第6話〔3〕徒花と造り花

 

 

 

 

 

 彼はある一人のメイドにだまされて、祖父を名乗る伯爵のもとへ連れ去られたことがある。

 

アステル、8歳の出来事だった。

 

 そのメイドはとても背が高く、肌が白く、淡むらさき色の髪をしていた。

 

思えば、初恋というものだったのかもしれない。

 

獣の耳や尻尾のなく、うろこのなく、するどい爪や牙のない、人間らしい姿の女性。

 

 ペテュニア・シンクレア。

 

 母に似て清楚でおだやかで、それでいて大輪の花のようにりんとしていた。

 

彼女のそばにいるだけで、ふんわりとした気持ちになった。

 

 結局のところ、ペテュニアは祖父のパキラ・ストリンガー伯爵が差し向けた殺し屋だったのだ。

 

ストリンガー家に軟禁されて1ヵ月後に彼女が突然姿を消した際、そのことを祖父の口から聞かされたのだった。

 

ペテュニアがアステルの父を殺したことが発覚し、祖父みずから彼女を処断したという。

 

つまりは彼女は死んだという意味だ。

 

 始めはそんな脈絡もない話をどうにも信じられなかった。

 

ペテュニアが人殺しをする女性には見えなかったし、もしかしたら祖父が孫をつなぎとめておくためにもっともらしいうそを吹き込んでいるだけなのではないかとむしろ疑っていたほどだ。

 

祖父がストリンガー家の跡継ぎを必要としていることはそれとなく分かったし、何よりアステルには味方が一人もいないということも彼自身よく理解していた。

 

 真偽はどうあれ、ペテュニアの言う通りにしていればすぐにメルヴィル城へ帰れるものと思っていたアステルは、唯一信じられる者を失って絶望にうちひしがれたのだった。

 

 それからの彼のストリンガー家での生活は暗々としたものだった。

 

館の外には出してもらえず、心を許せるほどの話し相手もいない。

 

気散きさんじになるようなおもちゃもなければ、面白みのある本もない。

 

贅を尽くした食事も独りで食べるには味気なかったし、広々とした館の中はほとんど空っぽで落ち着けなかった。

 

アステルには、少しの自由も与えられなかった。

 

 ペテュニアが消えてしばらく経ってから、祖父がアステルのためにやとったメイドたちも困りものだった。

 

彼女らは入れ替わり立ち替わり、たいてい5・6人体制で彼の世話をするのだが、その誰もが踊り子のようなかっこうで甘々しいにおいをただよわせ、鼻を鳴らしてすり寄ってくる。

 

 メルヴィル城のメイドたちは絶対にそんなことはしなかったが、ここの亜人ではない人間のメイドたちは、こちらをまるでペットか何かと見なして接しているふしがあった。

 

祖父からいくら受け取っているのかは知れなかったが、当然、アステルが逃げ出さないようにするための見張り役ということでもあるらしかった。

 

その祖父はといえば、ストリンガー家を継がせるための知識をアステルにほどこすことには熱心であったが、それはもっぱらガヴァネスに任せきりで、彼自身は孫の前に姿を現すことがひどくまれであった。

 

 このような調子で1年2年と過ぎてゆき、3年目の夏の終わりにアステルはついに、あるひとつの無茶をやった。

 

とりことなりつつも成長し、いくらかの力をつけた彼はストリンガー家からの脱出をはかったのだが、しかし結局あと少しのところで失敗してしまったのだ。

 

 これを重く見た祖父は、それまでのメイドたちを全て引き払い、代わりに1人のメイドのみを彼の側仕えとしてやとった。

 

やって来たのはカトレアと名乗る女性だった。

 

彼女を初めて見た時、アステルはにわかに驚いた。

 

彼女の雰囲気がどことなく似ていたからだ。

 

ペテュニア・シンクレアに……。

 

 

アステル「君は……?」

 

 

カトレア「カトレア・ソーンと申します。

今日からアステル様のおそば付きとなりました。

何なりとお申し付け下さい……」

 

 

 11歳となっていたアステルが、ある朝ベッドから目覚めると、彼女がかたわらに立っていた。

 

鮮やかな深紅色の髪をした、深海色の瞳を持つ女性。

 

ペテュニアと同じ年頃だろうか、真一文字に結ばれた口とつり目がちのまなざしは、むしろ近寄りがたい印象だ。

 

似ていたと思ったのは、彼女が全うなメイド服をよそおっていたことと、その物腰だった。

 

 寝起きのせいかもしれなかったが、アステルは彼女にどうにも見過ごすことのできない何かを感じたのだ。

 

なぜかなつかしいとさえ思えてしまう、得体の知れない感情だった。

 

 だからこそ、問わずにはいられなかった。

 

 

アステル「もしかして……君……、亜人ではないかい?」

 

 

カトレア「!」

 

 

 一瞬だけ、彼女の眉がぴくりと反応した。

 

しばらく沈黙ののち、彼女は口を開いた。

 

 

カトレア「……その、ワタクシは……人間ということにしております」

 

 

 都合の悪い質問だったらしい。

 

無表情だったカトレアの顔にかすかな困惑の色が表れた。

 

 

アステル「……いいんだ。

誰にも言わない」

 

 

カトレア「……この家のだんな様は極度の純血派とうかがいましたので。

ワタクシは、わずかに巨人族の血を引いております」

 

 

アステル「……そっか、君も」

 

 

 彼女がペテュニアと同じ種族だったからだろうか、もしくは大勢の亜人たちとともに暮らしていたアステル自身に、亜人か否かを見分ける目が備わっていたからだろうか。

 

カトレアが人間ではないことを言い当てて、彼女も、そしてアステル自身も、驚いていた。

 

 

アステル「君と同じ巨人族の女性を知っているよ。

彼女も、メイドだった。

とてもやさしくて、りんとしていて、それでいてどことなく、分からないけれど、暗いものをかかえているようだった。

君みたいに……」

 

 

カトレア「…………」

 

 

 ベッドの上から彼女のまなざしを見つめた。

 

 

アステル「よろしく、カトレア……」

 

 

 この日から、常にカトレアがアステルのそばにいた。

 

どこに行くにも彼女がぴたりとついてきた。

 

彼女と過ごすうちに、似ていたのは雰囲気だけでなく、その所作や身のこなしに至るまで、ペテュニアとそっくりだったことが分かった。

 

 秋がやって来る頃には、2人はずいぶんと親しく接するようにもなった。

 

もちろん、主従という関係の上で、という意味ではあったが。

 

 カトレアのほうもそれまでのメイドたちと違って、べたべたとすり寄って来たり、無駄口をたたいたりしない。

 

すぐにもどることを約束すれば、ひそかに屋敷を抜け出し、塀の外を歩き回ることにも目をつむってくれた。

 

ただし、それ以上の反抗は一切許してくれなかった。

 

どれほど理解を示そうと、カトレアはあくまでパキラ・ストリンガー伯爵にやとわれた使用人でしかないのだった。

 

 そうして、その年の秋も半ばにさしかかり、山々の木々もすっかり色付いた頃、ストリンガー家に来客があった。

 

アステルは館の窓から1台の馬車を遠くに見かけただけだったので、誰が訪問してきたのかまでは確認できなかった。

 

ただ、その客人のおかげで屋敷内の注意がそれることは期待できるだろうという程度の認識だ。

 

 空も青く晴れ渡った昼下がり、アステルとカトレアは警備の目を盗んで居館を抜け出し、塀を登り越えて外界へ降り立つ。

 

もう何度目かの模擬脱走、アステルも少々のことなら難なくこなせるほどの身ごなしとなっていた。

 

 ストリンガー家を脱し、いつわりでつかの間の自由をかみしめて、落ち葉の散り敷く木立の中を行く。

 

 

声「わあぁぁぁ!」

 

 

 ふと、木々の向こうから子どものものらしき泣き声がした。

 

表門のほうからだろうか、そう遠くない所から聞こえてくる。

 

 2人は見交わし、何かあったのかと不安になって駆け出した。

 

脱走中の身であることを考えれば、他人との接触は避けなければならないが、状況を把握するくらいならカトレアも許してくれるはず。

 

 

婦人「ああっ!

虫ケラの子!

あなたはこの世に生まれてはいけなかったのよ!」

 

 

侍女「おやめ下さいまし!

奥様!

おしずまり下さいまし!」

 

 

 近付いてゆくうちに、しかしどうやら傍観ぼうかんしていられるほどおだやかな状況ではないらしいことが分かる。

 

声を荒らげて暴れていたのは、貴族らしい派手やかな服をまとった婦人。

 

3人の従者にしがみつかれて止め立てされているその婦人の手には包丁がにぎられていて、彼女の狂気じみた目が足もとの小さな子どもをにらみつけていた。

 

 

侍女「ああっ!」

 

 

 腕を抱き止めていた侍女じじょの一人が振りほどかれて突き飛ばされる。

 

逆手に持った包丁が大きく振り上げられるのを見定めて、アステルが駆け寄った。

 

 

婦人「死ね!」

 

 

【カァンッ……!】

 

 とっさに間に割って入り、彼は泣きじゃくる子どもをかばって伏せた。

 

頭上で硬い物がかち合う音が響いて見上げると、婦人の包丁をどこからか出したナイフでふせぐカトレアの姿。

 

 

婦人「なんなのよ、あなた!

邪魔するなぁっ!!」

 

 

アステル「ハッ、殺してはだめ!」

 

 

 甲高く声を張り上げる婦人へナイフの切っ先を差し向けるカトレアに、アステルがあわてて叫ぶ。

 

【ドッ……!】

 

 

婦人「うっっ……」

 

 

 叫んでいて正解だったかもしれない。

 

カトレアは得物を相手に突き出す途中で軌道を変更し、柄頭つかがしらを用いて当て身のみを見舞ったのだった。

 

くずおれ始める婦人にアステルはひやりとしたが、どうやら意識をなくしただけだったらしい。

 

【トスッ……】

 

 弛緩した婦人の体は2人の従者が支えたので、手からこぼれ落ちた包丁のみが地面に突き刺さった。

 

 

侍女「ありがとうございました、ありがとうございました……」

 

 

 突き飛ばされていた従者も立ち上がってやって来る。

 

 

侍女「フリージア様を馬車へお運びいたしますので、それまでリリィ様をお願いいたします。

すぐにもどってまいりますので……」

 

 

 彼女らは3人がかりで婦人をかかえ、木立の向こうを目指してそろそろと歩いていった。

 

皆一様に切羽詰まった面持ちを浮かべていて、あとも無げな声音や顔じゅうににじむあぶら汗が異様な雰囲気をただよわせていた。

 

 

アステル「リリィ……そっか、君はおじ上の……」

 

 

リリィ「うっ…………っ、うっ」

 

 

 アステルは胸の中でむせび泣く子どもに目をもどした。

 

 

リリィ「うっ……おかあさまは、リリィがきらいなの……!

リリィがクモだから……!

だから、ほうちょうできろうとするのよ……!」

 

 

 さくら色のワンピースを着たショートヘアの女の子。

 

それが、5歳のリリィだった。

 

 

アステル「大丈夫、メイドが連れていったから、もういないよ」

 

 

リリィ「…………」

 

 

 ふわりとした風合いの紅むらさき色の髪をなでてやると、彼女は鼻水をすすりつつ新緑色のつぶらな瞳でこちらを見上げた。

 

何か気になることでもあるのだろうか、瞳がせわしなく動く。

 

 

リリィ「おにいさま……?」

 

 

アステル「え?

うん、私たちはいとこ同士だね。

アステルだよ」

 

 

リリィ「アステル……んっ、おにいさま?」

 

 

 涙でほほをそぼ濡らして、彼女はおえつ混じりに彼の名を口にした。

 

アステルはその子を抱きかかえ、腰をかけるのにちょうどよく根が浮き出た根上がりの立ち木に腰をかけた。

 

 カトレアがハンカチを差し出してきたので、アステルはそれを使って少女の目もとを拭いておいた。

 

ハンカチを返し、リリィが落ちつくまでひざにかかえて待つことにする。

 

その間リリィは、たどたどしい言葉で事情を打ち明けてくれた。

 

 

アステル「そういうことだったのか。

じゃあ、君もプテロナラクニス」

 

 

リリィ「マルタおにいさまがいなくなってから、おかあさまはおこりっぽくなったの……」

 

 

 彼女が話したのはつまり、ストリンガー家を訪問したのがこの子の父であり、アステルの叔父であるアフェランドラだったということだ。

 

リリィはその付き添いだった。

 

叔父が祖父との面会中に自家にいるはずのリリィの母フリージアが馬車で乗り込んできて、ここで遊んでいたリリィを襲ったというわけだ。

 

 

リリィ「リリィはうまれてはいけなかったの。

もうすぐクモになってしんじゃうから。

マルタゴンおにいさまみたいに……」

 

 

アステル「…………」

 

 

 言われてみれば、毒々しい色味の髪と鮮やかすぎる瞳の色には、人の子ならざる気配が感じられる。

 

亜人については知っているほうだ。

 

5歳の少女が語った事がらが真実であるらしいことはすぐ理解できた。

 

 あれは3年前だったか、親戚の家に不幸があった。

 

自分も母に連れられて葬儀に参列した記憶があるが、その時に一度この子と会ったことがあるのではないか。

 

ふと思い出してみて、だいぶ落ち着いてきたリリィのしおれきった顔を再び見つめた。

 

 

リリィ「アイリスおばさま……?」

 

 

アステル「えっ……?」

 

 

 彼女の頭の中で、何かがぴたりと合わさったのだろう。

 

不意にその名をつぶやかれて、アステルは驚いた。

 

 

アステル「そ……そうだよ、アイリスは私の母上だ」

 

 

リリィ「ハッ……!

アイリスおばさま!

リリィのおうちにきたことある……!」

 

 

 リリィはアステルのひざを降りて、彼の前に立つ。

 

 

リリィ「アイリスおばさま、すごくやさしいの。

チョコレートのつぶつぶのはいったのとか、あたまにするキラキラの、もらった!」

 

 

 急に元気になって、両の瞳を輝かせて言った彼女に、アステルの胸が痛いほどにとくんと鳴った。

 

 

アステル「そっか、母上に会ったんだ……」

 

 

 痛みは治まらなかった。

 

それどころか、いやな熱をもともなってどんどん増してくる。

 

 

アステル「母上は、元気にしていたかい?」

 

 

リリィ「うん、とっても!

……いなくなっちゃったの?」

 

 

アステル「ああ、いいや、そういう意味じゃない……」

 

 

 平静をよそおって問いかけてみたが、どうやら事件か何かと勘違いして頓狂とんきょうなことを問いかけ返されてしまった。

 

不安げに見つめてくる少女を見るに、こちらの顔はずいぶんとくもっているようだ。

 

 

アステル「君が……うらやましい」

 

 

リリィ「うらやましい?」

 

 

 思わず口をついて出たアステルの言葉に、リリィは目をぱちくりとしばたたいて不思議そうな面持ちを浮かべていた。

 

この子は母と会ったことがあるんだ。

 

自分は今、言葉を交わすことさえできないというのに。

 

 アステルは何の罪もない幼い子どもに嫉妬心をいだきかけ、自分の情けなさにはたと気付いて目を伏せた。

 

何を自分だけが不幸みたいに思っているのだろう。

 

この子だって、大変な宿命を背負わされているではないか。

 

クモの亜人という、大変な宿命を。

 

 アステルは向こうの地面に突き刺さったままだった包丁を見やりつつ、ぽつりとつぶやいた。

 

 

アステル「長くは生きられないけど、どこへでも自由に行くことができるのと、

一生温室の中に閉じ込められて外に出ることなく過ごすのと、

どっちが幸せだろう……」

 

 

リリィ「……?」

 

 

 それはむしろ、返事に困っている顔の少女ではなく、自分自身に問いかけた言葉だった。

 

少しの沈黙ののち、アステルはふと思い付いてリリィの瞳をのぞき込んだ。

 

 

アステル「ねぇ、もしまた、私の母上に会うことがあったら、どうか伝えてくれないだろうか……。

アステルが“”と言っていた、と……」

 

 

 リリィはにわかに顔を明るくして、楽しげにぴょんとひと跳ねしつつ答える。

 

 

リリィ「でんごんゲームね?

リリィ、うまいよ!

ぜったいつたえるから♪」

 

 

アステル「ホント?

じゃあ、お願いね」

 

 

 こちらのお願いに、少女は両手でこぶしを作ってたのもしげに承知していた。

 

アステルは彼女のほほから涙のすじが消えていることを確かめ、そして付け加える。

 

 

アステル「私がもし、温室から出られたら、今度は私が、君を救ってあげる。

約束だよ……リリィ。

立ち会い人は、カトレアだ」

 

 

 言い終えて、アステルとリリィは指切りをした。

 

互いの小指をからめ、上下に振りつつ差し唱える。

 

 

2人「たまのおもちてわれちぎる。

もしもたがえばはりめにささめ」

 

 

 小指を離すと、どちらもふっくらと笑った。

 

 

声「リリィ──!」

 

 

リリィ「ハッ、おとおさま!」

 

 

 向こうのほうから呼び声があり、リリィが振り向いた。

 

お父さまということは、声の主は叔父のアフェランドラ・ストリンガーだ。

 

 

アステル「行って」

 

 

リリィ「おとおさま──!」

 

 

 アステルが送り出すと、リリィは元気な声で父を呼んで駆け出した。

 

どんどん遠ざかってゆく少女の背を見届けて、彼も尻をはたきつつ立ち上がった。

 

 

アステル「私たちももどろう。

外に出たことがばれたら、おじ上たちに迷惑がかかるかもしれない」

 

 

カトレア「…………」

 

 

 静かに、急いでその場をあとにする。

 

アステルとカトレアがそろって塀を登り越し、敷地内へ入った所で幼子の声が耳に届いた。

 

“おにいさま──”

 

 アステルが消えたことに気付いたのだろうリリィの呼び声に、彼は一度だけ振り向いてから居館へと歩き出した。

 

こちらにならって、カトレアも何事もなかったように取り澄まして後ろに着く。

 

 幸い、これらのことを目撃した者はいなかった。

 

しかしこの日、ひそかに交わされた約束は、とても強いものとなった。

 

なぜならこれが、アステルが母アイリスと交わしたになったからだ。

 

 この3ヵ月後、死んだはずのペテュニアが現れ、母の死を知らされるとともにストリンガー家からの脱出を果たすことになる。

 

そうしてメルヴィル城へ帰還し、城主として亡き両親の事業を引き継いだあと、彼の後見人となったペテュニアから母の最後の言葉を聞くのだった。

 

”と……。

 

 リリィは確かに約束を守ったのだ。

 

彼女がいなければ、アステルは想いの通わぬまま母との永遠の別れを迎えなければならなかったかもしれない。

 

それはもしかしたら、両親の死を受け入れられず、何かを呪って残りの人生を鬱々と過ごすことになる可能性もあったということだ。

 

そうならなかったのは、リリィのおかげだった。

 

 アステルはメルヴィル家の発展に力を尽くし、一方でリリィを救う方法を模索した。

 

幼き従妹の運命を変えるため、並々ならぬ努力をつぎ込んでいった。

 

 そんな中、放射線医学の権威、ムスリカ・パレンバーグ先生に出会う。

 

メルヴィル家の評判を聞きつけ、メイドを何人かやといたいと彼のほうからやって来たのがきっかけだ。

 

この出会いによって、リリィの死を回避するひとすじの陽光ひかりを見いだすに至るのだった。

 

 ジーンデコーダーはこうして生まれた。

 

 

 

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