スカイ・プログレスーbreaking originー

未旅kay(みたび けー)

スカイプログレス

 人類の数が沢山減った後、長老こと私のおじいちゃんが言うには約150年経ったらしいです。

 長老と呼ぶと、こっ酷く叱られはしないけど、嫌そうな顔をされるのでランドゥーおじいちゃんと呼んでいます。

 人口が何故激減してしまったのか、はたまた150年前に何があったのか聞いても大人は、多くの人が空に召されて天使になったとしか語ってはくれません。

 その意味を理解するには、まだ理解力が構築されていないため『ヘぇ~』と首を傾げる事しか出来なかったのです。

 私の住む村、ジャポ村は近隣の村より割りかし多い村人が住んでいます。


 27××年、7月21日

 場所オスト村

 第72回 シャドーウェーブ

 被害者数 160人

 被害範囲 推定半径約40kmの楕円型

 現在状況 今尚、発生中

 地形状況 内部の植物の光合成不可、気温極低


 札束のように重なった災害被害報告書と書かれた長方形の紙の束を見ながら、ランドゥー村長ことランドゥーおじいちゃんは眉間のシワをなおもっと寄せました。


「ご苦労様じゃった。」


 そう一言残すと、その紙を持って村役場に向かって歩いて行きました。

 残された広場に調査員達は腰を下ろします。


「ベルヌさん、ゆっくりお休みになさって下さいね。」


 ランドゥー村長の孫娘のサーネが労う。


「今回は、以前よりも酷かったさ。」


 村一番、運動神経がいいベルヌさんは肺の空気が全て抜けるのではというくらい長く深く息を吐く。

 村の若者数人が近隣の村で災害シャドーウェーブが起こった場合調査に行く。


「村全体がもう、完全に闇に包み込まれて動物1匹見つけられなかった。寒いし息苦しかった。一体全体、あの暗闇はいつまでオスト村を包むんだろうな。」


 ベルヌはゆっくり呼吸をしながら絶望する。


「避難民がいるこの村内で話すのは無関心だと思われるかもしれないが、あそこの土地の状況からするに復興は絶望的だった。いや、絶望をそのまま形にしたらこんな感じですよ。って自然界に提示されているように俺には見えたぞ。」


 サーネに心境を語るベルヌの後ろで空を見つめるもう1人の、かつて調査員だったガペルガーはベルヌの言葉に付け足すように呟く。


「あの暗闇は生き物にも見えた。アレが移動すると仮定してしまったら、いずれこの村にだって暗闇が現れかねないじゃないか。」


 私はまだ、そのシャドーウェーブが何か見たことが無かった。

 周りにいた調査員として派遣された何人かは、顔を見合わせ青ざめている。


 何も言わずに熱心に聞き手に率先していたサーネが口を大きく開く。


「皆さん、今日疲れて帰って来ると思ってオスト村出身のケルバルムさんが大きな黒牛を仕留めてくれたから沢山食べて沢山笑えばきっと明日また元気で頑張れます。」


「せっかく、村の人数が増えて賑やかになったんだから。あんたら、しけた顔しないの。」


 愛嬌のあるおばちゃん代表を務められるであろうドラム缶のように大きいカムスおばちゃんがサーネの後に笑顔で笑う。


「あたいら達の天使のサーネちゃんが珍しく大きな声で叫んだんだ。元気な姿にならないとね。」


 サーネにカムスおばちゃんは優しくウインクをする。

 カムスおばちゃんの笑顔に私達がどれだけ助けられてることでしょう。カムスおばちゃんはみんなのお母さん的な存在です。村の女性はたくましいのだ。



 朝、麻布で作られた屋根の隙間から朝日が差し込み私の顔に直射し眠たい身体を無理矢理に起こします。

 暖かい。

 このおせっかいでも、暖かい太陽が遮られるのが、どれだけの悲しみになるのか考えるだけでも怖くなってしまいます。

 鉄くず置き場に1人で雑貨に使えるような部品を探すのが私の日課になっていました。

 途中の道までボーボーに自分よりも高い丈の裸子植物が生えていて、それらを掻き分けて鉄くず置き場と書かれた看板を目印に到着します。サーネは目を閉じ、大自然に受け入れられる。


「風を感じる。温もりを感じる。」


 風が彼女を心地よく包み込む。太陽の優しい光が優しく彼女を照らし暖める。



 今日は、黒くて丸い筒のようなモノがありました。後々、ランドゥーおじいちゃんに聞くとカメラという精密機械の部品だったそうです。

 その丸い筒には、ガラスが入っていて綺麗だったのでそれを横に傾けて持ち上げ中を覗き込む。

 綺麗な光の反射が横に付いている小さなガラスから私の手に当たり、光の四原色がクルクルと回りました。


「キレイ…。」


 すると、大きな牛を引き連れて私の可愛い可愛い妹のミーコが牛の散歩ついでに私をお迎えに来るのが見えました。

 こんなに可愛い妹が迎えに来てくれるなんて私は幸せすぎかもー。


 黒い毛を持ち、立派で大きい角が特徴的な牛のグラントはとても優しい目をしていてツヤツヤな毛並みをしています。

 私たち姉妹の親友です。


「おねーちゃん、今日のガラクタは良いの見つかった?」


「ガラクタじゃないよミーコ!昔の人達の進歩の欠片だよ。」


「それ、おじいちゃんの受け売りだよね~。」


「そんな難しい言葉どこで覚えたの?」


「でも、昔の人って進歩しすぎて滅びちゃったんでしょう?」


 また、私の可愛い妹が賢くなってしまいました。


「じゃあ、賢くて可愛いミーコにコレあげるね。」


 黒くて丸い筒をサーネはミーコに渡す。


「そこ覗いてみて。」


「んーーー?綺麗だねー。」


 見る前に空返事した後、黒い筒の中からキラキラと光る原色がミーコの目にも映る。


「お姉ちゃん、なんかお日様の光が集まってダンスしているみたい。」


「ミーーコ!ロマンチストだねぇー!」


 ミーコのストレートショートヘアーを撫ぜ撫ぜする。

 ロマンチストという言葉に、頬を真っ赤にして両手をグーにして俯くミーコも可愛い。

 私達は1年歳が離れている。

 現在、私は今年の夏で12歳になる。

 暖かい春の日差しが今は心地よい。


 モォーーーーーーーー!


 突然、サーネとミーコの横で休んでいたグラントがその身に似合う重低音を披露した。

 すると、サーネが慣れたようにグラントの大きな胴体に飛び乗る。


「ミーコ、ミーコも乗って良いよってグラントが。」


 私とミーコが乗ってもグラントは、びくともせずに、ずっしりとマイペースに歩いていきます。


「お姉ちゃんの髪、ロングでサラサラしててるね。」


「えへへ~、ミーコに褒められた!」


「私もお姉ちゃんくらいの歳になったら髪伸ばしてみようかな。」


 それって一年後なんだよミーコ!私たち一歳違いなんだから!とツッコミを入れるのを我慢した。


「ミーコなら、ショートでもロングでも似合うよ。」


 機嫌良さそうにグラントはムォーーと鳴く。

 そうして、2人と角に布をかけても怒らないぐらい温厚な牛は仲睦まじく、人類の大半が去ってしまった土地の大地を踏みしめるのです。


 私たちは、仲良しでたまにケンカはするけどお互い大好きで、おじいちゃんと3人で暮らしています。


 グラントに乗りながら、村の居住地に戻ると何人かの近所のおじさん、おばさん達が優しく2人に手を振る。

 それに2人も笑顔で手を振り返す。


「おじいちゃん、帰ったよー。」


「お帰り~2人とも、それにグラント。」


 ランドゥーおじいちゃんはいつものように、グラントに干し草を与えると頭の毛を、大きなくしでとかします。


「おじいちゃん、朝ごはんにしましょ。」


 すると、サーネは慣れた手つきでコンロに火をつけアスパラとベーコンを焼き始めた。

 塩コショウが宙を舞う。サーネが食事担当らしい。


「お姉ちゃん、私も料理できるから今度朝ご飯作らせて。」


「食中毒とか嫌よ。」


「もぉ~、お姉ちゃん!」


 モォーーーーーーーー!家の横にある牛舎でグラントもミーコの声に反応して元気良く鳴く。


「わっはっはっはーー。」


 ランドゥーおじいちゃんは、その光景を楽しそうに高らかに笑いながら見守る。


「おじいちゃん、笑わないでよーー!」


 あっ、と思い出したかのようにランドゥーおじいちゃんが優しそうに話しながら戸棚から何かを取り出してくる。


 私と妹は何だろうと興味津々でおじいちゃんを見ていると、2つのブリキで作られたペンダントを取り出して私たちに1人ずつ優しく手を取って渡しました。


「これは、私がお主らの事を誰よりも大切に思っている証だよ。そして、お前たちがいつも一緒に入られるように魔法をかけておいた。」


 真ん中に赤い宝石が小さくあしらわれ、円形の枠を着色されており、鉄とは思えないくらい綺麗な色をしています。


 私とミーコはお揃いのペンダントを首から下げる。2人で手を取り合ってクルクル回って喜びました。ミーコと私はおじいちゃんに飛びついてギュッとおじいちゃんに抱きつきました。


「おじいちゃん!ありがとう!」


「喜んでくれたらそれでいいんだよ。」


 ランドゥーおじいちゃんは優しそうに私たちの頭を撫で、長老とは思えないくらい若々しい笑顔で私たちを見つめていました。


 私たちは粘土で作られた壁に布の屋根という簡易的な造りの家で生活しています。

 寒くなると屋根が瓦やコンクリートの家に移動します。

 月に一度、そっちの家を掃除する日を決められていて大人子供関係なく村全体で協力して掃除をします。

 この日の決まりは昔、おじいちゃんがもっと若い頃におじいちゃん本人が提案したそうです。

 おじいちゃんは他にも沢山の決まりや研究を村で行い、村の活性化に一役買っています。

 村の人たちが、その話を私たちにしてくる時は私たち姉妹は胸を張ってエッヘンと言い放つ、それを見た村の人たちは顔を見合わせて微笑みます。


「ミーコ!真面目に掃除しなさい!」


「してるもん!」


 2人の姉妹は部屋の壁を一生懸命ゴシゴシと拭きながら、お互いを指摘し合う。


「あら、ミーーコ!こんなにも、床にホ・コ・リがあるじゃないの。」


 床を指先で線をなぞり、その先に付いたホコリをフーッとして妹を嘲笑う。


「お姉様の掃除なさっている棚だって、見てくださいなこんなに汚れていらっしゃる。」


「その床と棚は俺が補強して掃除した後なんだが?」


 ベルヌが悪戯そうに落ち着きはらった口調で二人の後ろで独り言をわざと大きい声で呟く。


 二人の姉妹は何とも言えぬ表情で『おほほほほ~。』と二人仲良く苦笑いしながらあとずさる。


 ベルヌの横で長老が苦笑いする。


「シンデレラは、もっと華やかな場面があるんだけど。そっちを真似るのか。」


 ランドゥーおじいちゃんは苦笑いをしながら私達を楽しそうに見ていた。

 何やかんやで、暖炉の設置、壊れた家具や食料庫をの修理を男たちが行った。

 危険なことをやらせたくないと小さい子供や婦人には掃除を任せた。

 長老でサーネとミーコの祖父であり、村長を務めるランドゥーの指揮により迅速に進み素晴らしいプチリフォームがほどこされた。


「よし、終わりましたね、村長。」


「あぁ、そうだな。」


 ランドゥーは村人の全員が外に出たのを確認すると、ベルヌの横に立って叫んだ。


「皆の者!お主らの力の結集により、冬用住居の掃除が1日で済ますことが出来た。今回は、避難民も受け入れたため新たな建物の掃除もできて良かったと思う。」


『おぉーーー!』『村長!』所々からランドゥーに対する歓声や咆哮が聞こえる。


「シャドーウェーブ被害者の皆も、慣れぬのに良くやってくれた!これからも、このジャポ村は君たちの受け入れを心から歓迎しよう。これからも我らの村が平和で素晴らしい居場所になるため誠心誠意励んでもらいたい。」


 おじいちゃんが演説したら、とてつもない拍手とピューという指笛が村の出身関係なくに響きました。

 さすが私のおじいちゃん。

 素晴らしい言葉の選択、堂々とした立ち振る舞い。

 私たち姉妹はおじいちゃんを尊敬している。


 その晩、大きな炎を囲って第二の家の掃除のお疲れ様会と称した飲み会が行われました。


 お酒も出ますが、無論、私達用のドリンクも出ます。

 食べ物の置いてある所々に松明が光エネルギーと熱エネルギーを放っている。

 パチパチと樹皮の燃える音が楽しそうに弾けます。


 飲み食いしている中心で燃え盛る炎を文明の火と村では呼ばれています。お祝い事の時はこの炎を囲みます。

 でも、火をずっと絶やさずに利用しているわけではなく、決められた土台に火を点けてそれを文明の火と呼んでいます。

 鉄製の大きな翼が彫られた綺麗な彫刻の器です。

 長い間、村を守っているとか、いないとか。

 おじいちゃんは人の集団には崇拝する役割の何かが必要なんだよ、と言います。


「長老ー。あんたは本当に優秀な人だ!」


 ベルヌさんがランドゥーおじいちゃんをいつものように褒める。

 最近来たばかりの、ケルバムさんなど村の男たちは深く頷く。


「ベルヌ、ランドゥーさんは長老だけどそこまで歳じゃないんだぞ。長老、長老と連呼して年寄りと言っているみたいで迷惑じゃないか。」


 見た目通りに熱い男のケルバムさんが、ベルヌと肩を組んで酒の入ったグラスを高らかと夜空に掲げる。


「ジャポ村のみんなに感謝ダァー!」


「お前ももう、ジャポ村の一員だ!兄弟!」


 男たちは声を荒げて互いを讃える。


 そんな熱い男たちを遠目に木の株に座りながらゆったりとサーネとミーコは、呆れる。


「若い女の子の友達が欲しいよね。」


 今回の難民の中には、同年代の女子は少ない。


「ジャポ村は二人しかいないんですか?」


 サーネとミーコともう一人、オスト村から避難してきた中で唯一の同年代の女子は2人に質問しているメゲル・ハーメしかいませんでした。


「嫌ね、昔は女の方が多いって聞くんだけど。」


 スラリとした美貌をもつ、同じくオスト村から来た2人より歳上のマリカさんが空を眺めながらフゥーーと息を吐きます。


「でも、カムスおばさんのトビウオの塩揚げは絶品よ。」


 マリカがカムスおばさんの方を見てウインク。


「ねーーーーーー。」


 他三人も元気よくカムスおばさんを見てウインクを思い思いにかましてやりました。


 それを見てカムスおばさん一同、マダム集団がワッハッハと笑い、女性のチカラは少なくても大きいのだと感じます。


 幸せとはこういうことなのかもしれないとそう思えます。

 みんなでご飯を囲み、それぞれ違っても何だかんだで一つになっている。

 この村はきっと、、、シャドーウェーブなんかに負けないと、この時ハッキリ感じる。

 まだまだ蒸し暑い日はこれからも続いていく。


 次の日の早朝。


「おっはよーーう。ミーーーコーー!」


 私は、お寝坊さんのマイ・スイート・スィスターのミーコに抱きつく為にベットにダイブする。


「んっもーう、お姉ちゃん!朝からウザい。」


「ガーーン!可愛いミーコに罵倒されたぁ~。」


 姉強し。


「そぉーんなミーコも可愛い~~!」


「お姉ちゃん、いい加減にしなぁさーい!」


 私のおでこ上をミーコのチョップが勢いよく落ちた。


「ふぎゃん。」


 妹さらに強し。


「あれ、今何時?」


「六時!!!」


「早朝じゃん!」


 二度目の空手チョップが落ちたことは言うまでも無いかもしれない。


 今日はおじいちゃんに連れられて文明跡地と呼んでいる場所に来ることになっていました。

 その為、妹を私が愛をもってして目覚ませます。


 ずっと昔、人がまだ沢山いた頃に建てられた建造物です。

 廃墟にはツタが伸び自然と一体化しかけいます。

 沢山がどれ位いたのか、何億といたとしても決して多いとは言えない村で生まれてこの方生きている為に想像もつきませんが。

 でも、一つだけ言えるとしたら昔の人たちが、どれだけ凄い技術力を持っていたかということです。


「ねぇー、おじいちゃん!昔の人って何を発明してたのー?」


「ミーコ!おじいちゃんだって、実際に生きていたわけじゃないからそんなに昔のこと分からないよ!」


 昔の人という概念は私たちにとって物凄く昔のことを指しています。


「生きていたとしたら何歳なんだろうね。」


 落ち着きはらった優しい声で案外若い長老は可愛いおバカ発言をした妹に答えます。


「2人とも、人の研究や開発には大きな代償が伴うんだ。だから、ずっと昔のことで無かったら今でも関係のない人々が苦しめられることになる。」


「でも、おじいちゃんの研究はえーっえーっなんだっけ?」


「エコだよ!お姉ちゃん!」


 私一本取りましたよと言わんばかりの小生意気な顔をして私を見るミーコ。

 小生意気な顔も可愛いからムカつかない。


 ボーボーに成長しまくったイネ植物の雑草を掻き分けて、24と大きく書いてある建物に私たち三人は入りました。


「昔の姿のままなんだよね?」


 床の所々、タイルの裂け目から長年の自然の成長が垣間見れた。


「昔の面影を背負っているのは電気が点くぐらいだ。じゃあ、始めるとするか。」


 奥の部屋から運んできたホワイトボード、汚れていてホワイトとはかけ離れているボードにスラスラと異国の文字をおじいちゃんは書き始める。

 そして、いつものように尋常なく分かりやすい授業が始められる。


 決して言うな。

 珍しくおじいちゃんが私たちに他言無用を強制してきたのは、この授業を始めたばかりの頃でした。

 どこの言葉であるかも分からないまま週に一回の外国語の授業は私が八歳の時、ミーコが七歳の時、同時に始められここ四年続けられています。


「今日の授業は終わる。お疲れ様、帰るか。」


 いつものように三人は壁の剥げ落ちた建物から出て行く。


「ガルルルゥゥ。」


 途端、私たちに獣の唸り声がの耳に届きました。


「戻れ、二人とも。」


 ランドゥーおじいちゃんは怯える私たちを建物の中に押しもどす。


「おじいちゃん・・・。」


 野犬。基本的に村の周りには獣除けのネットを設けているが村から離れると、いつ野生動物に襲われてもおかしくはない。

 ましてや、以前食物連鎖の頂点に立っていたであろう人間がいなくなったのだから生態系がどう傾こうか不思議ではないとおじいちゃんは言っていた。

 特に野犬が頂点に立つわけではないが、数百年で崩れ、再構築された。


「二人は目を閉じていなさい。」


 外ではとてつもない狂った犬の遠吠えから唸り声に変わり何かのジリジリという聞いたことのないような音が鳴って薄眼を開いてしまうと、そこには青白い光とおじいちゃんの人影のみが映りとっさに目を閉じた。ドサリときっと力無く野犬が倒れる音なのだろうと理解し目を開いた。


「もういいぞ、二人とも。」


 無邪気におじいちゃんへと駆け寄るミーコを追いかけて私も近づいた。


「凄いねー!おじいちゃん!さすが私たちのおじいちゃんだよね!」


「おじいちゃん、なんだったの?今の。」


 後から余計な事を言ってしまったと後悔して、顔が引きつるのを感じた。

 でも、おじいちゃんの表情は変わらずにいつも通りの優しい孫を気遣う祖父の顔で答えてくれる。


「目は大丈夫だったかい?」


「うん。」


「眩しかったろうに。この事は、村の人たちには言ってはダメだよ。」


「また、秘密ごとが出来ちゃったね。三人だけの秘密。」


「って、ミーコも目を開いてたの?」


「眩しかったから薄眼だけどね。」


 そのあと、クルミをドッサリ拾って帰った。

 結局、おじいちゃんと私達との間では秘密ごとは出来てもその秘密ごとに対する細かい詳細までは

 おじいちゃんが説明する事はなかったし、私達もそれほど追及しようとは思わなかった。

 外国語の授業だってそうだが、おじいちゃんは私たちの分からない何かを知っている。

 でも、優しいおじいちゃんを困らせたくなかった。

 ただ毎日が楽しければ良かったし、この授業は間接的におじいちゃんとの距離が縮まっている感覚に対して幸せを感じていたからなのかもしれない。


 クルミを油を引いたフライパンで炒めるとそこに、村のみんなで作ったジャガイモと烏骨鶏の肉を投入し夕飯を食べた。


 夜する事といっても特にないのが常だった。

 夜、また前みたいに大勢で食事をするのならまだしも、そんなに頻繁に行うことも出来ないので一般的にはそれぞれの家それぞれの家族で食事を囲んだ。


「お風呂上がったよ、おじいちゃん。」


「ああ。」


 お風呂に上がり二階建てベットの上の段に登り、小さな天窓から星の輝く空を見上げる。

 肩の出た寝巻きは通気性が良く着心地が良い。

 ミーコとはお揃いです。



「お姉ちゃ~~ん!」


 かわいいかわいいミーコがお風呂上がりの火照った頬を赤らめながら私に擦り寄ってくる。


「ああああ、ミーコが迫ってきた~~!」


 朝の起こすときのお返しだろうか、異常なくらいポカポカしたミーコの火照った身体が私の肌にくっついてきて、正直暑い。


「ミッミーコ、代謝良すぎでしょ。」


「え~、お姉ちゃん嫌なのー?」


 じゃれ合う?私達の会話を聞きながらおじいちゃんは微笑ましく紙に何かを書いている。そして、用事を済ませたのか、二段ベットのハシゴを登って


「サーネ、ミーコ、二人が好きな昔の話をしようか。」


 おじいちゃんの久しぶりにしてきた提案に喜んで私たちはベットの一段目に降りてきた。



 昔々ずっと昔、人類は地上を歩くのを止めました。

 しかし、人類は肩に翼を生やすのでも空中に浮く力を身につけたわけでもありませんでした。

 決して、人は天使にはなれない。

 だから、大部分の人々は空に地上を作った。

 そこで生活をし、ほんのわずかの人たちは地上で暮らすことにしました。

 残った人類は人間のいなくなった地上の様子を空の人類と情報交換をしていくはずだったが、空の人たちとの連絡がすぐに無くなった。

 そのまま、数百年の時が経った。

 もう地に足を踏みしめたことのある人は誰もいません。

 そんなある日、地上に興味を持った一人の青年が空から興味本意で地上に降りようとしました。

 しかし、途中で乗っていた小型飛行機が破損し、ある村に不時着してしまったのでした。

 そこの村の人たちに助けられて、青年は彼の持つ知識を存分に利用し村を発展させようと励みました。

 いや、彼は発展など求めはしなかったのです。

 村の人たちと同じように。

 彼は自分の周囲の人たちが少ないながらも長く幸せに生きていけるようにしようとしたのです。

 なぜ彼は発展させようとしなかったのか。

 それは人類がなぜ地を踏まなくなったのか知っていたからだ。


 おじいちゃんから貰った二つ大切に棚に並べてあるペンダントをランドゥーおじいちゃんは軽く眺めてから、話しの途中で寝てしまった私達を見つめました。


「そのお話って、おじいちゃんの知っている人の実話とかなんでしょ?」


 私は最後まで起きていた。

 初めておじいちゃんだけが知っている知識について質問したかもしれない。

 この昔話をする時いつも、おじいちゃんは悲しそうな顔をしている気がする。

 だから、どうしても聞かずにはいられなかった。


「どうだろうね、でも彼は大切なモノを、空では手に入らなかったモノを地上で手に入れた。それを失いたくないだけだったのかもしれないね。」


「もう、おやすみ。僕の大切な孫たち。」


 いつもより、いっそ優しそうな顔をしておじいちゃんは笑った。


 私達とおじいちゃんはこれからも、いつまでも一緒に楽しく過ごしていける。





「二人とも、準備は出来たかい?」


「はぁーーーい。」


 おじいちゃんの手作りの釣竿を肩にかけて、朝早くから川に向かった。


 私たちは釣りに行った後に、こないだやって来たオスト村のある家族の家から夕飯に誘われていたので、午前中に釣りに行ったあとに、そのまま釣れた魚を手土産に持って行こうということになりました。


 村の近くの川で三人は釣り糸を垂らす。

 水面にウキが三つ並んで水紋の震源となっている。


「釣れるのかなー。」


 私の可愛いミーコが早くも駄々をこね始めた。


「ここは釣れるスポットだから絶対釣れるよ。」


「釣れないと無駄骨だから。釣れてもらわないと困るんだけどね。」


 さすがおじいちゃん、冷静沈着。


「おっ?」


 本当に何でも出来る人なのだと言わんばかりにおじいちゃんの釣竿がしなる。

 ウキがポッチャリ沈む瞬間と共に隣でジャポネ村若き村長は、釣竿を引っ張ってどデカイ魚影が二人の真上を通り過ぎた。

 ドサッと重みのあるモノが重力に逆らわずに二人の真後ろの地面に叩きつけられた。


「鯛だな。」


「タイだね!」


「めでたいね!」


 この歳で駄洒落に目覚めてしまう妹に私は抱きついた。


「私はミーコを愛でたいよ!」


「きゃっ、止めてよお姉ちゃん!」


 ランドゥーおじいちゃん改めて、ランドゥー釣り名人は95センチという異常なサイズの鯛、鯛?を釣り上げた。


 その鯛を私とミーコは二人で抱えて、オスト村から来たステンベークさん一家のところまで運びました。

 ジャポネ村の南東にあるステンベークさん一家にの住む家に着いた時には三時をまわった頃になっていました。


「こんにちは、ランドゥー村長。わざわざ気をかけていただきありがとうございます。」


「この村の生活には慣れてきましたか?」


「はい、しっかり屋根も壁もある家に住まわせていただき、何て言葉に表していいことやら。」


「娘も喜んでおります。」


 ステンベークさん一家は、ステンベーク・イースさんと奥さんと三歳になる娘さんの三人家族です。


「すご~い!こんなに立派な鯛じゃないですか!」


「さばくのお手伝いしますね。」


 私は台所で奥さんと流し台から、はみ出んばかり鯛に戦闘態勢で向かう。


「お若いのに魚をさばけるなんて凄いわね!」


「いえ、おじいちゃんから習いまして。」


 ザクリと頭を切る。


「ミーコ、ウロコ取って。」


「はぁーーーい!」


 料理に参加し損ねて軽く拗ねる妹は役職を与えられパーッと笑顔になると無我夢中に魚の体表を包丁で擦り始めた。


「二人とも仲がいいのね。」


 優しそうな奥さんが笑顔になった。


「うちの娘も、あなたたちみたいに優しい子に育つといいわ。」


 その姿をテーブルで主人とランドゥーおじいちゃんは見守る。


「村長さん、一つ伺ってもいいですか?」


「何でもどうぞ。」


「村長は、ジャポネ村の皆さんから長老と呼ばれていらっしゃいますが実際はおいくつなんですか?」


「はっはっは。」


 私たちと奥さんは、その会話に耳を傾けた。

 奥さんは私たち二人を見つめ、私たちは二人でクスリと顔を見合わせてニヤつく。


「四十五歳だ。」


「その歳で長老と呼ばれているのですか?」


 イースさんは目を見開いて驚嘆します。


「僕と妻はそちらのお二人がてっきり娘さんだと思っていたものでして。」


「そう思われても仕方がないよねー、おじいちゃん。」


「お姉ちゃんと私はお父さんとお母さんが、シャドーウェーブの探索に行ってそのまま帰って来なかったからおじいちゃんと一緒に住んでるんですよー。」


 笑顔で話すミーコを見ても奥さんは悪いことを聞いたと思い不用意に聞いてごめんなさいと、謝ってきたけど私たちは全く気にしていなかったので即答します。


「でも、私たちにはこんなにカッコいいおじいちゃんがいるので、全然寂しくはないです!」


 その言葉を聞いて、ステンベーク夫妻は安心し、それと同時にこの村に来て良かったと言ってくれました。


「私の願いは、孫娘二人がこのまま元気に成長してくれるのを見守ることなんだ。」


 なんだかんだで、私とミーコと奥さんで鯛のお刺身と塩焼きとカルパッチョを見事に完成させました。

 しかし、さっき言ったおじいちゃんの些細ささいな願いは無残に成し遂げられることはありませんでした。


 私たちが鯛を食べ終えたその刹那、木製の扉が派手に破壊された。


 その一瞬、大きな爆破音と共に扉が消し飛んで家に置いてあった棚ごと壁を突き破り破壊します。

 見たことのないゴムに近い材質。

 体にピッタリと張り付いている武装をした集団が黒い鉄の棒に近い道具を背中に掛けて、外と家との境界でこちらを覗き込んできたのです。雰囲気から私は生きてきて一度も味わったことのないような圧迫感を感じました。

 五、六人のうちの一人が黒い鉄の棒の先端をこちらに向けてきました。


 私たちは一瞬の出来事で何が起こったかは分かりませんでしたが、おじいちゃんは咄嗟にポケットから何かセイヨウスモモに似た黒い塊をその集団に投げると周囲を包み込むような真っ白な光が発生しました。

 私とミーコ、ステンベークさんの子供を担ぐと台所の横の勝手口に私たちを連れて来て、ドアを蹴り開くと真っ直ぐに私たちの目を見ます。


「ここから二人は逃げなさい。とにかく遠くに走るんだ。サーネ、ミーコを頼むよ。村の人たちのいる所でも、森の奥でもどこでもいいから。分かったかい?」


 何も分からない。

 理解もできない。

 いや、したくない。


 だけど、おじいちゃんは冷静に私とミーコに語りかけました。


「おじいちゃんは?おじいちゃんも一緒がいい。」


 涙目のミーコと一緒に私もそう訴えたかった。

 でも、おじいちゃんの目を見たら、そんな事言えなかった。


「僕はこの村の長老だ。それに、さっきのは軽い目眩し程度にしかならない。奴らの異様な雰囲気を二人も見ただろう。」


 ギュッと私たち二人を抱きしめるとおじいちゃんは、優しく笑う。


「さぁ、行きなさい。」


 それが、私が見た最後のおじいちゃんの笑顔でした。


「ミーコ、行こう。」


 私はおじいちゃんの目を見て軽く頷くとミーコの小さな手をしっかり握って遠くを見て走りました。


「君たちは、大事な私の宝物だ。」


 後ろでおじいちゃんの声が遠くから聞こえた気がしました。


「お姉ちゃん、何で?何でおじいちゃんは一緒に来ないの?」


 引っ張る私の手を振り払おうと華奢きゃしゃな腕を上下に振る。

 ミーコの手を私は、よりいっそ強く掴みます。



 この手だけは、離してはいけない。


 私たちは草木を掻き分けて、林に入りました。


 きっと、おじいちゃんなら何とかしてくれる。

 そう信じることしか出来ない現状に悲痛を感じました。


 まだ空は明るかったので、おかげで道を走っていけます。

 草木の揺れる音が何一つ耳に入ってこない。



「ねぇ、お姉ちゃん。離してよ!」


 妹の高唱だけが私の耳に入ってくる。


「ミーコ、私はミーコが大好きだし、おじいちゃんも大好き。でも、おじいちゃんは私たちの事を私たち以上に大好きで大事に思ってるの。そのおじいちゃんにミーコを託されたの。だから、この手は話せない!」


「でも、おじいちゃんは!」


 数分前までいた家の方角から耳を裂くような今まで聞いたことのない破裂音が聞こえた。


「おじいちゃん!」


 私たちの唯一の家族であるランドゥーおじいちゃんの生死が分からない事に私たち二人は動揺する。


 ミーコの目から溢れるように涙が流れ、その突如、離さないと決めていた手が不意に解けて私の大事な妹は走り出していく。


 ミーコはは木々をすり抜け走る。

 私はひたすらミーコの背中を追った。


「ミーーコ、行かないでミーコ。」


 私の声にピクリともせず走っていく。


「そっちはダメ、ミーコ。ミーー。」


 脚の付け根が木の根に引っかかり体が膝から崩れ落ちる。


 転んでる場合ではない。


 ミーコが、行ってしまう。


 おじいちゃんと約束したのに。


 転んだせいか、脚がもつれて走れない。空からの光が私の上をゆっくり通ります。


 痛めた脚を引きずってでも、私はミーコの走り去った方向に進みました。


 痛い、そんな感覚もそれどころじゃありませんでした。


「ハァ、ハァ。ミーコ・・・。」


 少し木の生えていない広いスペースに出ると視野が少し明るくなった。


 私は力無くバランスを崩し、何か大きなモノに肩からもたれかかりました。


 大昔に人が使用されていたとされている大きな鉄製の車という乗り物にそれの姿は似ていた。


 ほぼ鉄の塊に近い機体に寄りかかり、息を整える。


 しかし、その間もなく私の身体が宙に一回転しました。


 一瞬だけ空が視界に潜り込み、次の瞬間で外とは断絶されたのです。


「痛っ。」


 感情も何も込められていない一言が私の口から漏れる。

 頭がクラクラする。

 一瞬の出来事でよく分かりませんでしたが、車内に閉じ込められたことに気づいたのは数十秒後のことでした。


 頭上から私の閉じ込められたのは、寄りかかっていたその機体だと理解しました。


 それは真ん中までガラス張りで、それと同時に球体に近い形状である事も分かり、出口を探すが見つからない。


 中から外の状況が分かる為、外を見るとそこにはミーコがいました。


 しかし、私たち姉妹は再会を喜ぶことが出来ませんでした。


「ミーーコ!」


 声をどんなに出してもミーコに届きません。


 私たちの間には厚く頑丈なガラスがあったからです。


 そして、そこにはミーコともう一人、絶対に会いたくなかった武装集団のうちの一人の背の少し高い男がいました。


 音は聞こえにくい。


 でも、ミーコが恐怖で固まってしまっていることだけは理解できました。


 男はニヤリと口元を緩めるとズカズカと歩み寄って、私の妹に近づき片手で肩を包み込むように掴み、ナイフで胸元を切り裂きました。


 やはりさっきの集団がどれだけ危険で卑劣な脅威かという事をその時私は、知ってしまった瞬間でした。


「やめて!やめてよ!ミーコに近づかないで!」


 必死に叫びガラスを叩いても、びくともしません。

 だんだん手の表面が赤く、血が寄ってくる。


 無駄だと分かっていても声が枯れても、私はとにかく叫び叩きます。


 ミーコは、ハッと我に返って後ろに退こうと抵抗しますが、掴んだ手は振り解けず男はミーコの服を裂きます。

 そのまま、ミーコの後ろに男は回り込むと肩から腕を掴み耳元でミーコに何か言います。


 ミーコの表情が失せ、大粒の涙だけがいっそ流れます。


 男は腰の辺りに拘束していない方の手を滑らします。

 男の顔はだんだんと口元が緩んでいく。


 ミーコの抵抗は虚しく男の顔は数センチまで、ミーコに近づくのです。


「やめて。ミーコに触らないで。」


 悲しみで足からしゃがみ込み、機体の外と断絶された空間の中で私はガラスに手を当て、ミーコの上半身だけ見える状況になりました。


 もう、視界が濡れて視点が定まらない。


 痛哭のなか機体の中からでも分かるぐらい大きな銃声が聞こえた。


 ハッとミーコの方向に、しゃがみ込んだまま目をやります。


 ミーコのはだけた胸元から下にかけて、直接銃弾の跡は見えなかったが、ベッタリと真っ赤に染まっていました。


 驚嘆し硬直する。


 大きく目を見開いたミーコの視線の先には、拳銃を構えた男が微動だにせずに立っています。


 その拳銃からは細く煙が棚引きます。


 ミーコは目を見開いたままさらに表情を無くして膝から崩れ落ちます。


「ミーーーーーコーーー!!!」



 目の前で最愛の妹が撃ち殺される。

 声は枯れて最後まで痛ましい声は続かなかった。

 確かにミーコの首の辺りまで血に染まって、膝から崩れ落ちるのが見えた。

 これほどの絶望が今まであっただろうか。いや、無い。

 両親は感情が身につく前に二人ともいなかったし、最愛のおばあちゃんが亡くなったときは悲しみはあったが絶望はなかった。

 今、自分の置かれている状況など、どうでもよかった。


 機体のガラスに何個もの数字が並び重力に逆らって、それが、浮いていたとしても。


 とんでもない速さで地面から離れていく恐怖や謎の飛行体に閉じ込められた不安などよりも可愛いくて大好きで尊い、たった一人の妹であるミーコに向けて乾いた銃声が鳴り響いた事が暗い闇へと私をいざなう。



 点滅するランプ、身体の体温が勢いよく低下していく。

 冬の海に投げ出されたように身体から少しずつ体温が蒸発していくのだ。


 私の心は黒く静かな闇に飲み込まれていった。



 空はこんなに青いのに、太陽はこんなに輝いているのに。


 全く暖かくない。


 横たわり、かすかに見える窓からは草も大地も、笑い合う村の人たちの姿もいない。


 そして、二人の姿もいない。



 さえぎる建物一つない遠くまで広がるあお



 でも、もう限界かもしれない。


 薄れていく視界。


 減っていく呼吸と心拍数。


 意識があるだけでも不思議だった。



 ミーコ、お姉ちゃん・・・助けてあげられなくてゴメンね。



 機体が微かに揺れ、窓が一瞬暗くなってから明るくなる。



 雲を突き抜けたのだ。



 ミーコ、雲は水蒸気だから食べられないんだって・・・。


 おじいちゃんと二人で秘密にしててゴメンね。



 涙が溢れてくる。

 村の人たち、ミーコ、そして大好きなおじいちゃん。


 多くの大切な人たちの顔が浮かんでは消える。



 私が聞いた最後の音は、雲を突き抜ける時の飛行体の音でも過去の記憶から届けられてくる思い出の声でも無かった。


 一言の高めのイントネーションなんて微塵も感じられない機械音声。



 ーーーただいま、高度10㎞でございます。

 急激な気圧と上昇確認、よって自動機内調整モードが実行されますーーー




 空を飛ぶ鳥の気持ちは、人にはきっと分からない。



 おじいちゃん、天使は空になんていなかったよ。


 分かっていた。


 おじいちゃんが話す昔話が、お伽話だって事ぐらい。




 そこには巨大なエメラルドブルーに紺色のコントラストが途中に配色されている大きな鯨が尾をバタつかせていた。


 決して、見たことの無いおおきな巨きな鯨でした。



 それからの記憶は無く、意識を失っていたのかもしれない。



 でも、ミーコとまた会えるならいいかな?


 天使は居なくても天国がそこにあるのなら、二人はまた一緒に暮らせるもんね。







 目を開いたら、柔らかいベッドの上で毛布を掛けられていました。


 残念ながら、そこは天国ではないみたい。


 しかし、そこには笑顔があった。


 ぎこちない、でも、とても暖かい一人の少年の笑顔があった。


 身体は酷い倦怠感に襲われていて酸素吸入器と後で知る物を付けられています。


 私は顔の表情すら手の指一本動かせなかったけど、何故か涙だけは流れた。




 きっとこの涙は、悲しい涙では無かったはずで。


 その時だけは自分が生きているという事実と、手の痺れと一緒に伝わる力のこもった少年の手の温もりに対する安心感からのものだったのだと思う。






 スカイ・プログレスー 完

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スカイ・プログレスーbreaking originー 未旅kay(みたび けー) @keiron

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