第47話 とある動画

『えーと、なに、こんな感じでいいの? スタジオとか使うんじゃないの? え? みんなこういう風に? 家とかでやってるの。そうなの。あー、僕は動画とか見ないからなあ。見ても実況動画とかはほら、ゲーム画面じゃない。あ、ごめんごめん、しゃべるんだよね』


 冴えない男が何やらごちゃごちゃ言った後で、こちらを向いた。


『えー、みなさんこんにちは、綿貫真崎です。ご存知の方も多いと思います。今回は、皆さんにデモの案内をしようと思ってます』


 そこまで喋ってから、床からぺらぺらした紙を持ち上げて読んだ。

 カンペである。


『えー、マークが扇動した先日のデモは痛ましい結果に終わり、大変な被害が出ています。かつての有名動画配信者であった彼であっても、そのような事をしていい道理はありません。我々は断固、マークに抗議する、そのためにデモの開催を宣言いたします』


 男は厚紙を拾って画面に近づけた。


『え? 近い? でも遠いと見えないでしょ。え、カメラ塞いじゃった? ごめんごめん、君きびしいねー』


 少し距離を離された厚紙には、デモの日程と場所が書かれている。

 下には可愛らしい文字で拡散希望! とある。


『昼食はでないので各自で用意してきてください。それじゃ、楽しいデモにしましょう。綿貫真崎でしたー』


 以上でぐだぐだの動画が終わる。

 これがなんと、一日で全国に拡散された。

 伝説の生放送の立役者である綿貫真崎。

 あれがCGか何かではなかったのか、とは今でもよく言われている。

 そうでなければ人死にをだしているわけではないか。

 例えそうだとしても、あの動画は凄かった。

 すぐに削除されてしまったから、製作者側の意図していない方向に状況が動いたのは分かる。

 扇動したのがマークだったから、その一派にとって不都合だったのだろう。

 だが、そのマークたちに敵視される綿貫という作家は何者なんだろう。

 作家というからには本を出しているのではないか。

 読んでみよう。


 などということになり、綿貫真崎の小説は妙に売れ始めた。

 そして小説を読んだ人がおおむね、なんだこれ、という顔になり、エッセイを読み直してなるほど、という顔になった。

 綿貫真崎という名前は、ネット上ではちょっとしたブランドになっていた。

 だけど創作物はひどいもんだよね、という。


 さて、いよいよ、終わりが始まる。

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