鬼斬忍者スバル

かつらぎ鶏次

プロローグ 災いの種

深夜2時、東京。

 酒の臭いを帯びた白い吐息をまき散らしながら、ひとりの男が帰路についていた。

 深夜まで酒をあおって、酔っ払いながら家路につく。それは、彼にとって、決して愉快なものではなかった。

「くそがッ! なんで誰も俺の才能を認めないんだよ!」

男は虚空に向かって怒鳴りつけた。しかし、誰もいない場所に怒りをぶつけても、応える者はいない。そのはずだった。

(なにか嫌なことでもあったのかい?)

 ふと、声が聞こえた。

 突然の返答に驚いた男は、周囲を見回す。しかし、視界の範囲には誰もいない。

 男はおもわず息を飲んだ。目に映る場所のどこにも気配がないということは、残されているのは、自身の背後しかないのだから。

 鬼が出るか、蛇が出るか――。意を決して男は後ろを向いた。

「……なんだよ、気のせいか」

 男の背後には夜の闇が広がっているだけだった。

「やれやれ、飲みすぎたかな」

 ホッとした男は、ポリポリと後頭部をかきながら自嘲する。

「それは間違いないね」

「なっ!?」

 男が声のほうを向くと、目の前には狐のような目をした男が立っていた。先ほどまで、人っ子一人いなかったはずなのに。

――やばい。こいつは人間じゃない。

 男は目の前に立っているナニカの明らかな危険性を感じとっていた。

だが、恐怖に捕らわれて一歩も動くことができない。

「さぁ、聞かせてよ。君のおはなしを」

 狐目の男はニイッと笑った。




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