第132.5話 魔王戦(別視点)

俺は、とあるグループの参謀を務めている者だ。今日は、魔王戦ということで、挑戦してきたが、結局勝てなかった。だから、勝つ方法を知るために、今日はここにいる。ここは、魔王戦の舞台となる場所が見えるところだ。まあ、スキルを使ったりしないと見ることはできないくらい離れているけど。

何故近くで見ないのかと聞かれるかもしれないが、それは、これから観察するプレイヤーが他人を嫌っているっぽいからだ。そのため、バレないように遠くから観察することにしたのだ。前回、近くで観察しようとしたら、そのプレイヤーが魔王戦に来なくて、多くのプレイヤーがデータ喪失という事態になったからだ。


今回はそんなことにならないように、遠くから観察することにしたのだ。


それに、俺と同じ意見になっているやつは他にもいるみたいだしな。確認できるだけでも5人はいる。それだけ、観察することが重要ってわけだ。

それで、観察するプレイヤーというのは、5月の魔王戦でMVPを獲った零というプレイヤーだ。ソロで魔王戦をしたにもかかわらず、MVPに選出されたのだ、それだけ実力があるはずだ。


それで前回は来なかったため、何も得ることはできなかった。でも今回こそは、観察をして、魔王に有効な方法を知り、次の魔王戦は俺たちのグループがMVPを獲るのだ。

そう意気込んではいるが、今回も来ないということはある。そのため、復活の玉の残数を1つだけ残すようには指示をしてきた。でも、街で見たという情報があるため、引退したということはないはずだ。


そんなことを考えていた。


このプレイヤーは、最終日になったリアルでの午後の8時からずっとここで待機し続けていた。この時間までにこのプレイヤーは何度もここに訪れ、観察をしていた。




それから実にゲーム内で8時間、俺は待ち続け、ついに零が魔王のところに向かっているのを確認した。


俺は慌てて、準備を整え、観察できるようにした。


しかし、俺には気になることがあった。


(あと、4時間しかないが倒せるのか?)


こう言っては悪いが、俺たちだけでも1000人規模のグループで挑んでいる。その他にも多くのグループが挑み、約2日間かけてやっとの思いで約4割のHPを削った。残りの約6割を4時間足らずで、しかも1人で削り切れるとは考えられなかったからだ。


そう考えている間にも、零は歩みを止めることなく、魔王に近づいて行った。


俺はその迷いのない行動に、倒せる自信が零にはあることがわかった。だから、零の行動を見逃さないように心掛けた。




零が魔王と対峙すると、何か話しているように見えた。何を話しているのか気になったが、ここからでは聞くことはできないし、口の動きもはっきりとは見えなかった。でも俺はおそらく、俺たちも聞いたあの長いセリフでも聞かされているんだということだと思った。


セリフも言い終わり、魔王が戦う構えをとった。


俺は、始まると思い、目を凝らし、集中した。


しかし、結果はすぐに出た。


魔王が構えると、零が一気に近づき、持っている剣を振るとそれだけで魔王の首が飛んだのだ。


俺は、驚きを隠せなかった。それは他の観察してるプレイヤーも同じようだった。


俺は、1人で魔王に損傷ダメージを与えていることに驚いた。俺たちもそれは試したからだ。魔王を倒す方法として損傷ダメージというのは、最初からアイデアとしてあった。


そもそも損傷ダメージというのは、対象の防御系のステータスを大きく超えるダメージを与えることで発生するダメージのことだ。損傷ダメージは普通にダメージを与えるよりも多くダメージを与えることができる。それに、与える部位によっては即死も狙えるのだ。例えば、今、零がやったように首を飛ばすことだ。


剣などの切断系の武器では、切るという損傷ダメージ、槌などの打撃系の武器では、砕くという損傷ダメージになる。


このことは知っていた。だから、俺たちも今回試してみた。攻撃にステータスをほぼ全振りしているプレイヤーにバフをかけまくり、魔王にデバフをかけ、そして魔王の動きを止め、与えられる最大の攻撃スキルを使ってなお、損傷ダメージにはならなかった。その上、その攻撃では、1割もダメージを与えることはできなかった。


だから、魔王には、損傷ダメージを与えるのはほぼ無理だと思っていたのだ。


それに、信じられないのは、それだけではない。損傷ダメージを与えるのに、1人でやったということだ。俺たちは多くのプレイヤーを使い、それでも損傷ダメージを与えることはできなかった。


しかし、損傷ダメージを与えることはできるということだけはわかった。それだけでも、良い収穫だったと言える。


これから考えるのは、どうしたら、損傷ダメージを与えらるかだ。


俺がそのことを考えようとしたが、あり得ない光景を見た。


魔王の首が元の位置に戻り復活した、というものだったからだ。


俺は放心状態になっていた。これで、損傷ダメージを与えても意味がない、ということと、復活するという事実を知ったからだ。


俺がそんな放心状態になっているとき、更に驚きの光景が見えた。それは、再び、零が魔王の首を飛ばすというものだった。普通、損傷ダメージというのは、全力の一撃を与えるものだ。だから、2回とか使えるのは、ほとんどない。その現実を飲み込めないまま、更に絶望することが起きた。それは、再び魔王の首が元に戻るというものだった。


それからは、俺の理解が追いつかないままの状態で、零が首を飛ばし、魔王が元に戻るという光景を延々と見ることになった。


ほんとうに意味がわからないよ。




そんな放心状態で約1時間が過ぎた。その頃になるともう俺は理解することを放置した。その間、零はずっと魔王の首を飛ばしていた。


だが、ここまで来ると逆に希望が見えてきた。それは、損傷ダメージを与えてはいけないということだ。ここまでになると、おそらく、即死の攻撃を受けると復活するということが考えられるからだ。それならば、損傷ダメージを与えないようにすればいいだけだからだ。これは割と大きな収穫と言える。


しかし、気になることはある。


「なぜ、ここまで零は損傷ダメージを与えられるのか?」ということと、「なぜ、ここまで損傷ダメージを与え続けるのか?」ということだ。後者はおそらく、与え続けば、倒せるからだ。前回もこうやって倒したと予測することができる。


前者は、おそらく武器もしくはユニークスキルが関係してきてるはずだ。しかし、武器に関しては見る限り、最初の街で買えるロングソードだと思う。もしかしたら、見た目だけ同じ物凄い伝説級の武器かもしれないけど。そうなると、ユニークスキルの方があると思う。


ステータスの振り方だけは絶対にないと断言できる。ほぼ攻撃に振っているやつは、今戦っている零より、速く動けていないからだ。圧倒的に零の方が速い。ということは、零が攻撃に全振りしているということはない。つまり、ステータスは関係ない。


やっぱり、一番可能性の高いのは、ユニークスキルだな。そうなると、俺たちにはこの戦い方は真似できないかな。そのユニークスキル——損傷ダメージを与えるみたいな——を持ったやつが居れば、このように戦えるはずだ。まあ、可能性は薄いけどね。


そんな考察をしている間も戦いは進み、ようやく決着がついたようだ。決着の瞬間、零の変な動きを見た。自ら剣を弾いているようにみせる動きをしているように見えたのだ。その変な動きの後、魔王が何かを話してから、その場から、魔王が消えた。


こうして、魔王戦は終わった。結局、2時間以上、零は戦っていた。


最後を見る限り、倒す必要はないみたいだな。どちらかというと追い詰めることができれば、終わりということかな?そこでわかったのは、復活に上限があるということだ。でも、回数ではないはずだ。そこまで、運営も鬼畜にするはずがないからだ。そこで考えられるのが、「MP消費による復活なのではないか?」というものだ。


俺たちも、MPを使うことで、スキルや魔法を使っている。ということは魔王がMPを持っていてもおかしくない。それに魔王も魔法を使ってきていた。つまり、俺たちは、より多くMPを使わせ、復活できない状態にする必要があるということだ。今までより、難易度は上がったが、倒し方だけでも知れたのは良いことだと信じたい。


こうして俺は、ログアウトをした。

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