第4話〔4〕つみ花と罰

 

 

 

 

 

 記憶があいまいであった。

 

どうやらそこは牢獄か何かのようであったので、窓がなく昼か夜かも分からない。

 

なぜここにいるのかも理解できなかったし、体がひどく重いのにも説明がつかなかった。

 

 とにかくペテュニアは、燭台の火のほのかに照る石造りの四角い部屋にいるらしいことを知ってから、ようやくベッドに寝かされていたということに気付いたのだった。

 

 

ペテュニア「なに……っ」

 

 

【ガシャ──ン……】

 

 腕を持ち上げようとして、手首に巻きついていた鎖がけたたましく暴れ跳ねた。

 

 

ペテュニア「ツッ……」

 

 

 急に動いたためか、全身のあらゆる部位が飛び起きたみたいに痛みを発する。

 

治まるのを待って、首だけをもたげて確認してみると、体には古びた布服が一枚だけ着せられていて、所々に包帯が巻かれてあるのが見えた。

 

 

声『起きたみたいよ……ご主人様を呼んできて……!』

 

 

声『はい、ただいま……』

 

 

 一つだけある木戸の向こうから、何か指示をやりとりする2人の女性の声が聞こえた。

 

 ぽつりと思い返してみれば、最後に見た人物は、本当にルドベキアだったのだろうか。

 

あるいはストリンガー伯爵の放った追っ手ではなかったか。

 

 いずれにせよ、ここがどちらの屋敷であったとしても、ペテュニアに待っているのは死。

 

それが避けようのない宿命ならば、あとは静かに待つのみだ。

 

 観念したように彼女は脱力し、再び天井を向いて両目を閉じた。

 

しばらくして。

 

【ガチャリ……】

 

【ギィィィィ……ィ】

 

 木戸がゆっくり開かれる音がして目を開けてみる。

 

横目でそちらをうかがえば、武具をまとったワニの亜人の姿。

 

その後ろからは、黒衣に身をつつんだアイリス・メルヴィルの姿もあった。

 

 ペテュニアは険しい面持ちのまま、視線を天井へもどす。

 

 

アイリス「……ペテュニア」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

 ルドベキアの片腕越しに、アイリスがこちらの名を呼んだ。

 

手足は縛られていたが、それでなくともペテュニアには、もはや返事をする気力も残っていなかった。

 

 

アイリス「ひとつだけ聞かせてちょうだい。

…………あの子は、お義父様とうさまの所にいるのね?」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

 ペテュニアは間を置いて息を吸い、まぶたを閉じた。

 

夫を殺したのではないかという質問がまっ先にされると思っていたが、どのような質問であったとしても、かつての依頼主をかばう義理などもうない。

 

 

ペテュニア「……ええ、そうよ」

 

 

アイリス「…………はぁ」

 

 

 アイリスは悲嘆のため息をつき、壁を向く。

 

こちらのひと言で全てを理解したのだろう、彼女はひたいに手を当て、思い詰めた顔でしばらく考え込んでから言葉を発した。

 

 

アイリス「ルーディ、あとはたのみましたよ…………」

 

 

ルドベキア「御意……」

 

 

 背中で言い置いて部屋を出てゆくアイリスに、ルドベキアがおごそかに返事をする。

 

【ギィィ……バタン】

 

 アイリスはひどく打ちひしがれた様子で木戸を閉めて、せかせかとした足音で去っていった。

 

【カチャ……】

 

彼女が去ったあとで、すかさずルドベキアが内側から鍵をかけた。

 

 鎧を着けたワニの亜人は、気重げな面持ちでそばのスツールを持ち上げてこちらへやって来る。

 

それをベッドのかたわらへ設置して、腰の剣をすらりと抜いた。

 

 そのまま切っ先を石床に軽く突き、スツールの上へどっかりと尻を据える。

 

赤々とした長髪を後ろへなでつけてから、まっすぐ立てたブロードソードの柄頭つかがしらに両手をのせて話し始めた。

 

 

ルドベキア「やはり、貴様だったか……」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

 威圧のつもりか保身のためか、あるいは情報を聞き出したのちに首を打つよう命令されたか、ルドベキアはにぶく光る抜き身を見せつけて至極くやしげにこぼした。

 

 

ルドベキア「細かい素性は知らぬが、まあ使用人の物腰ではないと常々、思っていたのだ。

アサシンか……」

 

 

ペテュニア「たかだか3年修行して、師父にあっさり命を売られるような戦災孤児をアサシンと呼ぶなら……、

そうね」

 

 

ルドベキア「フンッ、たかだか15の小娘が、早くも全てを悟った気でいるのか?」

 

 

 言い返せなかった。

 

そういった気力もなかったし、自分があまりにも世間を知らなかった15の小娘というのも事実だったからだ。

 

 

ペテュニア「そう、何も知らなかった……。

なぜ伯爵が、あの子を欲しがったのかも……」

 

 

ルドベキア「パキラ・ストリンガー伯爵には、2人のお子がいた。

この城のあるじであった長男のデュランタ様と、

次男のアフェランドラ様だ」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

 横目でルドベキアの顔をうかがってみた。

 

彼女は自分の発言に疑いも無げに、背すじと視線をまっすぐにして城兵たらしく話を続けた。

 

 

ルドベキア「デュランタ様は当時、使用人としてストリンガー家へやって来たアイリス様をめとって妻とした。

だが、貴族の娘を彼にあてがいたかった父の怒りを買い、勘当されてしまったのだ。

メイドとちぎりを交わすなど一族の恥だ、

彼女と結婚するというのであれば、今後一切、ストリンガー家を名乗ってはいけない、と……」

 

 

ペテュニア「……メルヴィル」

 

 

ルドベキア「そう、デュランタ様はストリンガーの名を捨て、アイリス様のメルヴィル姓を名乗ることになされた。

デュランタ様は、最初からストリンガー家の者でなかったことにされてしまったのだ。

全く、格式ばかりを重んじる貴族の考えることは分からんな……」

 

 

ペテュニア「城は……?」

 

 

ルドベキア「ああ、父に勘当され、持っていた領地のほとんどを没収されたが、唯一この城は、クイーン・ローザからデュランタ様ご自身に下賜かしされたものであったのだ。

彼が青年時代、女王陛下にあてた手紙に、“亜人を救うための場所がほしい”と記したからだと聞いている。

ともかく、我らはこのメルヴィル城でおだやかに暮らしていた。

つい最近までは、な」

 

 

 話を聞くうちに、ペテュニアの寝起き頭もいく分か働くようになってきた。

 

敵であるはずの副兵長がなぜこんな話をするのか、未だに真意はつかめないが。

 

 

ルドベキア「伯爵のもう一人の息子、アフェランドラ様には、妻フリージア様とのお子が2人いた。

兄のマルタゴン様と、妹のリリィ様だ。

ところが、最近になって、マルタゴン様が亜人であるらしいことが判明したのだ。

隔世遺伝かくせいいでんというものだった。

そして先日、マルタゴン様が亜人特有の“変異”によってお亡くなりになった。

わずか4歳だったと聞いた。

全身から無数の肉芽にくがを生じ、背中からクモの長足ながあしを8本、突き出して死んだのだ。

プテロナラクニス族という、めったにない亜人だった」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

ルドベキア「マルタゴン様を凄絶な死によって失った母のフリージア様は、その時のショックで気がれてしまわれた。

今では人と人形の区別もつかないフリージア様を、アフェランドラ様が付きっきりで看ておられる。

しかし悲劇はそれだけでは終わらなかった。

一人娘となったリリィ様の体にも、同様の亜人の血が流れていたのだ。

彼女も長くはないだろう。

まだ2歳だというのに、変異が起これば死はまぬがれぬ。

跡継ぎとして期待されたお子が次々と人間ではないことが分かり、このままではストリンガー家の血族が途絶えてしまうとお考えになったパキラ様は、ある一つのくわだてを思い付いたのだ。

ストリンガー家の唯一の人間の子、アステル様を跡継ぎに据えてしまおうと……」

 

 

 なるほど、家柄にしばられた老齢が考えそうなことではある。

 

勘当した息子の子を勝手な事情で跡継ぎに迎えようなどと虫のいい話が通るわけもない。

 

 それならば、さらって来ればいいと思い立ったのだ。

 

そうして、人さらい役としてペテュニアが選ばれた。

 

 

ルドベキア「伯爵は、アステル様を取り上げられてもまた子をせばよいだろうとでもお考えだったのだ。

貴様がデュランタ様を手にかけなければ、な。

誘拐の話を持ちかける相手を間違えてしまったのは、伯爵の失敗であったのだろうが……」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

 ルドベキアの言葉に、唇をかんで天井をにらみつけるくらいのことしかできなかった。

 

 12歳の時から師父に連れられ、人が殺される場面をいく度となくながめてきたというのに。

 

人の命など、紙幣の数十枚ほどの価値しかないと思っていたのに。

 

それ程度の認識だったのだ。

 

 いざ自分が人を殺してみても、ほとんど何も感じなかった。

 

胸の中にわだかまりが芽生えたらしいことに気付いたのは、ずっとあとになってからだった。

 

そのわだかまりの原因は、おそらく彼だ。

 

 笑顔の消えた、アステルという男の子。

 

ストリンガー家で彼と過ごしたひと月あまり、ずっと胸の奥のほうがざわついて仕方がなかった。

 

疑いもなく見つめてくるあの澄んだまなざしが、こちらの心を見透かした上で責め付けているようで、とても居心地が悪かったのだ。

 

 否、悪いのは依頼をしたあの伯爵と、自分をアサシンに仕立て上げた師父のほうだ。

 

今さらながら、どれほどの言い訳をひねり出したとしても、もはや許されぬこととは知っていた。

 

自分が彼の父を殺したのは、まぎれようもない事実なのだから。

 

アステルにとってペテュニアは、父のかたきでしかないのだから。

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

ルドベキア「ふっ、納得していない顔だな。

まあ、無理もない。

貴様らは、ただ与えられた仕事をこなしているだけなのだから。

しかし憶えておくといい。

罪を犯せば、必ず罰を受けるということを。

それが証拠に、貴様は負っている。

誰に負わされたものかは知らぬが、見当ぐらいは付く」

 

 

ペテュニア「わたしは……どうすれば」

 

 

 方法が思い付けなかった。

 

人を殺す技は知っていても、罪をつぐなう方法は教わっていなかった。

 

 

ルドベキア「どうすれば許されるか?

……さあな、それは自分自身で答えを見つけなければならん。

しかし、アイリス様は貴様が深い闇の中から脱することのできる娘だとお考えだ」

 

 

ペテュニア「…………」

 

 

ルドベキア「いいか、それがしが今ここで貴様を斬らずにいるのは、ただ我があるじアイリス様のご命令によるものだ。

デュランタ様を殺されて、そのかたきも討てずにいる家臣の気持ちを少しでも察するというのであれば、貴様もアイリス様に従うべきだ。

そして、アステル様を取りもどす手伝いをしてくれると、

…………ありがたい」

 

 

 彼女は言いながら立ち上がり、得物を目の高さに持ち上げてながめ、それからさやへと納めた。

 

最後の一文を悲痛そうな目で訴えかけると、くびすを返してここを出て行った。

 

 数日後、ペテュニアはメルヴィル城の見習いメイドにもどった。

 

デュランタの代わりとしてメルヴィル城城主となったアイリスに、もう一度仕えることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモ「じゃあ、ルナは神さまなの?」

 

 

ニア「いいえ、亜人よ。

人間と何も変わらない。

ただ少しだけ、他の人と違うってだけのことなのよ」

 

 

 亜人の起源の話が終わると、アイスココアの入ったカップを両手でにぎりしめていたモモが、今ひとつ理解しきれていない顔で問いかけてきた。

 

 ルナも幼子ほどではないにしろ、口少なになって話の内容をかみくだいている最中らしかった。

 

自分が無理交配によって作り出された存在であると知らされては、心の整理をつけるのにも時間がかかるのは当然だ。

 

 ニアは休日にカフェへ訪れてまで語り聞かせるべき話題ではなかったのかもしれないと、少々後悔をしてしまった。

 

 皆の皿が空になっていたので、熱の引いたおしゃべりは切り上げて店を出ようと席を立つ。

 

 

ニア「そろそろ行きましょうか……」

 

 

モモ「はぁい」

 

 

ルナ「うん……って、アレ?

にゃんか、違う話だったような……?」

 

 

 立ち上がりながら小首をかしげているルナをなるべく触れないように、ニアは会計をすませようと店の奥へ向かう。

 

何かあったのか、店内にあるほうの客席がにわかにさわがしかった。

 

 

男「お……おい、大丈夫かお前……」

 

 

 一人の男が同じテーブルのもう一人の客に心配そうに声をかけていたのだが、一方は熊の風体ふうてい、一方はライオンの風体をした獣人らしかった。

 

どうやら具合が悪そうにしているのはライオンのほうで、それを連れであるらしい熊が気づかっているのだ。

 

 ただならぬ様子に、ニアはその場で立ち止まってそちらを静かにうかがった。

 

嫌な予感がして、前を行こうとするモモをはたと両手で捕まえた、直後に。

 

【ドンッ……!!】

 

 

熊「ギャッ!」

 

 

 熊の亜人が人つぶてとなって背中から飛んでくる。

 

【グシャアァッ!】

 

 

店員「キャ──ァ!!」

 

 

 その熊が、テラス席のテーブルの上に落ちて天板てんいたごと床へと転げ落ちると、同時にウサギ耳の店員の悲鳴が上がった。

 

【バァン!】

 

【ガシャァァン!!】

 

 ライオンのいる方向から、テーブルやイスがなぎ倒され、皿やグラスの割れるけたたましい音が聞こえてくる。

 

 

ニア「モモ……!

下がって!」

 

 

 ニアは気付いた。

 

雄々おおしいたてがみをふり乱し、鋭い爪と牙をふり立てて、赤々とした眼をぎらつかせる獅子頭の偉丈夫いじょうふ

 

あれはまぎれもなく野性化した亜人の姿だった。

 

【ガアァァッ!】

 

 血気に狂った吠え声を発し、すでに伸びきって毛深い上体にまとわりついていた人間用の布服を自らの手爪で破り裂く。

 

筋骨隆々とした腕が振られると、商品棚やカウンターが商品もろとも吹き飛んだ。

 

 手近な物をことごとく破壊し終えたそいつが次に標的に定めたのは、ウサギ耳の店員だった。

 

【ゴォッ!】

 

 

店員「アアッ!!」

 

 

 銀盆を脇ばさんで立ちすくんでいた彼女は、一瞬のうちに襲いかかった爪によって熊の亜人同様、人つぶてとなって宙を舞った。

 

 

店主「ガーベラぁっ!」

 

 

 彼女の体がカウンターの向こう側まで飛んでいってしまったので、最後までは見届けることができなかった。

 

が、おそらく駆けつけたオオカミ頭の店主が、彼女をしっかりと受け止めていることであろう。

 

 正気を失った獣人はそれでも治まらず、手足を凶器としてなお暴れ続ける。

 

たちまちのうちに店内は千切れた家具や割れた食器でめちゃくちゃになってしまった。

 

 こんな日に野性化した獣人に出くわすなどとは、ニアたちも全く運がなかった。

 

 

熊「つ──……ツツ」

 

 

 店内とテラスとの出入り口付近で倒れていた熊の亜人が、首すじを押さえつつ起き上がる。

 

 野性化というものは、かつての友でさえ思い出せなくなるのだ。

 

ライオンは動き出す熊に即座に反応して、四本足の獣の姿勢をとってこれをにらみつけた。

 

 今にも襲いかかってくるライオンに気付いて熊が立ち上がろうとしたが、遅かった。

 

【ガアアアッ!!】

 

 

熊「あああっ、くそっ!!」

 

 

 ライオンが獣たらしく飛びかかるともう、その牙は熊の亜人の片腕を捉えていた。

 

かみつかれた腕を体幹ごと振り回し、ライオンを振り払う熊。

 

彼も相当に力が強かった。

 

 2人の獣人はテラスに来てまで立ち回りを演じ、今度はテラステーブルを次々破壊してゆく。

 

二・三度爪牙そうがを交えたが、しかしライオンのほうがわずかにうわ手を取っていた。

 

 

熊「グワァアァァッ!!」

 

 

【ドサッ……!!】

 

 頭を低く構えて突進してきたライオンに、熊はふところを攻め込まれ、またしても人つぶてとなって柵の外へ飛んでいった。

 

【グルルルル……】

 

 目を付けられることを怖れて静観していたニアたちだったが、それも他の獲物がなくなるまでのことだった。

 

ついにライオンは、こちらを標的と定めてしまったのだ。

 

 

ルナ「マズい……!」

 

 

ニア「モモ、逃げて!」

 

 

 ぎらりと光る獣の眼に危険を察して2人が叫ぶ。

 

四足でそいつが迫ってきても、幼子の反応はにぶかった。

 

こちらも足がすくんでいるのか、柵を背にして立ちつくすモモ。

 

【ガァッ!!】

 

 

モモ「ひっ!」

 

 

 猛獣の大口が一足飛びにやって来て、あと少しでモモの頭をくわえこもうという、刹那。

 

ニアもルナも、半ば勝手に体が動いていた。

 

ライオンの左右に立ち、その前足をそれぞれ力いっぱいすくい上げたのだった。

 

 

2人「ヤッ!!」

 

 

 獣の巨体は瞬時に上空へ舞い上がり、モモの頭上をかすめ、柵を越え、半回転したのち、店外まで飛び出していった。

 

【ドシャアアァッ!!】

 

ライオンの脚力が上乗せされた勢いで、相当な高さから石畳の路面に激突した獣人は、ひと度はずんでから倒れ伏した。

 

 手足先をけいれんさせて動かずにいるそいつをニアたちはしばらく警戒してながめていたが、どうやら完全に気絶したらしく、再び起き上がる気配はなかった。

 

道行く人々も、何事かと振り返る。

 

向こうの角から警ら隊が駆けてくるのが見える。

 

 熊の亜人もウサギの亜人も、命に別状はなさそうだ。

 

とっさのことではあったのだが、モモの直前でこれ以上の被害を食い止められたのは幸いだった。

 

 

モモ「ぅ……ぅわあぁあぁん!」

 

 

ルナ「ああっ、モモ、大丈夫にゃ!

もう平気だにゃ!」

 

 

 幼子も、突然のことで驚いたのだろう。

 

危険が去って、恐怖心が追いついたらしいモモは、今初めて大声を上げて泣き出した。

 

あわててルナが両ひざを地に突き、その子を胸にいだいてあやしかける。

 

 これが亜人として生まれ出た者のさだめだった。

 

ある日突然理性を失い、野性の支配するままに罪なき者を傷付けるのだ。

 

 かつて神に近しい存在としてあがめられたはずの亜人たちは、今となっては危険で野蛮な者としてさげすまれる。

 

多くの誤解や無理解によって、差別や忌避きひの対象となっているのだった。

 

 

 

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