俺はラブコメがしたいッ!

珍王まじろ

一年生編・一学期

第1話・リア充共×爆発しろっ!

「あなたが……好きでした」


 どれだけこの時を夢見たか。キツイ失恋や恋人持ちリア充共への嫉妬、思い返せば切りが無い、苦く辛い思い出の数々。

 だが俺は勝者になった。彼女持ちという青春全開の高校生活がこれから始まるんだ。


「俺も君が好きだよ」

「本当? 嬉しい……」


 彼女は瞳に涙を浮かべつつ、嬉しそうに顔を紅くして微笑んでいた。


 ――そんな表情を見せられたら、こっちまでドキドキするじゃないか。


 俺は気恥ずかしさ全開であろう表情を彼女に悟られまいと視線をらす。


龍之介りゅうのすけくん……」


 つややかに俺の名前をささく彼女を見ると、涙が浮かんだ瞳を閉じてからその小さな唇を可愛らしくこちらに向けてきた。


 ――おいおいマジか!? これってつまり、キスして――って事だよな? 告白からすぐにこの展開は反則だろ!


「い、いいの?」


 その問いかけに彼女はもっと顔を紅くし、恥ずかしそうに瞳を閉じたままコクンと頷く。

 女子がここまで大胆になるというのは、相当の覚悟をしての事だろう。ならばその覚悟に応えるのが男ってもんだ。

 意を決して彼女の両肩にそっと手を置くと、彼女の肩に乗せた手から身体が小さく震えているのが伝わって来た。

 俺はそんな彼女を優しく引き寄せ、目を瞑った彼女へと顔を近付けていく。

 そして彼女の顔がどんどん近くなり、後もう少しでその艶やかな唇へ到達する寸前に俺は瞳を閉じた。


「龍之介くん……」


 彼女が再び艶やかに名前を囁いたその瞬間、俺の意識は急速にその場から遠のいた。


× × × ×


「あっ……」


 頭を上げた俺は、ゆっくりと視線を動かしながら周りを見た。

 そこには笑い語り合う同級生達の姿があった。それはいつもと変わらない日常の風景。


「……夢か」


 思わず溜息が漏れ出るが、現実を受け入れるのにそう時間はかからない。

 そりゃあそうだ。あんな香ばしくも嬉しいラブコメ展開なんて、現実ではあるはず無いんだから。

 そう思いながらも、後もう少し唇を突き出しておけば良かった――などと考えてしまう俺は相当に重症なのかもしれない。

 でも、男ならこれくらいの事は当然考えると思う。俺は自問自答の末、男とはそういうものだと結論付けた。


「どうしたの龍之介? また理想のラブコメの夢でも見てた?」

「まあな」


 にこやかな笑顔で俺の横へと来たコイツは、涼風すずかぜまひろ。小学校二年生からの親友だ。

 男だが凄まじく童顔で女子の様な顔立ち。加えて母親が外国人だからか、美しい金髪に透ける様な白い肌をしているけど、瞳は日本人らしく黒色をしている。

 服装が男子生徒の制服でなければ、絶対に女子に間違われるくらいに見た目は女子だ。しかもそれでいて性格も良い。そういった要因に外見もあいまってか、女子にも男子にも人気がある。

 だけど本人は結構な人見知りなので、実際に付き合いがある友達が多いかと言えばそうでもないようだ。

 そんなまひろの外見的特徴から、俺は今でもまひろが女子だと錯覚してしまう事があるし、まひろが女子だったらいいな――なんて事をわりと本気で思った事もある。てか、今でも思う時がある。それ程にまひろは言動も雰囲気もその辺に居る女子よりも女子らしい。

 何をしても何を言っても可愛い奴。それが俺の親友、涼風まひろだ。


「小学生の頃から変わらないよね、龍之介は」

「天気じゃあるまいし、人間そうコロコロと変わるもんじゃないよ」

「相変らずひねくれてるなあ」


 一番後ろの窓際席というラブコメではありがちな場所に居る俺は、まひろの言葉を聞きながら窓の外を眺めた。

 時期は五月の中旬。開いた窓からは心地良い風がそよそよと吹き込んでいる。

 そんな心地良いそよ風に身をゆだねながらアナログの腕時計を見ると、時刻はお昼の十二時をちょっと過ぎた辺りを指し示していた。

 窓から見える中庭では、リア充共が相も変わらず仲良くお弁当を食べたりしている光景が広がっている。


「中庭は相変らず人気のスポットだよね。恋人も多いし」


 席の後ろ側に来て窓の外を見ながら、爽やかな声音こわねでそう言う我が親友。


「ちっ、忌々しい事この上ない……全員揃って爆発しねえかなー」

「もう、龍之介はすぐにそういう事を言う。少しは相手の幸せを願ってあげなよ」

「そんなのはな、心に余裕のある幸せな奴に任せておけばいいんだよ」


 まひろはその言葉を聞いて、やれやれと言った感じの苦笑いを浮かべていた。

 自身が充実してないのに幸せそうにしている奴等の幸せを願ってやるなんて、そんなのただのドMだ。生憎あいにくと俺はそんな幸せ野郎ではない。


「そういえばさ、まひろは何で誰とも付き合わないんだ?」


 まひろは昔から女子の人気も高いし、恋人をつくろうと思えばすぐにでもできると思う。それだけに浮いた話の一つも無いまひろが不思議で仕方ない。


「うーん……それじゃあ聞くけど、龍之介はもし僕が女の子と付き合ったらどうする?」

「そりゃまあ、爆発する事を願うだろうな」


 親友の恋路でもこんな返答をする俺は、相当に下衆げすなのかもしれない。


「ほらね。そういう答えになるでしょ? だから僕は誰とも付き合わないんだよ」

「それって俺のせいって事ですかい?」

「そういう事かな」


 まひろは可愛らしい笑顔を浮かべながらくすくすと笑う。

 その姿は本当に一人の可愛らしい女子にしか見えない。これで男だなんて本当に勿体ないと思う。


 ――神様、少しは考えて性別を選択してくれよな……。


 そんな事を思いながら再び中庭を見つめ、俺は今日も恋人持ちリア充共を片っ端から呪うのだった。

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