闇の守護者
高山 昶
その男、闇を統べし者
1
夢に見る。想い描く。結果、無駄だと分かっていても。それでも願わずにはいられない……。
衝動…とはまた違う。そう、コップに水を注いで水が溢れる一歩手前の感じだ————
この季節、どこへ行こうとも桜化粧が拝める。白や淡紅色、紅色に紅紫色に色づいて、街もここも
「
「そうか。ご苦労様」
「紫様、今年も綺麗に咲きましたなぁ」
「ん?…ああ、そうだな……」
境内にある樹齢約一千年以上であろう桜の樹。丁度見頃を迎え、満開に咲き誇る桜を見上げる二人。だが紫の顔は美しいモノを見る時の感動している様子のそれとは違い、憂いをおびた顔をしている。サァ…っと吹く風に木々は大きく揺れる。ひらりひらりと
「…ところで、学校は平気か?朝練があるんだろう?」
「あ!そやった!!」
慌てて境内にある事務所へ行く高倉。自分の荷物は現在、事務所内に置いているのだ。高倉は未成年で、現在高校二年生の十七歳である。幼い頃から御蔭家と深い関わりがあり、御蔭紫とは二人目の幼馴染なのだ。活発で物怖じしない性格だが、要領はそれ程良くない。
「ほな紫様、行ってきます!」
学生服姿の高倉が学校へ行く前に、紫に挨拶する為やって来た。高倉は旧家育ちの坊ちゃんである。エスカレーター式の名門私立高校に在学中だ。濃紺で詰襟の学生服に校章の入った銀色の
「様はいいって言ってるだろ?昔みたいに紫兄さんって呼べばいい」
「そうもいかへんのや…あの時は何も知らん子やったからええけど、今は御蔭家の事を知ってしもうた。
「でもなあ…」
「大丈夫、使うとるのはココとあの方の御前だけや!っちゅうわけで、行ってきます」
「——いや、陰だぞ?様は要らんだろう…」
ブツブツと小言を言いながら、事務所へ戻る。
「お!茶柱が立ってる」
「ホーッ…ホケキョ」
桜の木の上で鶯が美しい声を響かせた。
「春はいいね」
ぽかぽかとした暖かい空気に包まれながら、ポツリと呟いた。
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