってるらしい」

「マジかよ」


 ダグラスは去年の夏、彼女に振られたあと、知人の勧めでニセコへ移住した。向こうではバーに勤め、空いた時間で通訳のバイトをしたり、観光客に混じって山や川で遊び呆けているようだ。時々ベースも弾いていて、酔っ払った顔で現地のオージー達とセッションしている動画を、自身のインスタグラムに投稿していた。


「一周忌には出るって言ってたけど、お前はどうする?」

「出るわけねーじゃん」

「そうか。来たら弁当と酒くれえは出るのに」

「いやそれで釣ろうとしてね?」


 雄介の軽い返しに、コウは声を上げて笑った。

 本堂まで来ると、コウは次のお勤めがあると言って戻って行った。雄介はそのまま寺を出ようとして、ふと正門の前で立ち止まり、携帯を出した。

 FREE-Mから通知が来ている。誰かがコメントをくれたのに嬉しくなりつつ、ネット上のマイページを開いてチェックした。

 コメントは五件、そのうち四件がカバー曲に対する短い感想で、知らないアカウントだ。そして三分前に来た最新の一件は、二十日の未明にアップした「GIFT」に寄せられていた。

 この曲を公開することで、彼女への想いにケリをつけたつもりだった。ところが、そんな「GIFT」にコメントがついた。

 にわかに緊張が走る。まさか、という予感が雄介の心臓をざわつかせた。


「最後のサビにコーラスで、I mss you everywhereって入れて」


 投稿名は「emi」だった。彼女だ。愛美が見つけてくれたのだ。

 何とも言えない気持ちが一気に膨らみ、飛び上がりたくなるのを必死に堪えた。

 ネットに存在する数多の曲のなかで、この曲が彼女の耳に届いた。諦めたはずの想いが彼女に伝わった――こんな奇跡があるだろうか。

 コメントをもう一度読み返し、震える指でマイページを閉じた。それから祈るように目をつぶった。


「ありがとう……」


 万感の思いをこめ、この寺で眠る男へ告げる。そして「GIFT」が繋いでくれた細い糸をたぐるように、すぐ彼女へ電話を掛けた。

 呼び出し音が鳴る。ブロックされてなかったことに安堵しつつも、コールと一緒に心臓が高鳴る。五コール目で繋がり、しばらく聞けなかった愛しい声が遂に響いた。


「……雄介、なの?」


 名前を呼ばれただけで、泣きそうになった。

 何を話そう、何て謝ろう、そしてどうやって、今も想っていることを伝えよう。

 ぐるぐる巡る気持ちが纏まらず言葉に出来ない。でもどんなに離れても、音楽という奇跡がある限り、二人の絆は消えないと感じた。


「どこにいても、お前が恋しい……愛美」


 貰ったコメントにありったけの気持ちを載せて、本物の言葉にして伝える。束の間の無言のあと、携帯の向こうから小さな罵り言葉と泣き笑いが聞こえた。


 願いをこめたGIFTによって、時間と距離を越え繋がった瞬間だった。そして二人は再び交差し共鳴し始める。

 永い「ラブソング」の始まりだった。



(了)

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