◆第5話 消えた花乙女たち

第5話〔1〕芽立つ禍花

 

 

 

 

 

 ルナは高空たかぞらにいた。

 

V型12気筒エンジンの物すさまじい音が両ミミを支配し、前方からの強烈な風が彼女のオレンジゴールドの髪をめちゃくちゃにすき上げてゆく。

 

“ビフ”という愛称で呼ばれる複座式の複葉機。

 

彼女はその後部銃座に、月かげ色の飛行服を着て座っていたのだった。

 

 

飛行士「高度1500mに到達!」

 

 

 前部の操縦席に座るのは、ガウラという航空技師を兼ねた亜人の飛行士。

 

彼女はこちらを振り向いてエンジン音にも負けない怒鳴り声をよこした。

 

 後部銃座とはいっても、機銃などの兵装は全て取り払ってあるので、こちらはもっぱら観測要員の席だ。

 

 

ルナ「降下準備に入るにゃ!」

 

 

 ルナも親指を立てて合図を返しておいて、強烈な風圧の中を慎重に立ち上がった。

 

上翼に両手でつかみかかり、両足でコクピットの縁を踏みつける。

 

四肢に力をこめて、飛ばされそうな体をしっかり固定する。

 

 座席から出てしまうともう音も風も抑えが効かなくなって、目もミミも開けているのが困難になった。

 

空は快晴でも、風は容赦なく冷たい。

 

 身につけた装備を今一度確認してから、ルナが最後の確認として飛行士の肩を二度たたく。

 

飛行士はうなずき、前を向いたまま片手を上げて、声とハンドサインにて5秒前からのカウントダウンを始めた。

 

 手足の先にいっそうの力をこめ、ルナはゼロを待ち構える。

 

飛行士の手指が全て折られると、機体が右へロールした。

 

 

ルナ「ベイルアウト!」

 

 

 上下が逆さまになるほどまで傾いたのち、ルナは叫んでそこを飛び出した。

 

すぐさまプロペラの音が遠ざかってゆく。

 

水平飛行の風が自由落下の風に切り替わってほほを切りつけ、髪やシッポをかき乱す。

 

 両手足を広げてうつぶせの体勢を取ってみれば、はるか遠くの山の波まで見通せた。

 

大地の緑と空の青。

 

ヒースブルグは光に満ちて美しかった。

 

 しかし、それら壮大な景色をのんきに構えて楽しんでいる時間はあまりない。

 

ぼやぼやしていると眼下の滑走路に激突して、五体が押し花のようにぺしゃんこになってしまうだろう。

 

 ルナは左胸にあるリップコードのハンドルを右手でにぎりしめ、ひと息に引っ張った。

 

 

ルナ「えいっ!」

 

 

【シャァァァ……バサッ!】

 

 背中に負ったバックパックから飛び出た物が、彼女の頭上で一瞬のうちに風をはらんでふくらむ。

 

落下速度が急減し、衝撃を食らった反動で体が前後にそり返る。

 

 

ルナ「に゛ゅっっ!!」

 

 

 くいしばった歯から、何とも奇妙な悲鳴がもれた。

 

見あおげば、秋の青空に大輪の月見草が咲いている。

 

左右に葉むらのようになった翼が突き出て、手もとのコントロールラインを引けばかじを取ることもできた。

 

 4枚花弁かべんの黄色い花をモチーフにした新型パラシュートの性能は確かなものだ。

 

あとは飛行場に無事に降り着いて安全性を証明できれば、ルナの今回の仕事は成功だった。

 

 だったのだが、悠然と空を降りてゆくうちに、彼女は気まぐれを起こしてしまう。

 

ひとつ思い付いて針路を変えると、向かった先はメルヴィル城の居館だった。

 

城壁のてっぺんを通り越し、城主らしき顔がちらりと浮かぶ窓を目がけて降下してゆく。

 

 そこはリリィの居室。

 

アステルとリリィの他に、4人の見習いメイドたちが窓ガラス越しに注目する中、ルナは左右のコントロールラインを引きしぼって速度をゆるめ、地面へと接触した。

 

【ザッ……ザッ……!】

 

 くつ底が芝をえぐるほどの乱暴ぎみな着地ではあったが、そのまま数mを駆け抜けて制動することができた。

 

見えないゴールテープを切る要領で、彼女は大手を広げてその出窓のそばでぴたりと止まったのだ。

 

 背後の地面にパラシュートのかさが遅れて落ちてくると、室内でにわかに歓声がわき起こった。

 

 

ジャスミン「すごぉい!」

 

 

デイジー「すごいのね!」

 

 

モモ「ルナがおちてきた!」

 

 

ポピー「ふゎぁぁ……!」

 

 

 窓が開き、2つの出窓から2人ずつの声が飛び出す。

 

 

ルナ「にゃひ……♪」

 

 

 無事に上空1500mからの地上降下を果たし、ルナはにやりと笑った。

 

すぐに装備を解いて身軽になると、片方の出窓へ駆け寄って室内へ上体を乗り入れる。

 

 

ルナ「にゃにゃ──ん♪」

 

 

 ベッドのリリィとそのかたわらのイスに座ったアステルにも自分の勇姿を見てもらおうと、効果音付きの登場シーンを演じてもみた。

 

片腕をぴんと差し伸ばしてほこらかに胸を張る彼女は、まるで西の海を越えて隣の大陸まで単独横断飛行も成し遂げそうな出で立ちだ。

 

 

少女たち「おお──!」

 

 

 室内の者たちがぱちぱちと拍手を浴びせてきた。

 

 

リリィ「もう、飛行機から落っこちた時は、心臓が止まるかと思ったわよ……!」

 

 

 天蓋付きのベッドに横たわったまま、顔だけをこちらに差し向けて興奮ぎみにリリィが言った。

 

 

アステル「どうだい?

新しいパラシュートの調子は?」

 

 

ルナ「とっても良好だにゃ!

前のより姿勢は安定するし、かじも切りやすくなってるし、コレなら雲の上からダイブしてもゼッタイ助かるにゃ♪」

 

 

 ベッドの向こう側からあるじに問いかけられ、ルナは自信たっぷりに答えた。

 

 

ジャスミン「こわくなかった……?」

 

 

 心配性のジャスミンが、窓枠に身を乗り出して、押し花のようにぺしゃんこになった地面のパラシュートを見て言う。

 

 

ルナ「平気にゃ。

航空技師のガウラたちが設計したパラシュートだから、品質はハナマル付きだにゃ~」

 

 

デイジー「もしパラシュートがひらかなかったとしても、ここはヒースの多いところだから……」

 

 

モモ「ひーす?」

 

 

ルナ「荒野に生える草ムラのコトだにゃ。

パラシュートが無かった時代に、気球から飛び降りてヒースの上に落ちて、助かった人が何人もいたらしいのにゃ」

 

 

リリィ「ヒースブルグのヒースよ」

 

 

 もちろん当時はそれほど高くない所からの落下であったのだろうし、いくらヒースがクッションとなって助かったといっても全くの無傷というわけでもなかっただろう。

 

航空技術が発達し、高高度での飛行が当たり前となった今では、そんなことは迷信のたぐいでしかなかったが。

 

 

アステル「お疲れ様。

いつも危険なことをさせてしまって、ごめんね。

とても助かるよ、ありがとう」

 

 

 もっとも、ネコの亜人の身軽さをもってすれば、多少の緊急事態も乗り越えられるかもしれない。

 

アステルの言葉は少女の飛行士にとって自信と勇気を与えてくれるもの。

 

 パーラーメイドが彼女の主たる仕事ではあったが、時おりこうして接客以外の大役にも駆り出されるのだ。

 

そしてあるじの役に立つことこそが、ルナの生きがいでもあるのだった。

 

 ローレル山脈の上を旋回してきた複葉機が、飛行場への着陸を今、果たした。

 

【コンコン……】

 

 

声『ニアでございます』

 

 

 ノックがあり、ドアの向こうで声が上がる。

 

 

アステル「いいよ」

 

 

【ガチャ……】

 

 

ニア「失礼いたします、アステル様……」

 

 

アステル「……?」

 

 

 開扉して入ってきたのはニアだったが、彼女の後ろに料理長の姿も見え、アステルもルナも他の幼子たちも、何事かとそちらに目を向けた。

 

 

ニア「先ほど亜人薬剤店の奥様から連絡がございました。

人間の男が一人で“エルフェドリン”を買いしめていったそうでございます」

 

 

アステル「エルフェドリンを……?」

 

 

ニア「はい……」

 

 

 ニアの言葉に、あるじがにわかに面持ちを固くした。

 

話がまるで見えないルナは、同じく不思議そうな顔を浮かべている4人の見習いメイドたちと見交わし合うしかない。

 

 

アステル「具体的に、どれくらい?」

 

 

ニア「店にあった3瓶を、全て……」

 

 

アステル「3瓶を……!?」

 

 

ニア「はい、そんなに多くは売れないと店主が断ったそうなのですが、それでも男は無理やり持っていったとのことでございます……」

 

 

リリィ「……アステルお兄さま?」

 

 

 しびれを切らしたリリィが、たまらず従兄あにを呼びかけた。

 

 

アステル「…………」

 

 

 何か深刻な話のようだったのでルナには口をはさむこともはばかられたが、少女のおかげで自分だけカヤの外にされずにすみそうだ。

 

アステルはしばらく考え込んでいたが、やがてリリィのほうを向いて言った。

 

 

アステル「エルフェドリンは“エルフ喘息ぜんそく”の薬なんだ。

製薬方法がむずかしくて、あまり出回らない物なんだよ」

 

 

 それで料理長のプロテアがニアに連れられてきたのか。

 

ルナは彼女がこの城で唯一のハーフエルフ族であったことに思い至って、そして彼女が喘息持ちであったのだろうことまでを推知した。

 

 

プロテア「あと2週間ほどは何とかもつかもしれないけど、買いしめられたとあっては次の入荷までに手もとの薬が尽きてしまうよ。

いったい誰がこんなコトをしたんだろうねぇ、アステル様……」

 

 

 まるで悪者がいるような口前で城主にこぼしたプロテア。

 

ここまで聞けば、なるほどこれは一大事だと、ルナを含め誰もが思うに充分だった。

 

 

アステル「3瓶もの量では使い切れずに使用期限を過ぎてしまう……。

人間の男が買っていったという話だけど、転売目的だったとしてもエルフ族は長寿でめったにいない種族だし。

あるいは何か他の理由か……。

ともかく、売り切れてしまったものは仕方がない。

遠方の街の薬屋に置いてないか確かめてみよう。

しかし……」

 

 

ニア「はい、どうも良くないことが起こりそうな気がいたします……」

 

 

 あるじの推論に、始めから重い顔をしていたニアも同調して言った。

 

 

アステル「……うん。

プロテアさん、エルフェドリンについてはなるべく早く手配するよ。

どうか安心して」

 

 

プロテア「そうかい?

すまないね、じゃあよろしくね」

 

 

 戸口のほうを見返って彼が気づかわしげに約束すると、料理長は大柄で豊満な体をしおらしくよじって謝意を告げた。

 

話を終えた彼女が不安をぬぐい切れない顔で去っていっても、室内での議論は続く。

 

 

アステル「街の亜人専門の薬屋はあの一軒だから、もしかしたら他のエルフも困るかもしれないね……」

 

 

ニア「公爵領にいるエルフは、“マリー”のみだったはずでございます」

 

 

アステル「そう……マリー……」

 

 

ポピー「の、?」

 

 

デイジー「まるメガネのマリー!」

 

 

 城主の言葉に反応して、幼子たちが言い交わした。

 

ルナもその名を知っている。

 

 確か彼女が外仕えに出たのは半年以上は前だったか、シルバーエルフという種族のマリー・アシュレイという少女。

 

ルナよりひとつ年下で、面倒見がよくいつも丸メガネをかけていたので、みんなからはそのように呼ばれて親しまれていた。

 

 言われてみればマリーも、喘息をわずらっていたはずだ。

 

 

ニア「マリーの主人はファウネル様でございます」

 

 

アステル「念のため手紙を出しておこうか。

……いや、しかし」

 

 

 アステルは言ったあとで視線をさまよわせ、考えをめぐらせてから付け加えた。

 

 

アステル「ファウネル氏は今、ご在宅だろうか?」

 

 

ニア「今夜、ファウネル邸で彼主催のパーティーが開かれるはずでございます」

 

 

 あるじの急な質問にも手抜かり無げにニアが答えると、次に声を上げたのはリリィだ。

 

 

リリィ「パーティー!?」

 

 

ニア「はい、ファウネル様は絵画商で、コレクターを招いてしばしばパーティーをされているようでございます」

 

 

アステル「ニア、ダークスーツを用意しておいて。

ルナ、君はパーティードレスだよ」

 

 

ルナ「にゃっ!?」

 

 

 出し抜けのリクエストで、飛行服姿のルナは窓枠に両手をかけたままのかっこうでどきりとした。

 

ドレスを命じられるということはつまり、そのパーティー会場まで彼のパートナーとして付き添って行くという意味だ。

 

 

リリィ「待って、お兄さま。

リリィも連れていって……!」

 

 

 これに子どもっぽくせがんできたのは、足なえの少女だった。

 

 

アステル「……ああ、リリィ。

今日はだめだよ。

遊びに行くわけじゃないんだ」

 

 

リリィ「でも……」

 

 

 寝たままで食いさがるリリィの次の言葉を手の平でさえぎって、首を振るアステル。

 

最近はずっとおしとやかにしていたのに、彼女はめずらしくわがままを言った。

 

 

アステル「ごめんね」

 

 

 とうとう会話を切り上げてすくと立ち上がったアステルに、それ以上何も言えずにさびしそうな顔を浮かべるのみのリリィ。

 

ニアとともに退室してゆく彼を、ただ静かに見送っていた。

 

 

デイム・ルーディ「ルナ・グリフィズ!!」

 

 

ルナ「……にゃっばい」

 

 

 後方から呼び上げられて、ルナは室内を向いたままこちらはひたいにあぶら汗を浮かべる。

 

振り向かずとも、誰が何の目的でここまでやって来て自分の名を呼んだのかを、彼女は心底理解していたのだ。

 

 

デイム・ルーディ「全く貴様という奴は!

こんな所に着地して、人を巻き込んだらどうする!」

 

 

ルナ「デイム・ルーディ、にゃはは……」

 

 

 仕方もなしに振り向いて苦笑いで城兵長の顔色をうかがってみると、彼女はすでにワニ特有の獰猛な目つきでオニの形相だった。

 

 

デイム・ルーディ「飛行場に降下する段取りであったはずであろう!

なにゆえ城内に進入する必要があるのだ!」

 

 

ルナ「ほほ、ほら、パラシュートの旋回性能も確かめておかないといけなかったのにゃ……!」

 

 

デイム・ルーディ「また適当なことを……。

幸い何事もなかったからよかったが、貴様はもっと規律をだな……」

 

 

ルナ「じゃあ、今度はデイムが飛んでみるといいのにゃ♪」

 

 

デイム・ルーディ「ぬを……っ!?」

 

 

 ルナの切り返しに、勇ましげな鎧を身につけたデイム・ルーディがたじろいだ。

 

 

ルナ「次のフライトはデイム・ルーディに全部おまかせするにゃ。

上空6000mからのダイブは、きっと気持ちがいいはずにゃ~♪」

 

 

デイム・ルーディ「まま、待てっ!

それがしは城を守るのが任務だ……空に上がる必要などないぞ。

うん、ない……」

 

 

 初めて見る彼女の困惑顔に、面白がって言い立てるルナ。

 

 

ルナ「デイムが飛ぶ姿、楽しみだにゃ~♪」

 

 

 城兵長が重たい鎧を着けたままパラシュートを開いて、減速されずに高空から垂直落下をしてくる場面を想像すると、何だか笑えてくる。

 

 

デイム・ルーディ「それがしは飛ばぬぞっ!」

 

 

ルナ「にゃふふ……♪」

 

 

 むきになって拒否してくるデイム・ルーディを尻目に、ルナはパラシュートをかい繰って丸め、それを肩にかついだ。

 

デイム・ルーディが飛ばない言い訳を勝手に始めてからは、意気揚々とその場を引きあげてゆくルナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 リリィはこのところ、ベッドで過ごすことが多くなった。

 

今日もフリルとレースが目いっぱい付いた淡い色のドールドレスを着ていたが、ずっとベッドから出ようとせず、車イスも部屋のすみ。

 

また風邪などを引いてはいないかとモモは心配したが、体を動かすことを面倒がっている以外は至って普段通りのリリィであった。

 

 ただし今は、今しがた城主が去っていったドアをながめて、とてもさびしそうにしてはいるが。

 

 

リリィ「モモ……モモ……」

 

 

モモ「……え?」

 

 

 黒い長手袋がはめられたリリィの手を見つめていたモモは、彼女に呼びかけられてそちらに視線を移した。

 

大きなまくらを下に敷いて赤むらさき色の髪を結んでいない、リリィのしおれかけた顔があった。

 

 こちらに向けられた深みどり色の瞳は以前よりも沈みがちな輝きで、眉間のしわは前にも増して深い気がする。

 

 

リリィ「モモ、あなたにお願いするわ。

アステルお兄さまと一緒に、パーティー会場へ行ってきて」

 

 

モモ「…………」

 

 

 リリィの言ったことを理解するのに、少々時間が要った。

 

 

リリィ「すきを見て馬車のトランクにしのび込むの。

うまくいけば誰にも気付かれずに行って帰って来られるわ。

大丈夫よ、モモがこの中では一番お姉さんなんだから、それくらいかんたんでしょ?」

 

 

 返事に困っていると、リリィはとっぴょうしもないことを言ってきた。

 

にぎりこぶしを持ち上げてどこか楽しそうに力説する彼女に、ベッドの周りの見ならいメイドたちは、互いに目を見交わしたり他者に聞かれてしまってはいまいかと、窓や戸口を見返ったりしていた。

 

 

リリィ「きっと素敵なパーティーよ。

みんなはどんなドレスを着ていくのかしら。

流行りの色は何?

アクセサリーは?

髪型は?

それをモモに見て来てほしいの!

メイド服を着ていれば、敷地内を歩いていても問題ないわ。

窓の外から中をちらっとのぞいてくるだけでいいのよ。

ね、お願い、モモ……!」

 

 

 リリィはこちらの手を両手でつかんで、アステルに言うみたいに甘やかな声でお願いしてきた。

 

そんなに他人がしているかっこうが気になるのかとモモは首をかしげそうになったが、そういえばルナとニアと3人で街へ出かけた時には普段と違う2人の服をじろじろとながめてしまったこともあったのだ。

 

もしかするとリリィも、あの時モモがいだいた気持ちと同じ気持ちを今いだいているのかもしれない。

 

 

モモ「わ……わかった」

 

 

リリィ「ほんと!?」

 

 

 こちらがうなずくと、リリィの顔がぱっと明るくなった。

 

 

リリィ「じゃあさっそく馬車のトランクに隠れるのよ。

他のみんなはモモを手伝って!

見つからないようにね!」

 

 

 急に張り切り出して指示を飛ばす主人に、周りのコマヅカイたちがあたふたと行動を開始する。

 

もう半年はここで暮らしてきたが、こんなことは初めてだ。

 

 モモは不安をかかえながらも、何か冒険に出発する時のような高揚感で胸を満たしてもいた。

 

自由に出歩くことができないリリィの代わりに、外を見てくるといったこともコマヅカイとしての立派な仕事になるというところか。

 

城主にだまって小悪事を働こうとしているのだから、それなりの申し訳を考えついておくことも必要であったのだ。

 

 ともかくモモは他の3人とともにアステルが乗りこむであろう馬車のもとへと向かったのだった。

 

 

 

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