第三章 ~『ダンジョンの資産価値』~


 公爵の城を後にした山田たちは荷馬車に乗り、とある場所へと向かっていた。牧歌的な空気に包まれた田舎の風景を横目に、荷馬車は山道を進む。


「旦那様、我々はどこへ向かっているのですか?」

「もちろんダンジョンだ」


 山田は公爵から受け取った売却予定のダンジョンリストをイリスに示す。


「これから俺たちは資産の実地調査を行う」


 銀行では担保にした不動産が本当に書面上通りの価値があるかを確認するために実地調査を行うことが多い。騒音が五月蠅いや、近くで異臭がするなど、書類上で見えない資産への影響要因が現場に行くことで分かることもあるからだ。


「ですがすべてのダンジョンを調べることは難しいのでは?」

「だから工夫をする。これを見てくれ」


 山田はリストに記載されたダンジョンに〇×マークを付けていた。その法則性をイリスは注意深く観察する。


「利用者が多く、入場料が安いダンジョンには〇が付いていますね」

「なぜ利用者が多く、入場料が安いか分かるか?」

「それは……ダンジョンの攻略状態ですね」


 ダンジョンにはボスが討伐された攻略済みダンジョンと、まだボスが健在な未攻略ダンジョンが存在する。前者は安全に利用できるため広く大勢の冒険者に利用される。一方、後者のダンジョンはボスという強大な敵がいるため、危険度は高いが、ボスを倒した時にドロップするアイテムはレアであることが多いため、高名な冒険者が挑み、そして入場料も高く設定できる。


「ダンジョンは攻略済みと未攻略で資産価値が大きく異なる。後者の中でも難易度の高いダンジョンは、ボスがドロップするアイテムも豪華になるため、攻略済みかどうかだけで資産価値が十倍近く変動する」

「なるほど。ならもし公爵が私たちを騙す意図があるなら――」

「難易度の高いダンジョンを未攻略だと騙して売りつけるだろうな」


 そのために山田はリストの中でも最高難易度のダンジョンへと向かっていた。もし騙す気がないのなら、ボスは健在であるはずだ。


「見えてきたぞ」


 ダンジョンは地下に生成されるため、地上には受付のコテージがポツンと設置されているだけの殺風景な場所だ。


 山田とイリスは受付の女性に二人分の入場料を払うと、地下へと続くダンジョンへと潜る。楽しい二人の冒険が始まったのである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る