第1話 コクチョウ

「お腹空いたんだけど」

常夜は本が好きだ。

特に漫画。

俺も嫌いじゃないから否定する気はないが、学校帰りに本屋やコンビニによって立ち読むのも分かるが、1冊に数時間かけるのは本当にやめて欲しい。

特にコンビニだ、何もすることがない。

そう思いつつ、自分の読んでた雑誌を棚に戻し適当に飲み物を選んでいた。

「えー、もう帰るの?」

「買えばいいだろ」

「500円分ゲーセンで使いたい〜」

しらんがな。

常夜はすぐ、えー、など言うが言いながらも、帰るときに買っていく飲み物を見ている。

「ねぇねぇ、翠琴。やっぱり漫画買うわー、これ最終巻らしいし」

常夜が持っていたのはビニールでかこわれている立ち読みできないようにな二重っている単行本だった。

「ふーん、買えば?」

「お金無いから、飲み物奢って♡」

「………後で漫画読ませろよ」

どちらかを諦めろと言いたいのは山々だが、そうしたら漫画をえらぶのは目に見えてるいるし、常夜には水分が必要である。

常に長袖でフードや帽子を深く被せマスクもしてる。これは本人の意思ではないが、サングラスやメガネは最重要なものだ。

夏はその格好なためすぐ倒れる。

冬でも、自転車をこぐため、急いでなくても厚着な上マスクでは汗をかく。

俺としてはこれはこれで目立つため特になにも思っていないが、常夜は格好ではなく、元々の生まれつきな外見で哀れみの目を浴びせられるのが嫌なのだという。

「ポイントカード忘れた」

「ん」

「ん」

袋の中から、炭酸とマンガをだし常夜の自転車の籠に入れ、自分の自転車を動かす。

そして、常夜を気にせずに自転車に乗る。

「なぁなぁ、琴代〜」

こいつは本当に無視してても喋る。

「この買った漫画のネタバレこの前見ちゃったんだけど」

「主人公が死ぬんだろ?」

「なんで知ってるの」

そして、双子ということを忘れてる。

片方が気になることは、片方も検索するに決まってるだろ。

並んでこいでいる自転車はいつもどうりで特別なことを思い用がない。

「明日雨だって、バス?」

「徒歩」

「やっぱり、翠琴はそうだと思ったよ」

嬉しそうに笑っているのであろう常夜は、たまに兄弟として自慢したくなるものである。


次の日は常夜の言ったとおり雨だった。

少し早く家を出たいとは思っているが、重い頭。何か食べようと思っても受け付けない胃。メガネをかけてもぼやける視界。視力は悪いという程ではないためあまりつけないが、朝は本当に何も見えない。

常夜に引きずられるようにして、起き。

常世に引きずられつつ、着替え。

常世に引きずられて、家を出た。

「ほら、行くぞ翠琴。いってきます!」

「………いってきまーす」

「はーいっ」

眠さとだるさで曲がった腰と階段的な低さ、それから常夜がドアを開いた状態でドアに片手を置いて靴の踵を直していたという、ほぼ偶然。

俺は常夜を見たはずだったのだが、目に写ったのは母さんだった。

母さんは常夜を見ていた。俺に対し何も思っていないように。そこまではよかった。

常夜が靴がはけたようでドアを閉める。

勢いでしめているようで、中は見ていない。

一瞬。ほんの一瞬。

母さんはとても俺を見下した……いや、冷たい目………違う、哀れみと優しさと冷たさのような物が入り混じった目で俺を見ていた。

初めて思った。常夜はいつもこんな感じなのかなと。

怖かった。そして異様たる優しい目だった。それが心の底から怖かった。

俺は常夜が注目される分、自分は脇だった。小学1年生の頃、常夜を苛めたやつらをぶん殴った、蹴った、砂をかけた、1対複数だったが気にしなかった。そして先生に止められたがそんな事が何度もあった。人は皆、第一は常夜で自分は心配されないわけでは無かった。むしろ普通だったのだろうが異様に常夜が大事にされてた。

だが、俺は逆に常夜さえ守ればあとは放置されているということで楽をしていた。

それに、常夜と俺はどちらかが甘えてどちらかが塩対応する。

お互いがわかりあえている分、常夜のことも嫌いではないし、なにも苦痛に感じたことはない。そして、常夜を哀れんだことは無い。常夜が俺をたまに哀れむからだ、自分が優先されて俺が放置されていることに対して。

だから常夜は、普通が良かったというより俺もアルビノだったらと思っているようで、逆にいえばその状態が居心地が良い訳では無いだろうが、不満は無いのだろう。俺は、放置が居心地がいいのだ。

だからこそ、初めてだった。常夜と一緒だったらという哀れみじゃない。

もっと凄いものだった。同情もあったが、いなくても良いというものでもあり、哀れみよりも情けないものを見ているのに近かった。

怖かった。

「………と……みこ…み…とー?おーい、みことっ!!」

「あっ!ああ………何だ?」

「何でもねぇよ?でも翠琴下しか見てないから、なんか落としたのか?」

雨のため珍しく外で髪も肌も見えるニット帽にメガネだった。

その顔は本当に色以外は俺にソックリで目は左目だけ綺麗な二重で、右目は線が多くて二重ではなく、三重になっている、少し伸びた髪。髪が伸びるはやさも同じなのか。

「言ってるそばから、ぼーってすんなよ」

「………ごめん」

「あやまるなよ、らしくないなぁー」

「ごめん」

「わざとか?」


くだらない話をした。

昨日買った漫画のオチがネタバレと同じ過ぎて萎えたとか、晩飯の話。少し真面目に常夜の視力の話もした。

いつも通りすぎて、何も思わなかった。

「おはよ~、ダイちゃん♡」

話しかけてきたのは佐藤だった。

佐藤は異様に常夜に優しい。

正しくいえば、常夜にのみ優しい。

そして、俺らの苗字の、ウテナをダイと言うのも常夜からの反応が欲しくて言った言葉で、俺からの返答は求めていないのだというのも明らかだった。

目が合わないのだから。

「ダイじゃなくて、ウテナだっ!!」

「そんな事言わないでよ〜ダイちゃ〜ん」

「…………………」

そして、その後少し喋ると、俺を一瞬見て喋る人の元へ佐藤はいく。

いつも通りだ。

だが、この日は、一瞬見られた時、その目が母と同じものなのだと初めてきずいた。

今までは、見られるだけだったのが、同情が混じっているのではと思った瞬間別のものに見えた。


その日は学校にいる間ずっとだった。

むしろ、常夜以外の目が恐ろしくて恐ろしくて、常夜以外の人を見ることが出来なかった。

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