魔法少女見習いは、力を求めました

@sakurabunchoo

プロローグ


カエルと鈴虫が、合唱をしている。

空気はどこか冷たく、暗がりから見える空には星が輝いていた。

そんな道を一人、/綿貫空わたぬきそらは歩いていた。



「うぅ……夜は怖いな……幽霊とか出ないでね。僕、そうゆうの苦手なんだから……」



少女のように可憐なその少年の言葉に反応するように彼の後ろで、物音が聞こえる。

振り返るとそこには、人程の大きいペンギンが立っていた。閉じているはずの口からは、だらだら、と唾液が溢れ出しており。空へと視線を送っている。それは、餌を見つけた獲物の目だ。



「な、なに……?」



ゆっくりとペンギンから距離を取ろうとすると、彼が逃げようとするのが分かったのだろう。ペンギンからは想像出来ない速度で、彼を追いかけ始めた。



「な、なんで!?お、追いかけてくるのぉぉ!!」



アスファルトで舗装された道路にペンギンの足跡を強く残し、 ペンギンは彼を追い詰めていく。もしかしたら、大型のペンギンに追いかけられるのは彼が人類初かもしれない。

ペンギンは、遂に彼を行き止まりの場所まで追い詰めてしまい。空は、恐怖で涙ぐみ。腰を抜かしたように地面へと座り込んでしまった。

追い詰めたことを確信したペンギンは、更に唾液を地面へと溢れさせてゆっくりと近づいていく。

空は、今日が自分の命日なんだと思い、抵抗することもなく目を閉じた。



「ぺったん、ぺったんにしてあげましょうか」



突如として聞こえた声は、空からだった。

月が輝き、幻想的な光景に空が目を奪われていると大きな月の中に、小さな点が見える。

その点は、徐々に大きくなり、ウサ耳を着けた一人の少女なのだと分かった。

空とペンギンの間に立った少女は、身の丈と合ってない大きな/木槌

きづち

を持っていた。



「大丈夫ですよ~、私が来たからにはこの何でもぺったんこにしてあげますから」



空へと笑みを浮かべてくる少女の顔を見て、思わず彼の顔が赤く染まった。



「さぁ、ぺったんぺったんしますから。さっさとかかってきてもらっていいですか?」

「キビェェェェェェェエ!!」



彼女の挑発に怒ったように、ペンギンは短い手を槍のように鋭くさせ、彼女を襲う。

その一撃を彼女は、高く飛び跳ねてかわすと木槌を振り上げた。

回転しながら、降り下ろされた木槌はペンギンをまるで餅をつくように叩いていく。


「はい、ぺったん。ぺったん」



彼女の可愛らしい声とは裏腹に、ペンギンを叩く音はとてもリアルであり。青色の液体が、周囲へと飛び散っていく。



「アハハハハ!! アハハハハ!!」



彼女の高笑いと相まって、猟奇的なその光景に安らぎを取り戻していた空は恐怖を感じていく。

ドゴン、ドゴン、と叩かれ小さく丸まっていくペンギンは姿形をぼた餅へと変えてしまい、彼女は叩くのを止めた。



「はい、ぺったんこ」



満足したように、彼女は笑顔を浮かべて。ぼた餅へとなったペンギンに手を伸ばして彼女は大きく口を開けた。



「いただきまーす」

「えっ!? た、食べちゃうんですか!?」

「うぅ……何ですか? 女の子だって大きな口を開けて頬張りたい時だってあるんですよ?」



彼女は、空へと近寄ると彼の顔の側に手を付いた。だが勢いがつきつすぎたのか、後ろの壁に亀裂を入れている。



「んん~……」

「な、何? ぼ、僕何か」



ふむ、と彼女は何かを納得したように手を叩くと一言告げた。



「貴方、魔法少女になりましょう。あっ、見習いですけどね」



笑顔で彼女は、空へと告げた。

この言葉が、彼の人生を変えていってしまう。

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