第21話:スキャンダル発覚!(Hollywood)

 幸せを感じる瞬間というのは、日常においていくつもある。

 仕事の契約が良い条件でまとまったときや、ベッドで恋人の柔らかな髪を撫でているとき。好きな音楽をかけて、パスタを茹でている時間も最高だ。

 このように、『自分は幸せだ』と感じることはよくあるが、『自分は幸せ者だ』と認識することは、日々多くあるものではない。

「この幸せ者め」という言葉は、嫉妬まじりに他人から与えられる賞賛で、今のおれはその嫉妬を受けるに値する立場にある。

『自分は幸せ者である』それは例えば、テッド・ディランの家で、テッド・ディラン本人と談笑している瞬間に感じるものだ。



 マンハッタンからハドソン川に沿い、車で二時間半ばかり北上すると、緑なす山々や、きらめく湖に辿り着く。『鹿、飛び出し注意!』の標識が確認できたら、そこはもうニューヨーク州の別荘地。自然豊かなこのリゾートは、多くの富裕層が別荘を構えている。誰もが名を知るハリウッド俳優、テッド・ディランもその富裕層のひとりだ。

 彼の別宅は二百年ほど前に建てられたとのことで、外観はゴシック風。門からは建物は見えず、インターフォンは暗証番号つき。柵を無理に乗りこえようものなら、機関銃が一斉に火を吹くことだろう(最後の部分は若干、誇張した)。

 なぜおれが彼の別宅について知っているかというと、話は一週間前、いや、厳密にはひと月前に遡る。

 テッド・ディランと最初に会ったのは、ある画家の没後百年を記念するパーティでのことだ。テッドはそこにゲストとして招かれていて、おれは上司のお伴でそこにいた。絵画を収集している芸能人は珍しくなく、テッドは特に有名なコレクター。彼が興味を示した画家は、その売り上げを80パーセントも伸ばすといわれていて、絵を買ってほしいと思っているのは、当然うちの会社だけではないわけだが、今回ばかりは我がユニバーサル・アート社が優位に立った。テッドはおれの名刺を受け取った五分後、「この絵の原画があれば、ぜひ買いたい」と言ったのだ。おれに。

 それがひと月前のこと。一週間前には、テッド本人から、会社に電話がかかってきた。

「……と、いうわけで、あなた、テッドの別荘に納品の確認に行って頂戴」

 上司のシーラにそう命じられたとき、おれは思わず「はい?」と聞き返していた。彼女が“聞き返されることが大嫌い”だということも忘れて。

「わたしの話を聞いてなかったの?」

 案の定、睨まれた。おれは慌て、「あ、いえ、聞いていました」と背筋を正す。「でも、なぜおれなんですか?」

 それは当然の疑問だ。テッドのような大物客には、シーラ、もしくは部長クラスの人間が対応すべきで、おれのような、いち社員が赴くべきではないと思うのだが。

 シーラは「さあ、どうしてかしら」と言った。この返答、いつも明確な彼女には不似合いだ。「本来ならもっとしかるべき人に行ってもらうところだけど……」と、“しかるべき人じゃない”、おれを見る。「テッド本人があなたを指名してるの。理由はテッドに聞いてちょうだい」

 上司との話はここで終了。あとは自分でテッドと連絡を取り、おれを指名した理由についても、彼本人に聞くこととなる。

 この仕事をしていると、著名人と会うことはそう珍しいことではない。アルバムジャケットの制作を依頼したいと思っているミュージシャンや、自画像を描いてもらいたいというスポーツ選手。画家のファンだという政治家に売買を仲介することもある。仕事柄、そういうことはこれまでに何度もあった。だが今回ばかりはいつもと違う。おれが会うのはテッド・ディランで、それは誰もが羨む出来事。飲み屋で自慢するのに、もってこいのネタだ。

 アメリカ東部屈指の高級避暑地で、玄関に出迎えてくれたのは、ハウスメイドではなく、テッド本人。彼は「やあ」と微笑み、「遠いところをどうも」と礼を述べた。ゆったりしたスラックスに、白いシャツ。濃いブロンドの髪は、少し無造作に仕上げてあり、“普段のセレブ”を感じさせる。

「絵は午前中に届いたよ。壁に穴を開けるのに、特殊なドリルが必要だから、まだ飾ってない。とりあえず梱包は解いてもらったけど」

 言うまでもないが、テッドが話しかけているのは、おれだ。おれはテッドと二人きりで、テッドのテリトリーにいる。高校の時の同級生、エイミーは彼の熱烈なファンだった。今のおれの立場を知ったら、くやしさに地団駄を踏むことだろう。

 テッドの別宅はホーンテッド・マンションさながらの外観だが、内部はモダンに改装されていて、ヨーロッパ風ではあるが現代的だった。回廊からは、この家が建てられた当時にはなかったであろうプールが、よく見渡すことができる。

 目を細め、輝く水面を眺めていると、不意にテッドが「泳ぎたい?」と聞いてきた。「昨日、水を張ったばかりだよ。泳ぐには最高の天気だ。もしよかったら」

 今日は夏日だ。汗ばんだシャツを脱ぎ捨て、きらめくプールに身を躍らせるのは、確かに気持ちが良さそうだが、ここで「いいですね」などと返すわけにはいかない。

「いや、それは……」と苦笑すると、テッドは「水着を貸すよ」と言う。こういうのは芸能人の間で普通の会話なんだろうか。これがジョークなら、あまりピンとこないなと思っていると、彼は今一度「泳ぎたくない?」と聞く。

「なんだったら裸で泳いでもいい。こっちは気にしないよ」

 おれは気にする。納品先のプールで裸で泳いだりしたら、シーラに殺されかねない。それにしてもテッドは本気で言っているのだろうか。冗談を真に受けるのはかなり野暮だが、ここはちゃんと断わっておこう。

「魅力的な提案ですけど、今日のところはスイミングはやめておきます」

 120パーセントの営業スマイルを振りまき、「納品した絵を確認させて頂いても構いませんか?」と、話を仕事に持っていく。テッドは思い出したように、「ああ、絵ね」と言い、「それなら寝室だ」と、200パーセントのセレブリティ・スマイルで応じた。

 負けた。いや、初めから勝負にならない。テッドはこの十年ばかり、ハリウッドの人気ランキングトップ10にランクインしてる。この男のスマイルを越えるには、あと十回、いや、三十回ほど、生まれ変わらなくてはならないだろう。

 蜜蝋のロウソクが立てられたシャンデリアを横目で見、『ほんとにこれに火をつけたりするのかな?』などと考えていると、テッドはまた出し抜けに、「ベートーヴェン・フリーズを知ってる?」と聞いてきた。

「ええ、クリムトの大作ですよね」

「そう、ぼくはあれをウィーンで観た。衝撃だったよ。帰ってすぐ、あれとまったく同じ部屋を作らせたんだ。絵を集めるようになったのは、それがきっかけ。絵を描くようになったのも、同じくね」

 テッドは絵画を所有するだけでなく、自分でも描く。その情報は既に入済みだ(ソースはウィキペディア)。

「ベートーヴェン・フリーズの部屋はここにあるんだ。この家の地下にね」

 テッドは“地下”と発音するときに、くいっと眉を上げてみせた。“地下”が特別なワードであることは、本物のベートーヴェン・フリーズを知る者であれば、すぐにわかる。その作品が、ウィーンの分離派館の“地下”にあるのを、おれも一度だけ見たことがある。

 テッドは階段を降り、「こっちだ」と手招きする。彼が案内する先にあるのは、うちが納品した絵ではないだろう。商品を確認するのは、ずいぶん後回しになりそうだ。

 ヴェートーヴェン・フリーズはクリムトの代表的な作品。高さは二メートル、全長は三十メートル以上という、巨大な壁画だ。それは部屋をぐるりと取り囲むように飾られていて、壁の上部に据え付けられているため、鑑賞するには見上げなきゃならない。レプリカは様々な国を回っているが、本物は決して分離派館の壁から離れることはない。

「どうぞ、入って」

 テッドが扉を開くと、そこはウィーンだった。高い天井、簡素な部屋。そしてヴェートーヴェン・フリーズ。分離派館で見たのと、まったく同じ情景が再現されている。

「すごいですね」

 心から溜め息がもれた。本当にこれはすごいのひと言に尽きる。本当の金持ちっていうのは、こういう金の使い方をするのか。覚えておこう。

 ヴェートーヴェン・フリーズの下には、いくつかの絵画が飾られている。これは分離派館にはなかったものだ。近寄ってみると、様々な作家の作品で、年代も傾向もバラバラ。テッドはおれの背後から、「本来なら絵によって湿度を変えるべきなんだろうね?」と言った。「でもそうすると油彩の部屋とか、テンペラ画の部屋とか、いちいち必要になってくる。今のところはこれが限界さ」

 “これが限界”とは言うが、テッドの限界点はかなりパーフェクトに近い。温度と湿度を、絵画にとってほどよいレベルに保っているであろうことは、湿度計と温度計の数値を見るまでもない。空気は循環していて、地下にあってもクリーンだ。そもそも本物のヴェートーヴェンフリーズも、ここまでの管理はされていない。うちの絵画保管庫を見たら、彼はなんと思うだろうか。こんなにずさんに商品を扱うところからは、何も買いたくないと言いだすかもしれない。

 おれはぐるりと絵画を見回し、「あなたの絵はどれですか?」と聞いた。

「ぼくの絵?」

「ええ、テッド・ディラン作の。あなたは画家だとお聞きしましたが?」

「画家だなんてとんでもない」テッドは手を顔の横で振った。「たまに趣味で描く程度さ。この部屋で“自分は画家である”なんて言ったら、先達の霊に取り殺されるね」

「そうなんですか? ご自分の作品を販売したりは?」

「ぼくの絵など売れないよ」

「そんなことはないでしょう」

「そういうのは嫌なんだ。作品が売れたところで、それはぼくの絵のことじゃない。“俳優テッド・ディランが描いた絵”だから売れたんだ。そんなのみじめさ」そう言って、軽く肩をすくめる。

 趣味で描いた絵を、販売ルートに乗せたがる芸能人はやたら多いが、テッドは分をわきまえている。意外にも彼は地に足がついているようだ。

「万がいち、気が変わったら、ウチの会社と契約してください」

「ああ、そうするよ。万がいち、俳優で食えなくなったら、きみを頼らせてもらう」

「そんなことがないことを祈ります。納品した品を確認してもいいですか?」

「ああ、こっちだ」

 絵は彼の寝室にあった。寝室と言っても、一般的にイメージするそれとは異なる。どう違うかと言うと、まずとても広い。寝ようと思って部屋に入っても、即ベッドに倒れ込むのは不可能な設計。おそらく二つ以上の部屋の壁をとっぱらって、つなげたのだろう。ベッドは天涯付き。支柱は頑丈そうな木材で、製造から百年は経過してそうだ。部屋の片隅にはホテルよろしくミニバーが設えてあり、その横の壁面には絵画が列になって並んでいる。うちから入れた絵は一番隅に立てかけられていた。隣には充分な空きスペースがあり、これからまだまだ絵画が増えていくことを予想させる。

「表現主義とロマン主義が隣り合ってたりするけど、気にしないで」とテッドは言った。「買った順に並べてるんだよ。その方が自分にはわかりやすいから」

 おれは納品した絵をチェックし、傷や汚れがないことを確認した。商品は完璧。テッドも気に入ってくれたようで、まずは良かった。改めて礼を述べ、帰ろうとすると、彼は「そう急がなくてもいいだろ?」と言う。

「祝杯をあげるのに付き合ってくれないか? ぼくは絵を入れるといつも酒を飲むんだ」

 これまでのところは順調そのもの。高価な花瓶か何かをひっくり返す前に、ここを出たほうがいい。おれはいかにも困ったような表情をつくり、「そうしたいところですが」と断わりの文句を口にする。

「おれの上司は鬼なんです。時間内に戻らねば、おれのデスクに火を放つと」

「きみの上司ににはぼくから言っておくよ。酒はなにが好き?」

 酒───。絵画の管理だってあれほどなんだ。酒だってそれに劣るとは思えない。凝り性のテッドのバーに、興味がないと言ったら嘘になる。今まで見たこともないような、これからも見ることができないような、そんな珍しいボトルがあるのではという期待が頭をよぎった。

「ちょっと変わった酒があるんだ。それで乾杯しよう」

 テッドはそう言うと、早々、バーカウンターへと向かった。まあ、少しぐらいならいいか。あまりしつこく断わるのもかえって失礼だし。プールで泳ぐのと比べれば、乾杯くらい大したことじゃない。

 おれはスツールに座り、テッドはカウンターの向こうに立っている。なんだか映画のワンシーンみたいだ。バーマンの衣装を彼に着せたら、さぞ似合うだろうなと考えながら、おれは客らしく、「それにしてもこちらは素敵なお宅ですね」と、当たり障りの無い会話を選んだ。

「外観を目にして圧倒されました。どのくらい昔のものなんですか?」

 テッドはバックバーに向かい、酒を探しながら、「ゴシックだから、千年くらいじゃないか」と適当なことを言う。

 おれはちょっと愉快になり、「それは嘘でしょう」と指摘する。「これは見たところ18世紀後半から19世紀あたりじゃないかな。ゴシック・リバイバルがブームだったのはそれぐらいの時期だから」

「やっぱり知ってたか」テッドは振り向いて笑い、「完璧に正解」と満足そうに言った。「きみの言う通り、この家は二百年ほど前に建てられたんだよ。さすがに詳しいね」

「デザインの見地からなら多少。構造の部分はまったくわかりません。ところで、これは何かのテストなんですか?」

「いや、別にきみを試したわけじゃないんだ。ただ、この家を素敵と言うのは、どの観点からかと思ったものだから……」

「観点とは?」

「うん、どうやらきみの観点は値段にはないようだ」テッドは頷き、言葉を続けた。「だいたいは、“素敵なお宅ですね”ときて、“で? いくらしたんですか?”と、顔に書いてあるんだよな。絵にしてもそう。“うわあ、そんなにするんですか!”とかさ。ぼくは値段じゃなく、実際の価値を見てもらいたいのに。まったくガックリくるよ」

 バーに移動して気分がほぐれたか、テッドは突然あけすけに話しだした。ハリウッド俳優にも苦労はある。めったに他人に聞かせる話題じゃないだろう。

「おれだって、金額が気にならないわけじゃありませんけどね」

 こっちもまた、彼に合わせてあけすけになる。男同士、酒を前にして、慇懃になることもない。

「あんな素晴らしい絵画の部屋を見せられて、価格のことがまったく頭をよぎらないと言えば嘘になる。でも同時に、それが重要でないことも分かってますから」

「そう、重要なポイントさえ分かっていてくれればいいんだ。ぼくだって金に無欲ってわけじゃない。ある程度の蓄えがあってこそ、絵画を収集できるわけだしね」

 おれは心から芸術を愛する者に対し、無条件に好感を持つところがある。それは、アートを資産(つまり金のカタマリ)としか見ようとしない輩と、多く接し過ぎた弊害かもしれない。財力と地位を確立していながら、単純に“絵が好き”というところに留まっている人は、明らかに少ない。テッドは数少ない“リッチな芸術愛好家”のようだ。

「さあ、どうぞ」テッドがグラスを差し出した。それは淡いグリーンの液体。

 “変わった酒”とはアブサンのことだった。ランボーが詩に謳い、ロートレックが絵にし、ゴッホが中毒して耳を切り落とした禁断の酒。この古めかしいバーで絵画を眺めながら味わうに相応しい。

「今度やる映画に、この酒が出てくる。小道具で使ったのを貰ってきたんだ」

 グラスの上にヘラのようなスプーンを渡し、そこに角砂糖を乗せて、火をつける。青い炎が幻想的に立ちのぼった。

 魔酒と呼ばれたアブサン、現代では無論、販売されていない。いま流通しているのは、中毒の原因であるニガヨモギの成分を減らした新製法のもの。バーのメニューで見かけることはたまにあるが、試すのは初めてだ。

「じゃあ、乾杯」とテッドが微笑み、おれたちは杯を掲げる。口をつけると、爽やかな香りが広がった。クセはあるが、アルコール濃度は高くない。独特の風味はあるものの、全体的にさっぱりしていて飲みやすい。

「今度の映画はどんな作品ですか?」

「十九世紀の物語なんだ。ぼくは作家の役で、アブサンに毒を盛られて、血を吐いて苦しむシーンがある」

「それで?」

「あとは劇場公開をお楽しみに」パチンと片目をつぶるテッド。なんてクール。エイミーじゃなくとも、この状況の価値はよくわかる。世界的に有名なセレブと杯を交わすのは、正直まったく悪い気分じゃない。

 テッドはカウンターに身を乗り出し、「きみの目の色はちょっと変わってるね」と言って、おれの顔をじっと見た。「それは何色って言うんだ? ブルー? グレー? 角度によって変化するようだけど」

「その両方なんじゃないかな。つまりブルー・グレー」

「一晩中、見続けても飽きないだろうな」

 一晩中? なんだか変な台詞だ。いや、変なのは台詞だけじゃない。この感覚はなんだろう。頭がぐらぐらするし、なんだか吐きそうだ。

 おれが額に手を当てると、テッドが「どうした?」と聞く。

「すみません、ちょっと気分が悪くて……バスルームをお借りしても?」

「ああ、こっちだ」

 トイレに入った途端、胃袋がひっくり返った。胃の中はほとんど空で、出たのは今しがた飲んだ酒と胃液だけだったが、それでもまだ気分が悪い。風邪だろうか。それともアブサンのアレルギーか。

 バスルームを出ると、外で待っていたテッドが「大丈夫か?」と、心配そうに訊ねる。あまり大丈夫ではなかったが、一応は無事だ。おれはよろめき、少し休ませてもらえないかと申し入れた。

「ああ、もちろん。よくなるまでゆっくり休むといい」

「すみません……たしかに酒は強いほうじゃないけど、いつもはこんな……」

「いや、謝るのはこっちなんだ」おれの謝罪を遮ってテッドは言った。「実はさっき、酒のなかにドラッグを入れた」

「は……?」一瞬、意味が飲み込めず、おれは言葉を失ってしまう。テッドは矢継ぎ早に、「でもほんの少量だった」と説明した。「何ていうか、ちょっとしたスパイスのつもりで入れたんだ。楽しんでもらえるかと」

 スパイスのつもり? ドラッグ? 

「でもまさか、具合が悪くなるとは思ってもみなかったから」

 ……なんてこった。なんてことしやがるんだ。この“スター”め。

「それに伏線は張ってたつもりだった。アブサン、あれは十九世紀のドラッグだろう?」

 阿呆かこの野郎。なにを抜け抜けと主張しやがる。おれは感情を抑えて「死んだらどうするんですか」と、つぶやいた。「もしおれがドラッグに抗体がなくて、それが元で死んだりしたら……あなた破滅だ」

「苦しいか? 医者を呼ぶ?」

「横になってりゃ、じき治ります」

「ああ、そうだ。とにかくベッドへ」テッドはおれの背に手を添えて「休んだほうがいい」と言う。支柱つきの寝台に寝そべると、少し楽になった気がした。このままマットレスの中に沈み込んで、埋まってしまいそうな感覚を覚える。いや、これはドラッグの効果か。妙なもんだ。

 不安げな顔つきで覗き込むテッド。おれは彼を見上げ、「冗談にもほどがある」と言った。「いいですか、二度とこんなことをしてはいけない」

 テッドはうつむき、「悪かった」と悲しげに言った。

「まったく、なんだってこんな真似をしたんですか」

「わざわざ呼んだっていうのに、きみが急いで帰ろうとするから。ネクタイを外して、ちょっとくつろいでもらおうと思ったんだ」

 どんな理屈だ。行為を正当化するにしても、もっといい言い訳があるだろう。あまたのゴシップ誌で書かれているように、この男は本当に低能なんだろうか。

 おれは完璧にあきれかえり、彼に言った。

「〈ヤング・ロビンフッド〉のヒーローの言い訳とは思えないな」

「あの映画は酷評されたんだ」

「知ってる。“面白かった”って言ったおかげで、三日もクラスメートにからかわれたから」

「面白かったって? あれを?」

「今見たらどうかはわからないけど、当時はね。公開してすぐに見たから、世間の評価も知らなかった」

「あれを面白いと言ってくれた人に初めて会ったな。だいたい皆、〈シューティング・ゲーム〉を褒める」

「もちろん〈シューティング・ゲーム〉は最高。あなたの裸が無駄にたくさん出てくるしね」

「女性が極端に少ない作品だから、画面を色っぽくしようって監督の案なんだ。あんなにやたらと部屋で服を脱ぐ殺し屋がいるわけないって言ったのに」

 おれが笑うと、テッドも笑った。そして彼はかがみ込み、おれの額にキスをする。彼のコロンが鼻をくすぐる。ウッドをベースにしたスパイシーな香り。

「ディーン……本当にごめんよ」ささやく彼の唇は頬に移動中。ごめんと言いながらすることとは思えない。頬の次は耳ときた。おい、こっちは動けないんだぞ?

「テッド……ちょっと……これはないだろ……」首筋に彼の吐息を感じ、おれは溜め息をついた。なんだかとても情けない気持ちだ。

「あまりにもひどい……がっかりだ……」

「“俳優テッド・ディランの正体見たり”か? 銀幕のヒーローがこんなで失望したろうな」

「そうじゃない……いや、それもあるけど……そうじゃない」

「どういうこと?」

「おれは有頂天になってたんだ。あの展示会で、絵画販売員としての手腕を買われたのかと。それが蓋を開けてみれば、こんな……人買いみたいな……」

「人買いだって?! ちょっと待ってくれよディーン!」跳ね起きるテッド。「ぼくはそんなつもりは少しもなかった! きみはぼくが権力でもってきみの横っ面をひっぱたいたって思ってるのか?」

 おれは答えなかった。

「だとしたらそれは違う。絶対に」

 正しかるべき者の目。リチャード・キンブルみたいに無実って顔だ。一服盛ったくせに。

「たしかにきみに一服盛った」

 そうだろ。

「でも、それは“はずみ”っていうか……ポイントはそこじゃないんだ」

 ポイントはそこじゃないだって? おれには重要なことだ。

「ぼくはいつもはこんなことしない。絵を観に行って、そこにいるスタッフに『あのピカソとユトリロを買うよ。ついでにきみもね』なんてことは」

 ここでおれは不覚にもちょっとウケてしまった。おれが笑ったので、テッドはいくらかほっとしたように見えた。

「な? そんなの馬鹿馬鹿しい。ありえないよ。ぼくはきみに惹かれた。それは間違いない。きみの解説はわかりやすくて、聞いていてとても楽しかったしね。販売員としての手腕を認めたと言ってもいいだろう。だが、ぼくが感じたのはそれだけじゃなかった……」

 言葉を切り、意味深げにおれを見つめる。あとは察してくれってことか。まったく上手いもんだ。『ポイントはそこじゃない』なんて、他のヤツが言ったら調子のいい詭弁に聞こえただろう。しかしこっちはすっかり彼の台詞に聞き惚れてしまった。オスカー俳優の演技力おそるべし。

「キスをしてもいいか?」

 吸い込まれそうな瞳で歌うようにテッド。おそろしくハンサムな顔がおれの至近距離にある。

「ディーン、きみにキスしたい」

 孤高の探偵。無情な殺し屋。妻の浮気に心を痛める夫。連続殺人犯を追うFBI捜査官。中世の騎士。エイリアンと戦う科学者。そして若きロビンフッド……そのすべてがおれにキスを求めている。

「キスをしても?」

 そんなこと聞くなんて卑怯だ。

「キスするよ」

 反則だ。

「キスを……」

 おれは目を閉じた。閉じてしまった。ああ、とても信じられない。これこそが映画なんじゃないだろうか。それにしてもなんて……なんて上手な……。ニコール・キッドマンもジュリア・ロバーツも、“テッドはキスがうまいわ”って思ったに違いない。

 彼の手がおれの身体をまさぐっている。残念ながら少しも嬉しくない。これがナタリー・ポートマンだったら素晴らしい展開なのだが。

「ちょっと……あの、テッドさん」顔を離し、エスカレートする彼の手を制する。

「おれ、具合が悪いんです。よければひとりでちょっと眠りたいんですが……いいですか?」

「ああ、もちろん。隣の部屋にいるから、何か必要だったら呼んでくれ。水を持って来ようか?」

「いえ、結構です」

「じゃあ、おやすみ」

 テッドは部屋から出て行った。

 ───やれやれ、ヤバかった! ドラッグの量がもっと多かったら、おそらく抵抗できなかったに違いない。と、いうことは、そうか、彼はゲイだったのか。テッド・ディランはゲイ。なんてことだ、こいつはゴシップだ。そのゴシップネタに自分も含まれそうになったのはもちろん頂けない。たとえトップ記事であったとしても、テッド・ディランと一面を飾るのは御免だ。

 ひとりで眠りたいと言ったものの、薬が効いているのと、衝撃の事実を目の当たりにしたのとで、ちっとも睡眠どころじゃない。ローマンがこのゴシップを知ったら何と言うだろう。きっとみんなに言いふらして、翌日にはマンハッタン中の誰もがこの事実を知ることとなる。同窓会でエイミーに会ったら自慢しようと思っていたけど、この展開じゃ何も言えないな。ママには少し話してもいいか。でもやっぱりキスのくだりはカットだ。

 ぐるぐるとどうでもいい考えを巡らせていると、突然ドアが勢いよく開いた。

「テッド!」若い男の声がしたかと思うと、ベッドに誰かが飛び込んでくる。その誰かはおれを抱きすくめ、「メキシコの撮影は最悪だったよ!」と訴えた。

「とにかく暑いし、ハエがいっぱいいて……ああ、もうすっごく会いたかった!」

 強引にキスされ、目を白黒させていると、相手は「うわっ!?」と驚いたような声を発して、おれから離れた。

「あんた誰!?」と叫ぶ男に、“おまえこそ誰だ!”と言いたかったが、こっちは相手の顔を知っている。直接の面識はないが、スクリーンで何度か見た顔だ。

 おれの記憶が確かなら、彼は昨年、ゴールデングローブの助演男優賞にノミネートされて、一昨年にはラジー賞(最低演技賞)を受賞した若手俳優。ピープル誌は“今一番ホットでイケてるアクター”という見出しで、目の前の男、ジョナサン・オズの記事を書いていた。

 ジョナサンはじっとおれを見て、突然、合点したように、目を見開いた。そしてまた細め、「テッドのやつ……」と低くつぶやき、ドアの方に向かって早足で移動した。

「テッド! テッド! どこにいるんだ!? 話がある! 出てこいよ!」

 なんだ? いったい何がどうなっている? それにしても今日は何て日だ。男から二度もキスされるなんて。三度目がないことを切に祈る。おれのポールは別として。

「ジョナサン! いつ戻ったんだ? メキシコにいたんじゃなかったのか?」

「おあいにくさま! 撮影が早く終わったんだよ! 浮気の計画がオシャカになってガッカリだよね!?」

 ちょっと待て、これはもしかして……ジョナサンとテッドは……そういうことなのか? すごいスキャンダルだという下世話な気持ちがムラムラとわき上がる。廊下から響くやりとりに、おれは耳を澄ませた。いや、“澄ませる”なんてしなくても充分よく聞こえるか。彼らは大声で怒鳴り合っていた。

「浮気の計画だって!? 何を言ってるんだ!? 彼はなんの関係もない! 絵を納品してもらっただけだ!」

「はあ?! なんだそれ! 絵のセールスマンがなんであんたのベッドで寝てるんだよ!」

「来てから具合が悪くなったので、休ませてる」

「もっとマシな言い訳はなかったわけ? 本当だとしても、自分のベッドに寝かせるなんてどういうこと? 他に部屋はいくらだってあるだろ?」

 言われてみれば、その通り。薬を飲まされ、天蓋付きのベッドに寝かされた。その時点で彼の魂胆に気がつかないおれも馬鹿だ。

「他の部屋に移動する間もなかったんだよ。彼はこの部屋で酒を飲んでて具合が悪くなったんだから」

 具合が悪いってのは事実だが、一服盛られたのも事実。はっきりした罪状のあるテッドは不利、ジョナサン優勢。

「あんたって奴は、目を離すとすぐこれだ。ほんと最悪……」

「ぼくがなにをしたっていうんだ?」

「しようとしてたくせに!」

 しようとしてたよな。間違いなく。

「あんたは最低の男だ! そもそも前にも…」

 そこから先は、罵詈雑言の嵐だった。考えなしだの、人の気持ちがわからないだの、自信家で鼻持ちならないだの……ああ、なんだか耳が痛いのは気のせいだろうか。一方的に非難されるテッドが、だんだん哀れに思えてきた。助け舟を出したい気持ちに駆られ、おれはベッドから降り、廊下に出た。

「あの、お話し中に失礼ですが……」

 遠慮がちに声をかけると、二人は一斉にこちらを見た。おれはジョナサンに自己紹介し、彼の前に進み出る。

「説明させて欲しいのですが、オズさん、あなたは何か思い違いをなさっているようです。テッドとわたしはあなたが思っているような……」

「あんたに聞いてないよ」

 つっけんどんにさえぎるジョナサン・オズ。それから奇妙な笑いを立て、「わかってるよ、テッドと寝たかったんだろ?」と皮肉な口調で言った。

「やれなくてあいにくだったね。彼はぼくのものなんだ。芸能人とファックしたきゃ他を当たるんだな」

 “このクソガキ!その横っ面をひっぱたいてやるぞ!” おれの脳がそう思うより早く、おれの右手はそれを実行に移していた。叩かれたジョナサンは頬を押さえ、びっくりした表情をしている。自分でもびっくりだ。初対面の人間を──しかもハリウッド俳優を──平手打ちしたことなど、未だかつてないことだ。

 ジョナサンは顔を真っ赤にし、おれに人さし指を突きつけ、「おまえをクビにさせるからな!」と叫んだ。彼のこめかみには血管が浮き上がっている。

「いいか! おまえの会社に言って、おまえをクビにしてやる!」

「ジョナサン! やめるんだ!」テッドが制したが、ジョナサンは構わず続けた。

「ぼくを殴るってのがどういうことか、それで理解するだろう。その時にはもうすべて手遅れだけど」そして不敵に笑ってみせる。嫌なツラだ。

「おまえはクビ。明日からは無職だ。おめでとう」

 よぉーくわかった。こいつはスターなんかじゃない。世間に甘やかされた最低のクソガキだ!

 おれはジョナサンに歩を詰め、「やれよ…」と低くささやいた。「クビだと? やってみろ、このクソガキ……みんながおまえにひれ伏すと思ったら大間違いだぞ」

 “ミスターL”の効果てきめん。どうやらクリント・イーストウッドが乗り移ったらしい。詰め寄るおれを睨むジョナサン。しかし言葉は発さない。

「おれにもヤキモチやきの恋人がいるんでね。今みたいなやりとりには覚えがあるよ。とはいえ、おれの恋人はおまえほど分からず屋でもクレージーでもないんだ。いいかクソガキ。そんなにキイキイ喚くと、いずれほんとにテッドに捨てられることになるぞ。おれとテッドは何の関係もないんだ。それなのに彼の言い分も聞かず、怒鳴り散らすとはな。ボーイフレンドのことを本当に愛しているなら、怒りをぶちまける以外の愛情表現を学ぶべきだ」

「だまれよ! 偉そうに言うな!」

「よく覚えておけ。今みたいなことをし続ければ、おまえはいずれ、ぜったいに捨てられる」

「うるさい!」

「三歳児ならともかく、大人のヤキモチは可愛くな……」

 おれが言い終わるより早く、ジョナサンが飛びかかってきた。一緒に床に倒れ込むと、その拍子におれのシャツが破けた。襲撃者のベルトを掴んで引き離そうとするが、彼の手はしっかりとシャツを捕まえている。無理に押し返すと、さらに破ける音。おれの横っ腹にジョナサンの拳がヒットする。こっちもお返しにみぞおちに蹴りを入れた。

「ふたりともやめろ! たのむからやめてくれ!」

 テッドは大声を出したが、手を出す気配はない。その間にもおれたちはボカスカやっていて、ジョナサンはおれの歯で拳を傷つけ、おれの唇はジョナサンの拳によって切れた。ようやくテッドが間に入って野良犬の喧嘩は終了。気づいてみれば、服はボロボロ。ところどころに血がついている。もうめちゃくちゃだ。こんなことになるんなら、プールで泳いじまえばよかった。

 テッドは詫びたが、ジョナサンは「死んじまえ!」と捨て台詞して寝室に消えた。おれもテッドに謝った。するとテッドがまた「申し訳ない」と言ったので、おれもまた「こちらこそ」と謝罪する。おれたち、なんだか馬鹿みたいだ。何がどうしてこうなったのか、誰が一番悪いのか。もうよくわからないが、とにかく謝る以外のことを思いつかない。それはテッドもそうなんだろう。

 スターとキスして殴り合った日。おれは日記をつける習慣を持っていないが、もし書いたとしたら、何ページも綴るハメになっただろう。後から読んだら楽しめるに違いない。人の不幸はときとして傑作たりえる。かのチャーリー・チャップリンは、人生を『近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇である』と述べている。いつかこの出来事を遠目から見ることができるようになったとき、きっとおれは笑うんだろう。早くその日が来るといいが。



 翌日───。まさかこんなに早く、後から読んでも笑えない展開になるとは想像だにしていなかった。

 コーヒーを買いに出て席を外し、デスクに戻ってみると、パソコンの画面にポストイットが貼ってあるのが目に入る。

《ジョナサンよりTEL 至急返信要 S》

 色気もそっけもないメモ書き。“S”のイニシャルだけで通用するのは、もちろんシーラだ。

 ジョナサン・オズからの電話。彼はよりによって、シーラに直談判したのだ。

 ……終わった。おれのキャリアはここでおしまいだ。たしかに「やってみろ」とは言ったが、まさか本当にやるとは思ってもみなかった。

「シーラを電話番にするとは、大した度胸だな」同僚のジェドが横から口を出す。「おまえ、自分の電話番号を顧客に伝えてないのか? 彼女、怒ってたぞ」

 ニヤついた表情で、デスクからおれを見上げるジェド。おれがシーラからとっちめられるのがそんなに楽しいのだろうか。いや、楽しいんだろうな。こいつの人生には、娯楽らしい娯楽がなさそうだし。

「シーラはどこに?」

「おまえのことを探してたけど、午後から社長と出かけなきゃならないって、出てったよ」

 はは、そうか。社長にまで通じるとは、話が早い。これであと数時間後に、おれのIDカードは剥奪され、段ボール箱ひとつを手渡され、オフィスから蹴り出される。家賃の心配をし、明日からは就職口をさがしてかけずりまわらなくてはならないのだ。ああ、ああ、ああ……。

 モニターからポストイットをはがすと、その裏にもう一枚、別のカラーのポストイットが貼ってあることに気がついた。そこには携帯の電話番号があり、ジョナサン・オズと書いてある。この周到さは、まさしくシーラ。たとえ社内であっても、個人情報を表に晒さないという徹底ぶりだ。

 オフィスを出て、廊下の突き当たりの狭い場所に移動し、おれは自分の携帯からジョナサンの番号にかけた。社内の電話で口汚く罵られるのは、さすがにきついと判断したためだ。それにここなら泣いても誰にもバレない。

 呼び出し音を聞きながら、彼の嫌味と勝利の嘲笑とを予測し、甘んじてそれを受ける覚悟を決める。この間は怒りとドラッグとで気持ちが高揚していたが、今のおれにイーストウッドの勢いはないんだ。だいたい何であのとき、彼と取っ組み合ってしまったのか。いつもだったら「失礼しました」とか言って、さっさと出ていっただろうに。思うに、アブサンにやられたおれの脳は普通の状態ではなかったわけで……なんて今さら言っても、もう遅い。呼び出し音を聞いていると、頭の中でドアーズの曲が流れ始めた。

 ───これで終わりだ、美しき友よ。おれの唯一の友よ。立ちあがっているものすべてが、終わりなのだ……───

「もしもし?」

 ジョナサンだ。ドアーズを止めて、おれは名を名乗る。すると彼は「かけてくれてありがとう」と丁寧に礼を言った。

「おれをクビにして満足だろう?」と聞くと、「クビ? きみはクビになったの?」と聞き返す。

「おれの上司に直談判したんじゃないのか?」

「まさか、そんなことしない。あの……こないだはほんと……何ていうか……ぶってごめん」

 なんだこれは。いきなり殊勝になった。こうやって油断させる作戦なのだろうか。

「ついカッとなってしまって、悪かったと思ってるんだ。ねえ、きみはクビになったの?」

「あ、いや、そういうわけでは……」

 おれが話している相手は、この間の生意気な小僧と同一人物なのか? かつがれている可能性も否定しきれないが……。それともテッドがジョナサンに謝るように命じたとか?

「そこにテッドが?」

「いないよ。ぼくひとり。テッドにはきみに電話したことは言ってない。ね、あのさ、聞きたいんだけど……」わずか黙り、「ほんとにぼくは捨てられると思う?」と彼は言った。

「きみはこないだ言ったよね? “今みたいなことをし続ければ、いずれ絶対に捨てられる”って」

 ああ、そういえば言ったな。喧嘩の上での言葉だったが、ジョナサンは本気にしたのか。

「ぼくは捨てられる? テッドに嫌われてしまうと思う?」

「それは……自分ではどう思うんですか?」

 おれがそう聞くと、ジョナサンは黙った。携帯の電波が悪くなったのではなさそうだ。しばし待ったのち、彼が発したのは、「わからない……」という、か細い声。

「嫌われるような気もする。でも彼はぼくのことを愛してるって言ったんだ。それは嘘じゃないと思うのに、彼のことが信じられない。テッドは気が多いんだ。ぼくだって恋人に対してもっと寛大でありたいって思うよ。でもそれは時に難しい。あんたみたいなハンサムがベッドにいて、それで『いいよテッド、きみの好きにしていいんだ』なんて、とても無理だ。ぼくは怖いんだ」

 “あんたみたいなハンサム”。ジョナサン・オズにハンサムと言われた。『なあ、今のところもう一回言ってもらえない? 友達に聞かせたいから録音しても?』……おれがこんな考えを持つ奴だとは、ジョナサンも思っていないだろう。ジョナサンは“スターをひっぱたく男気のあるディーン”に相談しようと、電話をかけてきたのだ。

「どうやって彼を愛したらいいかわからないんだ。彼の行動がぼくを不安にさせる。不安でどうしたらいいかわからなくなるんだよ」

 ジョナサンは早口でまくし立てる。可哀想に。不安のあまり、パニックになっているのだろう。おれは何か彼のためにしてやりたいと思った。間接的にとはいえ、おれがジョナサンの不安感を煽ってしまった責任もある。

「なあ、ジョナサン。よかったらウチで続きを話さないか? この手の問題については、おれよりポールのほうが詳しい」

「ポールって?」

「おれのボーイフレンドだよ」



 突然のスケジュール変更。ポールには手短にメールを入れた。

《今夜、ジョナサン・オズをつれてかえるけど、びっくりするなよ》

 しかしこれで意味が通じるだろうか。イタズラメールと間違えられなきゃいいが。

 帰宅し、ジョナサンを紹介すると、ポールは「どうも」と微笑み、「ゆっくりしてって」と言ってキッチンに消えた。おれはジョナサンをソファに座らせ、客のためにコーヒーを淹れるポールの背後から、「驚かなかったか?」と小声で聞いた。彼はカップを並べながら、「だって“びっくりするな”って、きみのメールに」と応える。

「そういう問題か? 本物のジョナサン・オズだぜ? 銀幕のスターが3Dで登場しても、何とも思わない?」

 ポールは笑い、「驚いてほしいのかそうじゃないのかわからないな」と言った。

 彼の務める美容室は、芸能人ご用足しの高級サロン。ポールはおれよりはるかにセレブに慣れている。映画俳優くらいじゃ動じないというのは頼もしいが、もうちょっと初々しいリアクションが欲しかった。

「でも何だっていきなりジョナサン・オズなの? きみと友達だったって聞いたことないけど」

「つい先日、知り合いになったばかりなんだ。おれの友達じゃない。ジョナサンはテッド・ディランの友達なんだよ」

 そこで今に至る経緯を、ざっくりと話して聞かせた。ジョナサンとテッドが“特別な関係”であることも含めて、ざっくりと。

「……ってなわけで、驚きだよな。彼らが恋人同士だなんて」

 おれがそう言うと、ポールは「〈朝日の当たる家〉で年の離れた兄弟の役で共演してたから、それ以来付き合ってたんだろうね」と冷静に分析した。

「驚かなかったか?」

「なにが?」

「ジョナサンとテッドは付き合ってたんだぜ?」

 ポールは少し妙な表情になり、「あまり……」と言葉を濁した。「何て言うか、それは知ってたから」

「知ってた?」

「ぼくたちゲイの仲間うちでは、二人がデキてるってのは暗黙の了解だよ」

 遠慮がちに言うポールに、驚いたのはこっちだ。とてつもないゴシップだと思っていたのはおれだけってことか? “ゲイ・ネットワーク”は、つくづくあなどれない。

「オバマとバイデンもデキてるか?」

「それは知らないけど。コーヒーを運んでくれる?」

 おれはコーヒーを運び、それから二人が話すのを聞いていた。ジョナサンはテッドのことについて語り、ポールは自分の経験について語った。机上の空論や、もっともらしいアドバイスはない。どちらも打ち解けて話をしていて、おれの出番はなさそうだ。

 キッチンでコーヒーを淹れ直していると、携帯が鳴った。見覚えのない番号だったが、特に何も考えずに応答する。

「はい」

「やあ、先日はどうも」

 先日? 誰だ? おれが黙っていると、通話の相手は「テッドだ」と言った。

「テッド、驚いた……どうしておれの個人的な電話番号を?」

「きみの上司に聞いたんだ。気に触ったらごめん」

 シーラだ。部下の個人情報を勝手にリークしたのは、“電話番”にさせられたことへの報復か? もっとも、最重要顧客であるテッド・ディランに電話番号を聞かれたら応じないわけにはいかないだろう。

「訊ねたいんだが」とテッド。「きみの会社にジョナサンが行かなかったか?」

「会社には来てませんが、今うちに居ます」

「それは……まさかまた……」

「ああ、いえ、大丈夫です。ただ皆で話をしてるだけですから」

「皆って?」

 そこでおれは、今に至る経緯を、ざっくりと話して聞かせた。おれに同居している彼氏がいることも含めて、ざっくりと。するとテッドは「そうか、よかった」と、安堵の溜め息をついた。「ジョナサンの姿が見当たらなくて心配になったんだ。ネットの履歴を見たら、きみの会社のホームページと、マンハッタン島までの行き方を調べた形跡があった。ジョナサンは行動力のある奴だから、昨日言ったことを実行に移したのかと」

「そこのところは安心してください。でも別の点については多少、心配の余地はあるでしょうね」

「別の点とは?」

「あなたたちの関係性についてです。ジョナサンはとても不安がってる。聞くところによると、あなたはとんでもない浮気性だとか」

「ジョナサンがそんなことを?」

「ええ。でも彼に聞くまでもないですよ。おれはあなたと二時間一緒にいて、それが事実であることを目の当たりにしましたから」

 テッドは「それは……」と言ったきり、黙ってしまった。この件に関して、うまい言い訳など見つかるはずもない。

「おれがこんなことを言うのも何だけど」と前置き、「もうすこし後先を考えて行動すべきなのでは?」と言うと、「別にぼくだって浮気を肯定してるわけじゃない」とテッドは応じた。

「信じてもらえないかもしれないけど、ぼくに浮気している自覚はないんだよ。ただ何となく、注意がいくんだ。魅力的な男性にぼくは惹かれる。それは自然な感情で、どうやっても否定できない。気がつくとその人のとなりにいて、話をしてる。髪に触れたいなと思う。そして触れる。魅力的だと思っていることを相手に伝える。すると相手もそう思ってくれていたりする。そしていつの間にかベッドに入ってる。ぼくにとってはどれもとても自然な流れなんだ。ジョナサンに当てつけてやろうとか、ましてや傷つけてやろうなんて思ってない。もちろん彼のことは好きだよ。愛してる。でもそれとこれとはまったく別なところに位置する感情なんだよ」

 まくしたてるテッド。その弁論に『よくわかります!』と、叫びたい衝動にかられたが、ここで同意してしまうわけにはいかない。おれは落ち着いた声で「あなたの気持ちは、わからなくもないです」と、微弱な賛同を見せた。

「とにかく今夜、ジョナサンと話すことですね。彼は今うちにいるから、あと五時間後ぐらいにはそっちに帰……」

「ああ、いや、そのことだけど」テッドは遮り、「実は今、きみのアパートメントの前にいる」と言った。

「なんですって? どうしてそれを先に言わないんです」

「言いそびれたんだ。きみの電話番号を勝手に調べたことで気を悪くしたかと思ったから」

 なんだそれは。丁寧を通り越して、小心すぎやしないか? この人は繊細なんだか無神経なんだか……たぶんその両方なんだろう。

「じゃあ、上がってきてください。今、施錠を解除しますから。皆で話し合いましょう」

 通話を切ると、居間からどっと笑い声が響いた。あっちは楽しそうだな。テッドが来て泥沼にならなきゃいいが。

 せっかく淹れ直したコーヒーは冷めてしまった。またやり直しだ。テッドがここへ来る。またいちから仕切り直すとしよう。



 テッドの姿を見ると、ジョナサンは気まずいような顔をし、テッドの方は無理やり作り笑いをした。ぎこちない再会。ここからうまく二人の関係をほぐすことができるだろうか。おれはこういうことが、まったくと言っていいほど得意ではない。ここはポールの手腕に期待しよう。こっちはせめてコーヒーだけでも上手くセットするとか。とにかく、あまり役には立てそうもない。

 話し合いは、まずお互いの言い分を聞くことから始めた。相手に意見することなく、ただ黙って話を聞く。相手が言い終えたら選手交代。そして最後に全員でディスカッションする。これは会議でもよくやる手法だ。

 テッドが話す間、ジョナサンは不服そうであったし、ジョナサンが言うことについて、テッドは何か反論したそうだった。『ただ黙って人の話を聞く』というのは、意外と苦痛なものだ。特に彼らにとってはそうだろう。自分を主張したり、前に出て行くのを生業としてるんだ。かなりの我慢を強いていたため、ポールが「じゃあ、ここからは自由に話をすることにしよう」と言った瞬間、二人は堰を切ったように話し出した。

「テッドの言い分は勝手だよ!」とジョナサン。「悪気がなきゃいいってもんじゃない。それが自然だって言われても困るよ。だったらぼくはどうしたらいいわけ?」

 それに対してテッドは「別にぼくは自分を正当化したわけじゃない」と反論。「何がどうなっているのかという問いについての説明だ。“ぼくの性格はこうだ”と言ったからといって、きみにそれを受け入れろと強要するつもりはない。どうしたらいいかと聞かれても困るのはぼくのほうだ」

「それはわかるよ。でもこっちの気持ちはどうなるの? ディーンとテッドがキスしても許せって話?」

「キス?」聞きとがめ、ポールが言った。そして「なにそれ?」と、おれを見る。ジョナサンとテッドは会話をやめて、こちらを見た。都合、皆の視線がおれに集まる。

「どういうこと?」とポール。「彼とキスしたって?」

「まあ……多少は」歯切れ悪く、おれは答える。

「多少って何。キスに多い少ないの違いがあるわけ?」

 ジョナサンは「ごめん。言っちゃマズかった?」と、おれたちを交互に見た。

「てっきりディーンはポールに話してあるもんだとばかり思ってたから」

 申し訳なさそうに詫びるジョナサンに、ポールは「ああ、気にしないで。そこはいいんだ」と笑顔で言う。「マズいポイントはそこじゃない。だろ? ディーン? なんだって事実を隠したりするわけ?」

 ポールの口元は微笑んでいる。だが目が。目が少しも笑っていない。おれはヘビに睨まれたカエルのようになったが、勇気を奮い起こして「だから言ったろ」と剣呑に言う。

「おれはテッドの寝室で少し休ませてもらった。絵を納品しに行って、それで酒を飲んで具合が悪くなったんだ」

「うん、それは知ってる。でもソファか何かで休んだのかと。そこで何で“テッドのベッドで”って話になるわけ?」語気を強めるポール。

「他の部屋に移動する間もなかった。彼の部屋で気分が悪くなったんだ」

「それでキスを? 気分が悪いのにやることはやるんだ? そもそもどうしてお酒を飲んだりなんか? テッドのプライベートルームで飲酒するのも仕事のうちだっての?」

 確かにおれは一服盛られた被害者ではあるが、そこに至る経緯については、責任がないとは言い切れない。おれの持つ意地汚い思い(この場合、セレブのバックバーを覗きたいという浅はかなもの)が、おれを性的に見ている同性の魂胆に気づかせなかったことは間違いない。自身の判断力を鈍らせるのは、だいたいにおいてセコい動機だ。

「きみって人は、目を離すとすぐこれだ。ほんと最悪……」

「おれがなにをしたっていうんだ?」

「しようとしてたくせに!」

「してない!」

「どうやってその言葉を信じろっていうんだ!?」

「信じろ! テッドは男だ! おれがきみ以外の男になびかないのは、きみも知ってるだろ!?」

「初めての例外がセレブだってのは、実にきみらしいと思うよ」

「勝手に結論するな!」

「じゃあなんで黙ってたんだよ! 隠したのはやましいところがあればこそだろ!」

「おれはやましくない! 隠したのは、きみが怒り狂うことがわかってたからだ!」

「卑怯者! ぼくのせいにするな!」

「きみがこうまで怒りっぽくなきゃ、正直に話したさ!」

「ディーンの嘘つき! ばか! 浮気者!」

「浮気してないって言ってるだろ! このヤキモチ焼き!」

「ええと……ちょっといいかな」横からテッドが割り込んだ。「ディーンの擁護をするわけじゃないけど、彼とぼくは何もしてない。ぼくが無理に彼にキスを迫ったんだ。ああいう状況でなければ、ディーンはぼくとキスしたりなんかしなかったと思うよ」

 テッドがそう言うと、ジョナサンも「うん、そうだと思う」と同意した。「ディーンと話をしてみてわかったよ。彼は“スター・ファッカー”なんかじゃない。そこは信じてもいいと思う」(※スター・ファッカー = 芸能人と寝たがる人のこと)

 ポールは「そうだとしても」と小首を傾げる。「ディーンは基本的に浮気性だから。男は初めてだけど、女性に対してはすぐなびく」

「そうだとしても」とジョナサン。「そんなに怒鳴ったらディーンがかわいそうだ」

 するとテッドは「いや、ちょっと待って」とジョナサンに言う。「でもディーンも悪いだろ。ポールを追いつめたのは彼だ」

「でも」とジョナサン。「恋人にあんな言い方はないと思う。愛しているなら、もっと……」そこで目を伏せ、「ボーイフレンドのことを本当に愛しているなら、怒りをぶちまける以外の愛情表現を学ぶべきなんだよね……」と、自分に言い聞かせるようにして、つぶやいた。

「ああ、ジョナサン……」テッドは恋人の頭を引き寄せ、額にキスをする。「そんな悲しそうな顔をしないでくれ……胸が潰れそうになる」

「テッド……ぼくは……」

「もう何も言うんじゃない。ぼくが悪かった」

「悪いのはぼくだよ。ぼくもいけなかった」

「ジョナサン……」

「テッド……」

 二人は固く抱き合い、「愛してる」と、ささやき合う。映画のようなラブシーンが展開される中、おれとポールは無言だった。映画を見るみたいにして呆然と眺めていると、彼らは離れ、そしてクスクスと笑い合った。テッドが壁の時計を見、「もうこんな時間か」と言い、ジョナサンに「ジャケットは?」と聞く。

「持って来なかった」と答えるジョナサン。「日中は暑かったから」

「夜は風が冷える。ぼくの上着を着るといい」テッドは恋人にジャケットを着せ、「長居して済まなかった」と席を立つ。

 二人はおれとポールに丁寧に礼を述べ、手をつないで帰って行った。残されたのは冷めたコーヒーと、ひと組のカップル。

 いきなり静かになった部屋で、おれたちはしばし無言だった。

「……ピザでも食いに行くか」と、おれがつぶやく。

「……いいね」とポール。「チーズをダブルでトッピングしよう」

「それとハラペーニョも追加だ」

「だったらビールは絶対」

「ああ、それは外せない」

 おれたちは夜の街に出て、いきつけの店でピザをたらふく平らげた。サイドメニューにポップコーン・シュリンプとポテト・フライを山盛りでオーダー。サラダの類いは頼まず、国産のビールをがぶ飲みする。カロリーについては、おれたちどちらも口にしなかった。

 それにしても、あんなにあっさり仲直りするあたり、やはりテッドとジョナサンは深い繋がりのある恋人同士なのだ。メディアにおけるテッドの評判は“低能”とのことだが、話をしてみてわかった。彼は低能などではない。素直なのだ。それは子供のように素直すぎて、ときに周囲に迷惑をかける。作為も捏造もなく、人を好きになるテッド。そしてジョナサンは怒りっぽいけど、すぐに自己反省する謙虚さを持っている。思っていることをはっきりと口にする結果、これまた周囲に迷惑をかけたりするが、彼は失敗から学ぼうと努力もする。驚くべき行動力を備え、一途にテッドを愛し続ける。

 嫉妬深いジョナサンと鈍いテッドは、まるでおれたちのパロディ版みたいだ。それはかなりオーバーにデフォルメされていて、コメディ映画さながらに見える。

 家に戻る途中、ポールが「テッドのキスってどんなだった?」と聞いてきた。顔を見ると、怒ってはいない。ただ“興味深々”という感じで、目が輝いている。

「悪くなかったよ」と、おれは答えた。「さすがプロって感じだ。でも性的には惹かれないな。いくらキスがうまくても彼は男だ」

「ぼくも男だよ」

「それは知ってる。でもおれの特別な男だ」おれは恋人の頭を引き寄せ、頭にキスをした。するとポールは、くしゃみをひとつした。そして「今夜はちょっと寒いね」と言う。

「ジャケットはどうした? 店に忘れてきたか?」

「最初から持って来なかったんだ。すぐ近くだからいいかなって」

「夜は風が冷える。この上着を着ろよ」おれは恋人に自分のジャケットを着せた。

 幸せを感じる瞬間というのは、日常においていくつもある。コレステロールとカロリーを気にせず、好きなだけピザを貪り食うとき。会社をクビになったかと思いきや、それがまったくの杞憂だとわかったとき。風が冷える夜、恋人に自分のジャケットを貸すとき……。

『自分は幸せ者である』。それはテッド・ディランの家で、テッド・ディラン本人と談笑している瞬間にも感じられるが、なにより実感するのは、こんな夜。ポールと無言で肩を並べ、岐路につくときだ。

 それは日常、よくある場面だが、おれにとっては大事な瞬間。ポールはおれの恋人で、百万ドルのスターよりも特別な存在だ。

「おれって幸せ者だな」と、つぶやくと、彼はおれの手を握り、「うん、ぼくも」と可愛く言った。

 夜は冷えるが、我が家はすぐそこ。それだけのことだが幸せだ。おれとポールは、二人の家に帰るんだ。


END

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