吊られた鐘が鳴る音は(2)
思い出したようにこめかみの辺りを掻きむしりながら、新は仰向けになった。なったものの、天井の赤い常夜灯が煩わしかった。3年同じ光を浴びていればいいかげん慣れもするが、例の夢から醒めたあとは別だった。3、4畳ほどの小さな室内に充満した色が、いやに網膜を刺激する。
逃げ場に選んだ窓の向こうに、星は見えなかった。空なのか雲なのかよくわからない未明の夜がのっぺりと広がり、あろうことか厚い強化ガラスに映り込んだ常夜灯が、ここにも余分な一色を投じている。
右肩を下に、
灰島新は、独居房の底で横たわっているのだ。ある地方の、ある都市の、ある拘置所の一角で、浅い眠りを重ねている。
いまいち、意識が飛ばない。目を閉じてゆっくりと呼吸してみても、それは変わらなかった。
諦めることにした新の視野では、脂っぽく
相手や時間の限られた面会と、顔の見えない差し入れ、信書。厳罰化に際し規制が緩んだとはいえ、死刑囚にとって外との繋がりは貴重だ。しかし、そもそもの容疑を半年前の上告棄却まで否認し続けた灰島新にとって、それらは宛て先を違えたラブ・レターでしかなく、まさしく自分に宛てられた届け物に比べれば取るに足らない存在だった。
「自分宛」の信書は、全て収納に保管してある。家庭用ファンヒーター程度の大きさの収納に、新は専用の引き出しを確保していた。家族、親しかった友人、担当してくれた弁護士、が、その差出人である。
国選弁護人の
だが、想像がつくのはそれだけではなかった。康弥にも、柚にも、それぞれの生活がある。ふたりはあくまで優しいが、自分の存在がふたつの人生を汚していることは明白だった。思い上がりなどはないと思う。
それでも、今日のように、面会の日はやってくるのだ。望むから、やってくるのだ。望まずとも訪れた、1131日前の春を苗床にして。
……小さく、意識が飛んだ。眠れそうだった。
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