第九十六話:音楽祭・その二

「見事な賞状の数々ですね。これを全て、千夜川桜季さんお一人で……」


 思わずといった様子の感嘆の息を、拓二は漏らしてそう言った。


 今拓二が目にしているのは、生前桜季が手にしてきた、栄光の記録の数々。

 この千夜川家の応接間の一角、壁一面のスペースを占拠するにまで至る大きな戸棚。その中に圧倒的な賞状やトロフィーが保管されている光景は、居住まいを正してしまうような厳粛な壮観だった。


「ええ……本当にあの子は、私達とは似つかず良く出来た子で。人様に見せたら、どんな人からでも必ず褒め言葉をいただくもんだから、私も主人も段々それが当たり前みたいに聞き流すようになっちゃって」

「流石、千夜川さんですね」


 母親はその時の心境を、苦笑半分、懐かしみ半分で語る。

 あの形見で溢れたスペースは、娘の生み出してきた思い出であり、生前の桜季を頭に蘇らせられる手掛かりしこりであるのだろう。見えない区切りがそこを家の中の聖地としているかのようだった。


 それ以外に、応接間は至って普通の一軒家による内装だった。とても、あの桜季がいたところとは思えないほど平凡で、ありきたり。

 一点目を引くものといえば、拓二と桜季の母が囲むローテーブルには、パーティグッズ用の折り畳み式チェス盤が端に置かれていた。使われたような形跡はあったが、今はもう縮こまるようにそこに放置されている。


「それで、話というのは……? 相川くんは、その、娘のお友達だってことだけど……」

「はい。まあ友達というよりも……恩人、ですかね。千夜川さんには以前、とてもお世話になって」


 拓二は、まったく顔色一つ変えず、丁寧な物腰でそう受け答える。

 桜季を殺したことなど記憶の彼方に追いやったかのように、その豊かな演技力でもってして、心からの偽の気持ちを滲ませた。

 そう、本来彼はここに来られるような人間ではないはずだった。桜季の母親が、娘のみに起こった事の真相を知っているのであれば。


「……本当に、不躾なことをお聞きしますが……あれから、千夜川さんの行方というのは……」

「……まだ何も。捜索届けは出し続けてるし、希望は捨ててないわ……私達は、あの子が帰ってくるのを待ち続けるつもりよ……」


 そうは言いつつ、桜季の母親はか細い息を長々と吐いた。


「……そうですか」

「……でもね……なんだろう。もう、分かるのよ。私達はまるで似てない親子だったけど、それでも分かる……」


 そして、顔を俯かせて言った。

 ポタリと、彼女のズボンの上に点の染みが一つ、また一つと生まれる。


「……娘は、きっともう……この世にはいないんだろう、って……」


 そこからは、彼女の嗚咽は止まることなく次から次へと溢れ出てくる。


「うっ、うう……ご、ごめんなさいね、こんな……」

「…………」


 ……拓二は、何も言わない。言えるはずもなかった。


 そして長い間、その部屋には深い深い沈黙が降りた。そう、嗚咽の声こそ続いたが、それ以外の音が全て世界から消え去ったかのように。


「……近々、僕らの学校で音楽祭があるんです」


 どれだけの時間、そのままで黙っていたのだろうか。


「一般解放された文化祭の行事の一環で、まあ言ったら生徒達が面白おかしく過ごす延長の、なんの権威もない身内の行事なのですが」

「……音楽祭……?」

「はい。……その来賓として、千夜川さんのお母さんも来ませんか?」


 拓二は、そんな彼女の涙を前に、その手を差し伸べる。

 千夜川の母を慮り、優しく受け止めるため手のひらと────企て、黒く穢れた打算を隠し、見せないための手の甲。

 表と裏のあるその手を。


「僕も、舞台に上がろうと思っています。……千夜川さんのために……僕自身のために」

「貴方自身のため……?」


 その時拓二は、自分の内の魂を切り言葉に乗せたような、深刻極めた表情と、荘重で実感の籠った響きでもってこう話した。


「……目の端で、いつも千夜川さんがいるような気がするんです。こんなこと言ったら笑われそうですけど、千夜川さんの幻が、何か言いたげに僕を見ているような……」

「…………」

「もしかしたら、僕はここで何かするべきなのかもしれない。そう真剣に思ってしまう。それを、千夜川さんは教えようとしているのかも。……いつもみたいに、全部分かった占い師みたいな口ぶりで」

「ふふっ……そうね。そうかもしれない」


『占い師』という言い回しに、何か感じ入るものがあったのか、息を二回吐くような微かな笑いを震わせ、こう続けた。


「……分かりました。少しだけ、考えてみるわ。もし行くなら主人と……相談してから、ね」

「はい、お待ちしてます」

────」


 桜季の母親は、重ねて告げた。

 ────待っていた。拓二がこの家を訪れた目的、引き出したかったその一言を。


「はい……ご協力ありがとうございます。よろしく、お願いします」


 祈の憂慮は杞憂などではなく、拓二は既に動き始めていた。


「……必ず、『勝ち』ますので────……」


 それは、練習を重ねる夕平達と同時期、音楽祭前から、己の『勝ち』に向けてひたすらに。



◆◆◆



 体育館の外では、ついに本降りになった雨が垂れ打っている。

 文化祭の屋外屋台は、今日は中止となってしまった。もちろん購買部の利用は可能だが、文化祭の華とも言える飲食店は、校舎内の数少ないクラス展示のものに限られる。


 文化祭二日目は、強い雨足によってほとんど音楽祭に取って代わってしまっていた。


 が、その勢いに負けずとばかりに、舞台では寸劇が行われていた。

 いや、前・後編それぞれ十五分を経た演劇部の演目はほぼ終わりを迎えようとしているのか、男装した女子のハムレットの遺体は高々とかかげられ、弔砲が威勢よく鳴り響いている。盛り上がりはまさに最高潮に達し、壮大な締めとその幕が下された。


 選んだ演目は名作中の名作、脚本も流石に演劇に属する部員によってよく考えられたものであり、その演者達の意気込みは演技の節々から感じられる見事な三十分である。この午前の部の中でも、質の高い大作であった。


 ただしその熱が、見ている者に全て伝わるとは限らない。

 すべてが終わり、舞台を覆った後の暗幕は、この雨宿りの人数分を満たす拍手では迎え入れられなかった言える。それはひとえに、学生のお祭りという場に雰囲気がそぐわなかったためだ。

 もちろん生み出した表現が素晴らしいことは、一つの美点となり、評価されるべき点であろう。もしかすれば、彼らの演技も歓待の意を示されたかもしれない。


 だが、評価というものは兎角、観客のニーズに合わせたものでなくてはならない。自分達の関心が、皆の関心であるとは限らないのだ。

 誰かが悪いというわけではなく、まして素人の、祭りを見に楽しみに来た者達には小難しい内容は今いち反応が薄くてしかるべき。ただそれだけのことだ。


 努力を続け、練度を高めた演劇部にとっては苦い結果と言えるだろう。もちろん、それが無駄な失敗であったかといえば、間違いなくそうではなかったが。


「うっわあ……凄い人だねぇ……」


 そんな様子を舞台の裏、出場前の控えの空間で見て思わず戦々恐々と呟いたのは、暁だった。

 もちろんこの次が彼女の番、というわけではなく、演奏するバンドの楽器をここまで運び入れるために前もってここに立ち入ったのである。


「ああ……んで、あれじゃかえって反応まるわかりで嫌だよなあ。ウケなかったらキッツイな……」


 舞台はスポットライトで熱く、そして眩しい。暗がりにいる観客の人それぞれの顔なんて見えはしない。

 しかしそれでもお互いの熱気の差、発信者とそれを受ける大多数の距離は、よく伝わってくる。それは本当に不思議で、人間味あふれるコミュニケーション方法だと、こういう場に立つと夕平は常々思う。


 お互いに独りよがりでは駄目なのだ。自分達と観客が共感しノらなければ、良いものは生まれない。自分達の利点、見て欲しいことを皆に伝えなければいけない。


 言葉と言葉を交わさない一瞬一瞬、ムードがかみ合わさるという感覚を、夕平はライブに行ったり音響関係の日雇いに誘ってもらったりした経験もあって、その機会の中で何度か感じたことはある。

 確かに貴重な経験だったが……それを自分で生み出そうとする立場に立ったことはこれまで一度もなかった。その一体感を作り上げることができるのか、理想で終わる絵空事のようなことと終わってしまうのか、それは分からない。

 

 しかし今日は、そう泣き言ばかり言ってられない。

 やらなければいけないのだ。伝えたいことがあるという使命感が、背中を押す。そしてそれこそが、自分達をここまでやって来させたのだから。


「────おお、やってるな。思ったより人も多いし」

「へっ……?」


 その時ふと、聞き覚えのある声が夕平の耳元に降りてきた。

 そう錯覚してしまう程に、『彼』の出現は唐突だった。


「なっ────!?」

「相川くん!?」


 それはまさに神出鬼没。そこに居たというのに、そのことに本当に感覚が及ばなかった。

 それは暁も同じのようで、今ようやく気付いたと声を上げる。


「幾つか無効票があったとしても、これなら勝負は分からないかもしれないな」

「た、たたた拓二ィ! お前っ、昨日今日と何処ほっつき歩いてたんだよ!」

「はは」

「『はは』じゃねぇー!! ご丁寧に学校まで休んでさ、クラスの奴らも困ってたんだからな!」

「大事な用があってな。これからもちょっとやることがある。まあそう言っても、俺が出し物やるための準備なんだが」


 拓二の言葉に、はっと思い出したかのように夕平がその語気を緩めた。そして、眉を持ち上げ、静かな口調で尋ねる。


「準備、か……お前も、ちゃんと何か今日に向けてやってるんだな? 今まで練習してる様子なんてまともに見なかったし」

「要らない心配だな。……それとも今の、俺が何するかをちょっとでも探ろうとか思って言ったか?」


 一瞬で見抜かれている、という驚きと動揺を、夕平は何とか堪えようと視線を拓二の顔から少しだけ逸らした。それが逆効果だろうと思わなくもないが、根が正直な彼にはそれが精一杯だった。


「というか、お前の方こそ準備は出来たか? プログラムだと、四時くらい……あと三時間後には決着が着いてるんだからな。そう思うと……俺は楽しみだ」


 対し拓二はそんな意図を気にも留めない様子で笑みを返し、楽しみだと、本当に楽しそうに話した。


「……お前ってさ、結果とか勝ち負けとか、そういうのに怖いって思わないのか?」

「正直言うと、ちっとも」


 答えの不可解さに、眉をひそめる夕平。

 それをなお愉快だと笑うように、拓二の口は饒舌に回り出した。


「俺はな、勝つためなら何だってやってる。負けないために俺が出せる全力を出して、負けられないように自分を締め上げるような条件も喜んで足してる。どうしてか分かるか? 事を為すために繰り返した経験があるからさ」

「…………」

「今の俺がそれ以上出来ないことに、何を怖がる必要があるんだ? あとは勝とうが負けようが、全ては結果でしかない」


 視線の向きを変えた先には、先ほど芝居を終わらせた演劇部の面々がぞろぞろと揃って舞台から降りてきていた。舞台という彼らのホーム故の手際のいい退場であるが、その顔は暗い。

 思った以上の反響に及ばなかったことは、彼らも理解していたのだった。失敗を体験し、泣きそうな生徒もいる。


 そんな彼らの面持ちをしかと見届けるように、緩やかな目の動きでそれを追いながら、


「……あの芝居やってた演劇部の奴らだって同じだ。自分達のやれることをやったなら、もうあいつらは負け惜しみの理由なんて見つけちゃいけない。それまでの幸不幸はあろうが、与えられた場に居るのは『自分』なんだよ。実力不足、運の悪さ……結局は全部自分の非力だと立ち返るべきだ。そして今度は何もかもねじ伏せる力をつけるべきだ。俺は、ずっとそれを繰り返してきた」


 ────そして、現に『成功』した。

 最後に拓二が言わなかったその先の言葉が、夕平にはまるで本当に耳から聞いたかのようにハッキリと感じ取れた。


 拓二の言う事は、恐らく聞かされた全員が全員理解し得ないであろう極論、理想論ではある。

 ただしそれは、地に足着いた、彼自身の経験則という楔によって根拠付けられた理想論なのだ。


 それを堂々と言い切れることこそが、拓二の強さ。桜季を相手にし、言い訳も負け惜しみさえも許されない状況に立ち向かった、彼の孤高の力そのものだ。

 人と共にあることと、自分以外を省みないこと。お互いに、お互いの半生で得た経験が、見事に正極の結論を導き出すとはなんたる皮肉か。


 奇縁にもそれは先程、夕平が考えていたこととコインの裏表のように真反対で、兄弟のようにどこか似通っている────。


「……まあもし俺が負けるようなことがあったら、それこそ死ぬほど悔しがるんだろうけどな」

「拓二……」


 拓二は、ひらりと身を翻した。そろそろ、彼自身が言っていた『準備』に取り掛かるのか?

 そう夕平が考えた時、ふっとその足を止めて軽く振り返った。


「っ……!!」


 それまで辛抱強く横やりを入れずに二人を見守っていた暁も、これには酷く驚いて声を絞り上げた。


「き、消えるって……ずっとって、そんな……!」

「今度は数ヶ月程度じゃない。日本からも出て行くことになるから……もうずっと、さよならだ」


 演技か、それとも素か。

 どちらにせよ言えるのは、拓二が訪れるかもしれない友人二人との別れを名残惜しんでいるようには思えなかったこと。

 それはある種、祈と決別した時と一貫している。決めたことを変えないという意志が、ありありと現れていた。


「拓二」


 それを聞いて、夕平はショックを感じなかった。もちろん、拓二を毛嫌いしているという意味では無く。

 そんな宣言が無くとも、この勝負、もし負けたら拓二は自分達の元から永遠に離れていく……前から、そんな予感が薄々としていたのだ。


「俺達、ぜってー負けねーからな」

「……ああ」


 そして、暁にあてられた手紙……その件について、拓二への疑心は結局今の今まで消えることはなかった。

 話を聞いているうちに、もしかしたら冗談半分でもこちらのコンディションを乱す一手段としてやりかねないのでは、とかえってその感情がぶり返した。


 しかし────だから、負けられない。


『あの日』追いつけなかったその背中を、今度こそ引っ掴んでこちらに向かせてやるために。

 たった十分相当の時間に、こちらが出来る全てを出し尽くすのだ。


 ────今日という日の結末は、刻一刻と迫っていた。



◆◆◆



『ねえエレン、あいつの出し物ってまだ?』

『うーんと、ちょっと待ってー』


 体育館の、一般客席とも言える場所から少し離れた来賓席寄りの特別席。

 そこでは、二人の姉妹────メリー、エレンが準備を兼ねた小休憩の暗幕が揺れる壇上を尻目に話している。

 

『あんま、あいつ以外の行事見る気しないのよねー……車椅子ってのもそうだけど、あたしら相当目立ってるから居心地悪いっていうか……あーいや、一番はエレンが可愛すぎるせいか』

『もうお姉様ったら、お上手ね♪』

『いや、お世辞とかじゃ無くマジだから困りもんなんだけど……』


 日本を知らない彼女ら(特にメリー)は、音楽祭と聞いていた割の堅苦しさ、こんな特別広くもないジムに閉じ込められて、お行儀良く眺めていることへの戸惑いがあった。

 外国人の、それも身障者というだけで一般人からと大きく優遇されているということは、カタコトの日本語とジェスチャーしか出来ないメリーでも分かった。何か言う前に、手厚く保護され、あれよあれよとここに連れてこられたのだ。


『あいつ、ちゃんと上手く出来たかなぁ。はあー……何だか今、イギリスが恋しいわー。これってホームシック? ねえエレン、こういうのってどうしたら……』

『メリー、さん?』


 それは、英語だった。

 誰も、拓二以外は話してもくれなかった母国の言葉。エレンがいなければ、初めての海外滞留は困り果てたものになっていたに違いない。


 もはやこの長旅に飽き飽きしつつあったメリーは、ある意味で聞き慣れてきた────というより、日本語なんてどれも同じにしか聞こえないと自身の覚えの悪さにうんざりしながら匙を投げつつあった────日本語では無く、たどたどしくも確かな母国を感じさせる英語に出会えた瞬間、心持ち機敏な動きで声の方向を向いた。


 声の主は、自分と同じ英国人ではなかった。一目で、日本人の少女であると分かった。長めの黒髪を、二つの束で括っている。歳は、背格好からしてエレンより二、三歳上だろうか。何を言われても変化を見せなさそうな静かな目が特徴的だった。


 同郷の人物ではなくて少しガッカリしたような気分の後────ふと、気付いたことをそのまま口に出した。


『うん? ……なにアンタ、何であたしの名前……』

『私です、祈ですよメリーさん』

『えっ……あ、ああ! 電話のイノリ!? ウソ、本物なの!?』

『はい、お会い出来て嬉しいです』


 メリーは、すぐに気分を取り直す。

 声だけでも知っている人物がいたこと、そして『偶然』にも電話友達である『イノリ』に会えた驚きに、現金なテンションはだだ上がりだった。


『ちょっ、ちょっとこっち来なさいよ! ホラ、いいからいいから!』


 遠慮がちに固辞しようとするも虚しく、メリーの強引さに呑まれ、たやすく祈は借りてきた猫のようにメリーの横に収まることとなった。


『あ、ええと、初めまして。貴女が話の妹さんですね。リュウゲツ・イノリと申します』

『……アナタ、ちょっと変わってるね。お兄様と、ちょっと似て……うーん、やっぱり少しだけ違う感じ』

『「お兄様」……そう、ですか』

『ねえ! イノリは何でここいんの? ここアンタの学校じゃなかったでしょ?』

『知り合いが、ここでパフォーマンスするということでしたので、恥ずかしながらお邪魔させていただきました』


 するとメリーは手をパンと叩き、オーバーなアクションで喜びの表現を見せた。唾でも飛ばすような勢いで口を動かす。


『ワア偶然! あたしもね、わざわざ知り合いの応援よ、頼まれて、仕方なくね! ねね、アンタの知り合いってさ、もしかしてタクジ?』

『拓二さんもそうなのですが……それともう一つ、私のお友達がチームで出場してまして。その二つを拝見しに今日は来ました』

『えっ、そうなの? それって何時?』

『もう、間も無くですよ。────ほら、今ちょうど』


 祈が指し示した方では、閉じた暗幕に光色が灯され、色取り取りに眩く輝いた。


『さあ、大変お待たせしました! 午後の部になっても錚々たるメンツがそろい踏み! 層は分厚い音楽祭は、まだまだこれからですよー』


 盛り上げようと懸命にマイクを握る司会が、午前に引き続いて元気に進行を進めていた。


 そんな中、祈は人知れず、ぐっと手を握りしめる。

 固唾を呑み、その一瞬息を止めた。


 互いを総じても二十分に満たない時間に、この一ヶ月……いや、もしかして『四月一日』を迎えた日から始まった、あまりにも多くの因縁・思惑が再度絡んでいる。


 泣いても笑っても後戻りの出来ない大勝負が、ついに始まろうとしていた。



『お次は、なんとメンバー全員一年生! 超! 本格的ロックバンド、「ジャカラン団」の皆さんです!! どうぞ、盛大な拍手でお迎えください!!』



 まずは夕平達の番。


 彼らが掲げるバンド名が、今、この表舞台に燦然と立ち上がった。


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