第2話 執事の底力?!

 王立魔導学園での初日、楓は授業において困る事はなかった。予め予習しておいたお陰である。


 「楓すっごいね…日本から来たばっかなのに…」


レイが感心する。


 「レイ様の執事が授業でお恥ずかしい姿を見せる訳にはいきませんからねっ」


微笑む楓。


 「次は実技だけど…大丈夫?」


 「大丈夫ですよ♪」


クラス全員がグラウンドに移動する。


 「今日は編入生が居るので一応、自己紹介を。2年の実技を担当するカレン・アステールです。すでに皆さんは魔力の何たるかを理解しています。そして、各々の武装を召喚する事もできますね?よって私の授業は、実戦を想定して行います。さてここまでは復習。本日は砲術に関しての授業を予定していましたが、先に編入生の実力を見ておきましょう。」


そう言いながら楓の方に目線を移す。


 「なるほど…いきなりですね」


楓が前へ出る。


 「王家の執事なら、腕が立つと見込んでの事ですよ」


カレンとしては、レイがどんな人間を召喚したのか、実力の面で見ておきたい。


 「では行きますよ…」


魔力を集中させる。白い花が収束してゆく。


 「流石ですね…」


カレンの予想を超える魔力量だ。


 『ディストル・カンノーネ!!』


高らかにその名を宣言する。そして、対ドラゴン用の巨砲が出現した。


 「どうでしょう?」


楓が振り返る。


 「では、あの的を狙って砲撃して下さい。」


カレンが指示する。


 「了解!」


直ぐに狙いを定める。


 「ランツィオ!!」


発射した。そして見事目標へ命中させる。


 「お見事です。流石、レイさんが召喚した執事ですね。見積もりで魔力は3000以上あると思います。バスターとして、十分な資質ですね」


カレンが素直に褒める。異世界に来て早々に実力を発揮できるのは稀なのだ。


 「ありがとうございます」


一礼して下がる。一連の振る舞いにクラス中が見とれていた。


 「さすが楓だねっ」


 「いえいえ、執事は主の期待に応えるものですから♪」


ニコッと笑う楓。


 「では、本日の授業ですが…レイさんに少し実演をお願いします。」


 「はーいっ」


レイが今度は前に出る。


 「ディストル・カンノーネはバスターが召喚できる武装です。先ほど、編入生である楓君が見せてくれたのは通常砲撃です。しかし、熟練した者が扱うと一段上の砲撃が可能になります。」


今度はレイが砲を召喚する。


 「先生、準備できましたーっ」


 「では皆さん、これは一度撃つとほぼ魔力を使い尽くすものですが、威力は絶大です。よく見ておいて下さい。ではお願いします。」


 『ディオ・ルッジート!!』


その宣言と共に、極太の光線が放たれる。目標に命中し、


ズドォオオオンッ…


轟音がグラウンドに響いた。着弾点には巨大なクレーターが出来ている。あまりの威力に楓含む全員が絶句した。


 「ふーっ…やっぱ疲れるなぁ…」


少し息が荒れているレイ。


 「これを撃ってまだそうやって立てる辺り、本当に凄いですね…」


 「そうですかー?まぁすこーし威力落としたんですけどねっ」


 「さすがですよ。いいですか皆さん。この砲撃は鍛錬で皆が扱えるようになります。このクラスは全員がバスターになり得る資質を備えています。日々の魔力鍛錬を怠らないように!」


 『はいっ!』


カレンとしては少しでもバスターを増やしたい。しかし、現状竜狩人として最も多いのは最下位ランクのハンターだ。そこで、皆の士気を向上させるべくレイへ実演を頼んだ。


 授業後、楓はレイの体調を気にする。


 「レイ様、大丈夫ですか?」


 「へーきへーきっ!ちゃんとマージンとったからねっ」


 「それならば良いのですが…そう言えば先ほどの授業に彩さんが居ませんでしたが…」


 「あーそれは…」


苦笑するレイ。


 「私が直に話すわね?」


ちょうど戻ってきた彩が話に加わった。


 「あ、ちょうどいい所に」


レイが手招きする。


 「このクラスはバスターを育成するクラスだからね…皆、ハンターとして特に魔力が高い子ばかりなの。そして、実際バスターなのはレイだけ。」


彩が話し始める。


 「では…彩さんは…」


楓が教科書の知識を思い出す。


 「うん、私、竜狩人として最高クラスのスレイヤーなのよ…」


竜狩人はハンター、バスター、スレイヤーに区分されるが、スレイヤーなど滅多に現れないとされる。ただでさえバスター不足なのを必死で育成している所にスレイヤーが居てはクラスの雰囲気が悪くなりかねない。


 「それは凄いですね…」


 「まぁ…スレイヤーがいるものだから皆、あんまり鍛錬しなくなっちゃって。何かあってもスレイヤー様に任せればいいでしょっていう空気なの…」


ある種の嫉妬からくる皮肉である。


 「なるほど…大変ですね…」


 「まぁね…スレイヤーの為に編成されるクラスなんてないからここに居るんだけど…実技の時は席外してるの」


彩としてはきっちり授業に参加したいのだが、実技でスレイヤーの実力など見せてしまえば、誰も鍛錬なんてしなくなるのは目に見えている。それくらいにバスターとスレイヤーの差が大きいのだ。


 「しかも最近はドラゴンも来なくなって平和だから余計たるんでるよねー…」


レイがため息をつく。


 「むしろ平時こそ鍛錬に充てるべきだと僕は思いますが」


楓が自分の考えを述べる。


 「その通りだよ…」


 「うんうん…」


彩もレイも賛成する。しかし、クラスの雰囲気からして鍛錬の二文字は全くない。



 放課後、レイは楓を時計塔の最上階へ連れて行った。


 「実はねー私、生徒会長なんだっ」


 「そうでしたか…!では早速執務ですか?」


 「いや、楓の魔力をきっちり測定しなきゃね。」


 「なるほど…」


レイは戸棚から水晶玉を取り出す。


 「これに手を置いて、魔力を流し込んでみて」


 「はいっ」


水晶玉に手を置く。レイも水晶玉に手を置いている。白い魔力光が水晶玉から輝く。


 「えーと…3600だねっ。凄い!」


観測できた値にレイは驚く。


 「ありがとうございます♪」


 「私が4000でリリィが3500だから、王族並に高いよ!」


 「なるほど…そう言えば少し気になっていたのですが…」


 「なにかなっ」


 「ここは異世界なのに、言語は日本語ですし、文化も割と日本風ですよね」


 「それはね、昔からアイリス王国が日本から召喚した人が持ち込んだ文化が定着したって話だよー」


 「そうでしたか…日本とアイリス王国は密接な関係があるのですね」


 「密接って言うか、こっちが一方的に呼んでるだけなんだけどね…」


 「そ…そうですか」


その後、仕事を片付けて部屋へ戻った。


 「ふーっ…やっと終わったー」


 「お疲れ様です、レイ様」


 「ただいま、姉さま」


リリィも帰って来た。


 「おかえなさいませ、リリィ様」


楓が丁寧に出迎える。


 「ねーリリィ、夕飯どうしたー?」


レイが話しかける。


 「まだですね…」


 「あちゃー…もう寮の食堂閉まってるし…」


 「何か作りますよ…姉さま」


そう言いながらリリィが立ち上がるが、疲れからかよろめく。


 「ご無理をなさらないで下さい。夕飯の支度は僕が致しますから♪」


リリィの手を取り支える楓。


 「あ…ありがとう…」


リリィが少し頬を赤らめた。やはり気遣ってもらえるのは嬉しい。


 「ねー楓ーっ」


台所にレイが入って来た。


 「どうしましたか?」


 「楓っていくつなのさー?まだ聞いてないような…」


よく考えれば年齢をお互い知らなかった。


 「僕は16ですよ」


 「あ、年下だったんだ!私17だよーっ」

 

 「ではリリィ様は…」


 「うん、16だから楓と同い年だねっ」


楽し気に話す2人は、主従関係と言うよりは、幼馴染と言った方がしっくり来る。まだ来て間もないのにレイの人柄もあってか仲は良好だ。



 「お待たせしました。今夜はおふたりともしっかり食べて明日へ備えて下さいね♪」


出したのはハンバーグだ。魔力回復には食べて寝るのが良いと教科書で見ていたので肉料理とした。


 「おいしそーっ!」


 「…さすが執事です」


レイとリリィが目を丸める。2人が食事する間、楓は控えて待っている。これも執事としての務めだ。


 食後、食器を下げて後片付けをしていた楓。ついでに明日の朝食の仕込みなどもしておく。


 「楓ー」


またまたレイが台所へ来た。


 「どうされました?」


たとえ自分の手が忙しくても、主に呼ばれたらすぐに応じる。


 「私先に寝るけど…楓も早めに休むんだよー…ふわぁ…」


優しいレイ。執事の心配など主は普通はしないのだが、レイは気遣っていた。


 「ありがとうございます♪レイ様こそ、ゆっくり休んでくださいね?」


 「うんー…おやすみー…」


 「おやすみなさいませ。」


欠伸しながらレイはベッドへ向かった。やはり疲れている。


 レイが寝静まった頃、楓は台所で次の日の予習をしていた。課題は済ませてあるが、予習もしておかなければいざという時に困る。


 (五教科なら問題ないけど…やっぱり異世界…あるのは魔法ばかりか…しっかり予習しないと)


自分ノートを作り、効率よく勉強しておく。しばらくすると、足音が聞こえて来た。楓は直ぐに準備する。


 「夜食食べよ…さすがにお腹減った…」


リリィがやってきた。


 「夜遅くまで大丈夫ですか?夜食ならすぐにお作りしますよ」


楓が話しかける。


 「ふぇっ…!?執事さん…起きてたんですか…」


流石のリリィも驚いた。こんな時間まで待っていたのか。


 「僕はおふたりの執事ですからね。リリィ様は勉強なさっているとお見受けしたので、夜食の支度は済ませておきました。」


 「本当に気が利くんですね…さすが執事…」


 「そうでしょうか…では深夜なので、少し執事の戯言を聞いては貰えませんか?」


夜食のおにぎりを出しながらリリィの向かい側に座った。深夜だからこそ、少し執事という肩書を下せる。


 「もちろん…聞きます」


リリィは真面目で堅物と思われているが、姉譲りの優しい性格だ。ただ、真面目さ故にあまり表面化しないだけである。


 「主が執事を選ぶように、執事も主を選びます。お互い人間ですから、どうしても反りが合わない事もあるのです。僕はこの世界で執事をやってくれと頼まれたときにそこを心配しました。」


 「なるほど…」


 「日本であれば執事の替えなどいくらでも利くのですが、ここは異世界ですからね…主の要求に完璧に応えて見せるのが執事の矜持です。それを分かって頂ける主であれば、本当に幸せなんです。」


 「姉さまはどうでした?」


リリィが真剣な目つきで尋ねる。


 「レイ様は…本当にお優しい方です。執事として本当に尽くそうと真剣に思えました。日本であんなに優しい人は…居ませんよ…きっと。」


 「私は日本に行ったことはないですから…よく分からないですけど…」


 「でもリリィ様もお優しいですよ?」


まさかの不意打ちだ。


 「へ…?」


 「言葉が温かいと言えば良いでしょうか。落ち着いた雰囲気の中に温かみを感じます」


 「…は…恥ずかしいよ…」


リリィは基本、誰に対しても敬語で接する。しかし、楓のその言葉にドキッとしてしまった。


 「少し、悪ふざけが過ぎましたね。今夜はお休みになられてはどうでしょう?」


 「そ…そうします…おやすみなさい…」


顔を赤くしながら俯くリリィ。


 「おやすみなさいませ。執事の戯言にお付き合い頂きありがとうございます♪」


リリィも寝静まった頃、


 (さてと…少しは寝ておかなきゃ)


楓も布団に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る